「タスクが偏ってくるチームがあったりして…」「コミットできない部分で改善していることある?」「もう少し役割を明確にしてアサインを決めて…」の“横文字”ビジネス用語が飛び交う会議の様子。IT企業・株式会社ゆめみの日常風景だ。
その後も「レイヤー分けして分析できるので」「標準化のフレームワークを導入しようとしている」「営業はバイネームでプリセールスして」…と、様々なカタカナが飛び交っていたが、『ABEMA Prime』の番組スタッフが「ワンタイムでフィルタリングすればいいと思っている」との発言について、「“1回”じゃダメ?」と尋ねると、「それでも良いと思う。“今回だけは”と言っても良いと思う。何も言えない」と苦笑い。「他の人も使っているし、仲間うちでは説明しなくても意思の疎通が図れるから」「コミュニケーションの効率が高いと使っていて感じる」と教えてくれた。
【映像】これはウザい?便利?横文字ビジネス用語の必要性を新R25編集長と考える!
■「かっこいい、“仕事できる風”に装いたいから」
ウェブメディア『新R25』の渡辺将基編集長は「この会議風景を見て皆さん笑うかもしれないが、僕はインターネット業界にいるということもあって同じ言葉と普通に使っているし、“どこが面白いんだろう?”という感じだった。ただ、胸に手を当てて“何で使っているんだろう?”と考えたら、半分ぐらいはかっこいい、“仕事できる風”に装いたいという気持ちから使っているなと思ったし、業界を出ると当たり前だとは思わない方もいらっしゃるんだなと勉強になった」と笑う。
一方、キャリアコンサルタントの春木道洋氏は「やっぱり万人に伝わらない、小難しい言葉を使ってくるのはちょっとウザい(笑)。最初から仕事や作業と日本語で言った方が伝わりやすいのに、わざわざ“タスク”と言い換えて。もちろん全員が理解できれば構わないが、通じる人・通じない人をわざわざ確認するより、最初から使わない方がいいと思っている」と指摘する。
テレビ朝日の平石直之アナウンサーが「一時期KPI、KPIと会社で言われてうるさい、という話があった。でも、こういう言葉を日本語で言い換えてみるとなんとなくダサい、文脈にはまらないという感じがする。春木さんも、“キャリアコンサルタント”を“経歴相談士”とかにしちゃうとダサい」と突っ込むと、春木氏は「おっしゃる通り、その点は本当に“アグリー”だ(笑)。もっと分かりやすいようにお伝えできる方がよろしいと思うので、この部分に関しては要検討だ」とスタジオの笑いを誘った。
■「本来とは反対の意味になっている言葉も」
こうした社会の風潮に対して懸念を示すのが、慶應義塾大学の井上逸兵教授(社会言語学)だ。「ここまでの皆さんのお話は基本的に私も同感する。“アグリー”する(笑)。やはりカタカナ語が入ってくることは止められないし、諦めた方がいい。特にIT業界は訳すよりもそのまま使ったほうが速いし、元々の英語に近い意味で使っていることも多いのでいいと思う」とした上で、3つの点で問題があると主張する。
「日本語というのはご存知の通り、ひらがな、カタカナ、漢字に加えて、ローマ字も使っている。もうちょっと日本語の多層性を利用したクリエイティビティ…またカタカナで言ってしまったが(笑)、そういうものを上手く生み出して欲しいという思いがある。次に、話し言葉としては慣れているのだろうが、書き言葉としては漢字の方が圧倒的に速く読めるし、意味も分かる。もしカタカナばかりが並んでいたらどうだろうか。おそらく、読むのが面倒くさいということになると思う。
そして、国際化して、みんなが英語を使えるようになる方がいいと思うのならば、なるべく英語に近い意味で使った方がいいということだ。発音はしょうがないとしても、そのまま英語圏では使えないということも多い。例えば“アサインを考える”というが、“アサイン”は動詞なので“アサインメント”と言わなければならないし、“コミット”も同様に“コミットメント”と言わなければならない。
また、先ほど“かっこいいから”という話があったが、まさに海外から様々なものを入れ、形を残しつつ中身を変えちゃうのが日本の得意技だし、伝統だ。だから言葉についても、良くも悪くも意味がすり替わったり、反対の意味になったりしている言葉もある。逆に言えば、日本人は2000語くらいカタカナ語を知っていると言われているので、それらをそのまま英語圏でも使えるとしたら、メチャメチャ語彙力が高まるということだ。これは非常にもったいない」。
■日本初の言葉や“揺り戻し”も
ジャーナリストの堀潤氏は「僕はこういう横文字を見ると、“あ、負けたな”と思う。要は、海外で開発され、支持されたものが“それいいじゃん”と日本に導入されているからだ。最近、政治の世界ではEBPM(Evidence Based Policy Making)と概念がすごく流行っているが、これは証拠に基づいた政策決定をしようという、本来では当たり前のことなのに、日本でできていなかったからこそ、“大事ですよね“となっているということだ。
一方、井上先生が“もったいないな”とおっしゃったが、世界中でSDGsが言われる中、“もったいない(Mottainai)”という言葉は海外でも通じる日本語の一つだ。日本独自の、“物を大事にしましょう”という文化が世界で大切にされ始めているということだ」とコメント、渡辺氏も「残念ながら“過労死(Karoshi)”は海外にあまりないので、日本の概念が浸透してしまったということだと思う。いい意味での言葉を日本から生み出せるといいなと思った」と応じた。
井上教授は「例えば中華人民共和国の“人民”と“共和国”は日本で作られた和製の漢語だ。過去の日本人たちが一生懸命に考えた言葉が外国に出て行くということも起きてきた。また、言葉は回帰することもある。例えば昔は“video“のカタカナ言葉として“ビデオ”と言っていたものが、最近では“動画”と呼ばれるようになっている。あるいはZoomの“画面共有”はカタカナ言葉でいえば“スクリーン・シェア”だが、それを使う人はあまりいない。そういう揺り戻しもある。便利でかっこいい、というのは言葉の大切な機能なので、上手いバランスの中で、昔のことも振り返りながら考えられるといいかなと思っている」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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