新たな「最速最強の女流」と呼んでもいいだろう。女流による早指し団体戦「第2回女流ABEMAトーナメント」の本戦トーナメント準決勝・第1試合、チーム里見とチーム西山の対戦が11月20日に放送され、西山朋佳女流三冠は、予選での個人6連勝に続き、この準決勝でも3局に登場して全勝して、合計9連勝。今大会がフィッシャールール初体験とは思えない強さで、チームメイトも引っ張り決勝まで駒を進めた。男女ともに個人戦、団体戦通じて無敗での優勝は誰もいない。次戦に、大会初の記録がかかることになった。
大会前は「不安しかない」と言っていた超早指しも、この結果を見れば水を得た魚だ。予選2試合、計6局で危なげなく6連勝を飾っていた西山女流三冠だったが、苦しい場面で何度も出番が回ってきたこの試合でも、その強さに陰りが見えることは少しもなかった。
最初の出番は第3局。第1局で上田初美女流四段、第2局で山口恵梨子女流二段が敗れ、いきなり連敗スタートの状況で登場した。予選無敗の自分が敗れて3連敗となっては、相手の勢いをさらに加速させることにもつながる。絶対に負けられない一局で、第1局で勝利し波に乗る里見咲紀女流初段を迎え撃つと、見守る周囲からは「早送りでも見ているみたい」と言われるほどの早指しを披露。多少もつれる展開になるも、それを力でねじ伏せるような将棋で、チームにこの試合初勝利をもたらした。「私が全部勝たないとまずい。流れは断ち切りたかった」と、自分がフル稼働しなければチームが先に進めないという強い自覚を持っての勝利。言葉以上に、その対局姿勢が仲間を奮い立たせた。
次の出番はさらに痺れた。スコア2-4というカド番で迎えた第7局。対局を残していたのは西山女流三冠が2局、上田女流四段が1局だった。自分が2局勝っても上田女流四段が敗れれば、チームは敗退する。ただ勝つだけでなく、仲間にさらなる勇気を与える勝利が求められていた。歴代2位・タイトル43期を誇る清水市代女流七段との対戦は、序盤こそややリードしたものの中盤は互角に。ただ、指しやすい局面を逃さず、うまく捌いて再びリードを広げると、「勢いをつけた攻めでなんとかちょっと苦しいところを挽回できた」と、反撃を許さなかった。
最後の出番は、まさにクライマックスだった。決勝進出をかけ、スコア4-4で迎えた最終第9局。相手はタイトル戦で何度もぶつかっている第一人者・里見香奈女流四冠だ。「もうドキドキですよ。楽しみにはしていましたが、ここですか」と、これ以上なく整った舞台で相振り飛車の一局に臨むと、序中盤は自ら攻めたが、最終盤は里見女流四冠の攻めをしのげるかどうかの大熱戦。首の皮一枚のところで耐え「とにかく、タイトル戦のフルセットの時の気持ちでやりました」と、辛くも逃げ切った。この名勝負にはファンからも「凄まじい将棋だった」「凄すぎる!!」「ドラマすぎた」と、公式戦以上、さらにはまさにタイトル戦に匹敵する多くの声が寄せられていた。
完勝あり、激戦ありの準決勝ではあったが、予選から続く白星は、きれいに9個並んだ。残すは決勝での最大3局のみ。藤井聡太竜王(王位、叡王、棋聖)であっても個人戦、団体戦通して達成できなかった「全勝優勝」が成し遂げられた時、将棋界にはもう一度「最速最強の女流」として名が知れ渡る。
(ABEMA/将棋チャンネルより)