「北京原人の脳の容量については知っているのに、第二次大戦で日本がどこと戦ったのかを知らない。それではまずい。そこをクリアするための、一つの改革だと思う」(世界史講師の鈴木悠介氏)。
学習指導要領の改訂により、来年度からは高校で新たに「公共」「情報」とともに必修科目となる「歴史総合」。
これまで高校の「地理歴史」では「世界史A」か「世界史B」のいずれかを履修、「日本史A」「日本史B」「地理A」「地理B」のうち1科目を履修することとされていたが、改訂後は、この近現代史が中心の「日本史A」と「世界史A」を融合させた「歴史総合」、「地理総合」に加え、「世界史探究」「日本史探究」「地理探究」(それぞれのB科目をベースにした科目)を選択履修することになっている。
■スタートは“ペリー来航”から
オンライン予備校『ただよび』で世界史の講師を務める鈴木悠介氏は「そもそも世界史の中に日本史があるわけだし、日本史の中でも世界史との関わりは重要な要素なので、教える側からすると融合すること自体は歓迎すべきことだと思う」と話す。
「学校ではどうしても古い時代から学んでいくので、世界史Bであれば700万年前がスタートだ。そうすると、どうしても第一次大戦くらいまでで終わってしまう。しかし近現代史の問題は入試に出るので、予備校ではしっかりと教えている。だから冷戦などを知らないまま高校を卒業して予備校に来る生徒たちの目が、近現代史の授業になると輝く(笑)。
一方、もともと世界史Aと日本史Aでは近現代史が中心で、日本史であれば“ペリー来航”以降を扱っていた。教科書会社によっても違うが、前近代史の概略は2、3ページで簡単にまとめられている程度だった。歴史総合でも、世界史との関係性も考えながら、アメリカの独立やフランス革命について触れた後、“ペリー来航”以降を学ぶといった形になる。
僕が教科書の目次をチェックしたところ、なんと70%くらいはもともと世界史で教えていた領域なので、まさに“世界史の中の日本史”という形になると思う。これまでのような細かな用語に引っ張られない、大局的な歴史を学ぶことになるので、テキストも一から作らなくてはいけない。まさに世界史が専門の僕としては有利で、おかげさまで仕事も増えている(笑)。
一方、日本史の先生は日本史探究という科目で専門性を発揮すると思うし、前近代史は中学校で学ぶ。総合歴史ではクイズ番組で出てくるような細かいことを教えなくなるだけで、基本的な日本史の知識が失われることもないと思う」。
■“遡り”も必要…教師に求められる力量
その一方、歴史総合は単なる暗記ではなく、国際秩序の変化や近代化の過程を多角的に考え、視野を広げることを狙いとした科目でもある。授業では抽象度の高い議論も求められるため、現場の指導力、ティーチングスキルが問われる場面が出てくると鈴木氏は指摘する。
「教科書を作る際に、世界史と日本史を融合させるのが難しい部分があって、どうしてもこの章は日本史、この章は世界史みたいな、継ぎ接ぎになってしまっている部分はある。そこは今後の改訂にも期待したい。また、世界史というのは、ある意味で宗教史の側面もある。キリスト教やヒンドゥー教、仏教などができたのは近現代ではないわけだ。世界史は小学校と中学校でも教えているが、本当にザックリしているし、現代の問題の深淵は、やはり遡らなければ見えてこないという課題もある。
その意味では、過去に遡りながら教えてはどうか、という提案もある。しかし過去に起きたことがあって、その先のことが起きる。つまり“伏線”みたいな話で、映画のストーリーを逆算したら分かりやすいかというと、そうとは限らないのと同じだ。それでも歴史総合では先生が適宜、遡りながら横断的に教える、その力量が問われてくると思う。さらに忙しい中、アクティブラーニングについて研究されている意欲のある先生方もいる。そうしたことが大きく問われる科目になったと思う」。
■論争になっているテーマはどうする?
EXITのりんたろー。は「僕らの時代は、教科書に載っているベルリンの壁の写真とかについては“各々で見ておけ”、みたいな感じだった。それがこれからは縄文土器の写真とかが、“見ておけ”みたいな感じになるのか(笑)」とコメント。兼近大樹は「教科書ではこう書かれているが、別の国ではこういうふうに教えられていて、確定していない部分もある、みたいな話も出てくると思う。個人的には、お笑いも変わると思った。みんなが知っているから笑えるわけで、10年後には、“聖徳太子か!”というツッコミをしたら、“ハア?”と言われてしまうかもしれない。これからのお笑い芸人は、ネタの練り直しだ」と苦笑。
また、東京工業大学で講師も務めるパックンは「これは本当に大事な変革だと思うし、僕は大賛成だ」。
「大学で国際関係論を教えているが、偏差値の高い学生さんでも、近代史が全く分かっていない。みんな戦国武将の名前はたくさん知っているのに、これは知っているのが普通だろうと思うことでも分からないので、“僕に有利だ”と思うことが多い(笑)。でも、例えば第二次世界大戦以降、朝鮮戦争なども含む50年の流れを分かっていないと、今の国際問題は理解できない。縄文土器と弥生土器の違いを理解していても、バイデン大統領や文在寅大統領の演説は分からない。ただし、教科書の問題に代表されるように、近代史は意見が分かれる。ぶつかり合っている部分については、どう向き合うのか、という課題が出てくると思う」。(『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側