画面上をくるくると動き回る、豆のような物体。これは、バーモント大学やハーバード大学などの研究チームによって発表された生体ロボット『ゼノボット』だ。
ロボットというと、金属やプラスチックなどの素材でできているものをイメージすると思うが、この研究では生き物の細胞を素材に自動的に動くものを作ろうとしている。研究チームは、カエルの幹細胞から形成された幅1ミリ以下の生体ロボットを作成し、この生体ロボットが自ら複製することを突き止めた。
この生体ロボットとはどのようなものなのか。日本でバイオロボティクスの研究を行う東北大学の浜田省吾さんに話を聞いた。
「自己複製するゼノボットのポイントは、ロボット自体が次の世代のロボットを作るというところにあります。これを自己複製というんですけど。要するに自分と同じものを作る機械、それを細胞で作ったというところがポイントです。『ロボットのアームで自分のパーツを組み合わせていって、自分と同じものが作れればそれは複製だよね』。そういう話で、それを細胞でやってのけたということです」(以下、浜田省吾さん)
先ほどのゼノボットがくるくると動き回っていた映像は、そのパーツとなる小さな細胞をかき集め、自己複製を行っている様子だという。その自己複製を効率的に行うには、どのような形が理想的なのか……。今回の研究で、人工知能の力を借りて数十億種類の形状を試した結果、たどり着いたのがパックマンに似たアルファベットのC字形の形状だった。
「ほうきで掃き固められたような子どもの世代は丸くなる。ただ、丸い形だと材料を集める効率が非常に悪くなってしまう。なので最初にパックマンみたいな形、これをスパコンでシミュレーションして一番いい形というのを彼らはデザインしたんです。そこを作ってあげることによって、より効率よく部品を掃き固めるというか、掃き集めることができ、それを5世代分まで伸ばすことができたということです」
勝手に動き回り、勝手に増える。生き物のようで、ロボットのようなよくわからない物体であるということは理解できたが、果たしてこの研究が進むとどのようなことが可能になるというのだろうか。
「最初に少しだけ準備さえしてあげれば、そこから先は自分で色々やってくれる。生き物のような性質をもったロボットができるんじゃないかというような形です。著者たちが言った例というのは今できるようなことなんですけれども、ここでシミュレーションとかをして示しているのは、例えば電子回路の修復ができるとか。今我々のチームで研究しているようなことなんですけれども、食べて成長するロボットであるとか、そういったようなものができるようになってくる。もし、そういうことができるようになると、例えば今あるスタティックなものが、全部まるで生きているかのように振る舞うことができるかもしれない。例えば、部屋の屋根とかが季節に応じて形が変わるとか、夏は暑いから涼しいように隙間がたくさん空くけど、冬になると厚みを増して温かくするとか。そういうような外側の環境に応じて、自らの形や性質が変わるようなものというのが作れるようになるかもしれない」
また、医療の分野や海洋マイクロプラスチックの収集など、様々な場所での活用も期待されている生体ロボット。生き物の細胞を使うことへの倫理的な課題はあるものの、生物学と工学の融合による新たな試みに注目が集まっている。
「やはり生物学で得られたような知見を工学的に生かすことで、これまでのロボティクスではできなかったようなハードウェア的な限界を打破する。尚且つ、コンピューターシミュレーションで組み合わせたとか、そういった点も特筆すべき点だと思うんですけれども、やっぱりロボティクスの文脈からすれば自己複製をする機械というのは究極の目標の1つだと思うんです。そこに一歩新しい細胞という材料を使うことで近づくことができた。そこに一番大きな意義があると思っています」(『ABEMAヒルズ』より)
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