出所者の生活や仕事の支援を行うNPO法人「マザーハウス」。ギャンブルがやめられず、窃盗で10回の逮捕を経験し、今年1月、4年半の懲役を終えた松本さん(仮名、76)は、ボランティアスタッフと共に受刑者へ手紙を書いたり、団体の会報を送る手伝いをしたりしている。
一緒に収容されていた高齢の受刑者たちについて松本さんは「同じことを何回も聞いたり、言ったりする。認知症まではいかないけど、それに近い人はいた。自分がそうなったら惨めだと思った」と振り返る。
自身も服役中に高齢受刑者の介護を経験したマザーハウス理事長の五十嵐弘志さんは「無期囚であれば社会復帰ができないような状況にあるし、だんだんと高齢化していく。自分のいた刑務所でも、認知症の予備軍が多くいたと思う。そういう人たちに“償え”と言っても、そもそもご本人が分かってないとこともあると思う。その状態で“やれやれ”と言っても難しいし、罪と向き合うことにも限界が出てくる。専門的な医療・介護が受けられる施設を用意し、その中で就業させたり、刑期を全うさせたりするべきではないか」と訴える。
2000年には907人だった高齢者(65才以上)の入所受刑者数は、2019年には2倍以上の2252人にまで増加、とりわけ70歳以上は270人は1295人まで激増している。また、刑務所では規律ある生活態度の維持や忍耐力の養成を図るために実施されている重要な矯正処遇、「刑務作業」が行われているが、認知症や体力の衰えから他の受刑者と同じレベルでの就業が難しく、作業時間の短縮といった配慮を受けている高齢受刑者もいるという。
五十嵐さんは「やはり、どんな人でも同じ人間だという見方が大事だと思う。刑務官もすごく大変だと思うが、私が関わった刑務官は親切だったし、高齢受刑者のことを思って対応をしてくれていた。特に無期囚で、かなり年齢がいっていたりすると、刑務官の言うことを聞いてくれない。それでも刑務官は、受刑者の不自由な身体を必死にサポートしている。一般の社会でも、寄り添ったり、話し相手になってあげたりして、その人たちが生きていけるようにしていくべきだと思うが、目の前に高齢の受刑者や出所者が現れた時、この人は私と違う、犯罪者なんだという見方をするのか、それとも私と同じ人間だという見方をするのか。やはり同じ人間としてみることが回復の道を歩んでもらうことだと僕は信じている」と話した。
龍谷大学法学部・犯罪学研究センター長で弁護士の石塚伸一教授は「高齢者による窃盗に関連して言えば、実は男性の施設よりも女性の施設の方が高齢率が高い。それは夫に先立たれ、子どもたちの世話にはならないと地方で頑張って一人暮らしをしている高齢の女性が、節約をしようとしてスーパーマーケットで万引きをしてしまう。最初は注意されただけで済んでも、鬱状態になっている場合には刺激や高揚感が忘れられなくて繰り返してしまうこともある。そうすると今度は執行猶予、そして実刑だ。実際、3年くらいの判決を受けて収監されている70歳ぐらいの女性も多い。
男性の場合も、今の70代は戦後のベビーブーム世代。そういう中で学校にも行けず、1人で生きてきたというような人が万引きや小さな窃盗をしてしまう。詐欺についても、大抵が食い逃げで、そういうことを“生存戦略”として繰り返しながら生きてきたような人たちもいる。中には90代で前科20犯なんて人もいる。やはり日本社会における孤独の問題が現れていると思うし、戦後を生き抜いてきた世代の中に、こういう人たちが塊としていることが事実だということだ」と指摘。
その上で、「こういうことを言うと怒られるかもしれないが、小さな万引きを繰り返して生きてきたおじいさんを、悪いことをしないで済むようにと高齢施設に入所させると、冷蔵庫にある他の人の牛乳を奪ってしまったりする。それがその人の生存戦略だから。道徳的な改善を求めたり、完全な人間にするというよりは、できるだけみんなに迷惑のかからないよう、その人なりの人生を全うするよう、考え方を変えないといけないと思う」と示唆した。(『ABEMA Prime』より)
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