コンプレックスビジネス、「下手だ」と恥をかかせてしまう文化…日本人の英語教育を取り巻く“闇”
ポケトークの実演
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 スマホアプリやオンライン英会話など、様々な商品・サービスが登場、依然として国内7000億円を超える英会話市場。ただ、“聞き流すだけ”とのキャッチフレーズで一世を風靡した、あの「スピードラーニング」が夏にサービスを終了していたことが話題を呼び、AIを用いた高精度の翻訳サービスが普及するなど、環境の変化にも晒されているようだ。

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■進化を続ける翻訳ツール

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 中でも注目を集めているのが、独ベンチャー企業が開発、学術レベルの語彙もカバーしているという「DeepL」だ。翻訳に詳しい立教大学の山田優教授は「TOEIC900点を超えるレベルといわれるGoogleの機械翻訳の実力に、専門分野のデータを入れ、さらなる学習で磨いたのがDeepLということになる。専門性の高い、プロ翻訳者の目から見ても結構使えるレベルだ」と太鼓判を押す。

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 また、DeepLを翻訳エンジンに採用している日本のソースネクスト社の通訳デバイス「ポケトーク」の精度も、一対一であれば会話には困らないレベルに達している。ただ、山田教授によれば「厳密には通訳というよりも、一文を文字に落として翻訳し、返ってきたものを発声している装置なので、文の単位で話をしてくれていない部分をポケトーク側が解析しなければならない。そこで会話文、とくに複数人によるものが難しいという課題がある。そうした点について、文章が途中の状態からでも同時通訳者がやるかのように処理をしていける技術を開発中だ」。

 DeepLの有料版のユーザーだというジャーナリストの佐々木俊尚氏も「テクノロジー系の記事を英語で読もうとすると、どうしても日本語の3〜4倍の時間がかかってしまい、効率が悪かった。DeepLを導入したところ9割方は大丈夫だという印象で、これなしでは生活ができない。毎年1回は英語学校に行って、一生懸命ネイティブの先生と喋るみたいな無駄なことをしていたんだけど、ポケトークみたいものが出てきてからやめた」とした上で、「ビジネス的なやりとりであればなんとかなるが、しんどいのは交流会やパーティーの場の雑談だ。使ったことのないイディオムが機関銃のようにやってくると非常に難しい。ポケトークのようなデバイスが、そこまで対応してくれるようになると有り難い」と話した。

■日本の英語教育の“闇”、“コンプレックスビジネス”

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 去年の春からは小学校3・4年生を対象に英語の授業が必修化、5・6年生では教科化されている。翻訳サービスやデバイスの精度が今よりもさらに向上したとき、そうした英語教育は必要なくなるのだろうか。

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 子ども向け英会話スクール「SUNNY BUNNY」代表の羽織愛氏は「確かに素晴らしい技術だし、情報伝達にはすごく便利だが、コミュニケーションを通じて相手と仲良くなれるかどうかで言えば、やっぱり喋れる人、ということになるんじゃないか。英語教育にはそうしたコミュニケーション能力を伸ばす効果があるものの、これまでの日本の英語教育には課題があった。そこを改善する必要性はあるが、無くしてしまっていいということにはならないと思う」と指摘する。

 「例えば正しい発音を身に着けるための読み書き練習、フォニックスが新しい教育方法だと言われているが、実は明治時代の教科書にも載っていた。ところが英語教授法が現場で受け継がれ、進化してきたかといえば、そうではない。どちらかと言えば良くなったり悪くなったりを繰り返して今に至ってしまっているというのが現状なので、指導法の改善によって喋れる子が劇的に増える可能性は大いにある。

 さらに言えば、日本の英語教育の“闇”として、“コンプレックスビジネス”という表現がある。英語教育の教育者は“上手い、絶対通じる”と励ましてあげるのが本来の仕事のはずだ。ところが上達してしまうと教室に来なくなってしまうので、“ネイティブはそうは言わない”などとコンプレックスを刺激してあげて、下手だからこそ長く続けないというふうに仕向けてしまう。

 やはりネイティブライクというものにこだわりすぎ目標設定をしてしまうのが問題で、学校教育においても、スペルがちょっと違うとか、発音がちょっと違うというダメ出しばっかりしてしまう構造を克服しなければ、どんどん喋ってみようという考え方にはならない。そこはファンクショナル、喋りたいことがちゃんと伝わるか、得たい情報がちゃんと分かるかということを目標設定にすれば、長い時間をかけ、苦行のような学習をしなくても、すぐに話せるようになると思う」。

■「日本人同士で下手だ、上手だと言い合っている」

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 羽織氏の指摘に対し、山田教授も「今の義務教育のように学ばせられている英語については不要だと思う。コミュニケーション重視になって文法も教えないし、発音などの規則も教えないということであれば、大学くらいまで学んでもDeepLには敵わないという現実になってしまう。少し考え直す時期に来ていると思う。やはりちゃんとした文章を書けるということがすごく重要で、すごく難しい。話すことも大事だが、実際のビジネス上はメールなどのコミュニケーションがかなり大きい。そこをもう少し重要視していいのではと考える」とコメント。

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 佐々木氏は「進駐軍による占領の記憶があるせいなのか、日本には英語が喋れるのはものすごくすばらしい、逆に喋れないのは恥ずかしい、という風潮があると思う。しかも首相などが海外でちょっとでもブロークンな英語を喋ると、外国人は何も言わなくても、日本人が“そんなひどい英語を”と文句を言う。つまり日本人同士で下手だ、上手だと言い合っている、その抑圧の強さが問題だと思う。日本に来たアメリカ人がカタコトの日本語を喋っていても、“お前、日本語が下手だな”と誰も言わないはずなのに、日本人が相手だと平気で恥をかかせる。これをやめない限り、日本人は韓国人や中国人のように英語を喋れるようにならないと思う。

 加えて、英語には英語圏に住んでいる人々の、難しい慣用句なども多い“ネイティブ英語”と、そうではない人たちの“グローバル英語”がある。使っている人口が多く、世界の共通語としては、むしろ後者の方なので、グローバル英語で喋れるようになった方が良い。そして、英語を喋れることも大事だが、それ以上に自分の能力はなんなのか、そこを磨かなければいけない。それをやらずに英語ばっかりやっていると、歪なグローバル人材になっていく」と話していた。(『ABEMA Prime』より)

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