柔軟剤や香水など、生活に溢れる「におい」に含まれる化学物質により、めまいや吐き気、呼吸困難などの健康被害が生じる「香害」。化学物質過敏症の症状の一つで、ある日突然、発症してしまうことがあるという。
【映像】"香害"被害の実態...「みんなくさい」小学校に行けない子どもやガスマスク生活も
「近隣からの柔軟剤とかお風呂場、調理の匂いとか、歩きタバコとか、いつ何が来るか分からないので、いつでも防げるようにと思って着けている」。
1年半前に発症、医師に化学物質過敏症だと診断されたアンナさん(仮名)は、外出時にはガスマスクが手放せないという。
■除菌・抗菌用の製品に刺激を受けてしまい…
香害について知ってほしいと『ABEMA Prime』の取材に応じてくれたアンナさんの撮影を行うにあたり、お店に置かれた商品には柔軟剤ユーザーの服から化学物質が移ってしまっていることがあるため、スタッフは事前にネット通販で服を購入して干し、さらに取材前にはシャワーを浴び、シャンプーなどは一切使わない状態で話を聞いた。
かつては柔軟剤や香水も好んで使っていたというアンナさんだが、突然、症状が襲ってきた。以来、意識を失ったり、全身が痛み、歩けなくなるほどになってしまう。
「行きつけの美容室で、トリートメントが頭に浸透し、膜が張ったような感覚になり、意識がもうろうとしてきて。職場でも柔軟剤などを使用していない方はいないので、近くによると気分が悪くなってしまう。でも、距離を取って話そうとすることが、相手に不快を与えてしまうんじゃないかと思って無理をしたこともあった」。
その後、同じフロアの人たちが純石鹸成分の製品を使うなどの協力もあり、職場で仕事をすることができるようになった。また、普段は手作りで作ったオーガニックコットンのマスクと活性炭シートを入れたマスクを使っているというが、前述の通り、外出時には万が一に備え、ガスマスクを着けている。それでも化学物質を防ぎきることはできないようで、電車やタクシーにも乗ることができないという。
「においと言ってしまうと、少し語弊がある。においだけではないのが化学物質過敏症で、様々な物質に反応してしまう。特に最近では新型コロナウイルス対策として出てきた除菌・抗菌用の製品に刺激を受けてしまい、胸に刺さるような痛み、苦しさで、すごく怖かった」。
自然栽培の野菜の人参など、“楽しめるにおい”もあるというが、ヒノキなど木のにおいは嗅ぐことができず、農薬なども避けなければならないため、外食もできない。2人の娘を育てる母親としては、食べるのをただ眺めるだけだという。
「こんな見た目の母親で申し訳ないなと思う。出かけることもままならないし、帰ってきた後も何回もお風呂に入らせたりとか。ポロッと“くさい”と言ってしまうこともあるので、“傷つけちゃったかな?”って…。ただ、娘たちもすごく理解してくれているので、すごく心の支えになっている」。
■「つまり地球環境問題まで広げて考えていかなといけない、という話にもなる」
香害研究の第一人者で、化学物質過敏症や農薬健康被害なども研究している坂部貢・東海大学副学長は「化学物質過敏症には、様々な要因のカテゴリーがある。化学物質に対するアレルギー反応という方もいれば、脳が誤作動するような形で作用している方もいる。においがなければ大丈夫という方もいれば、においが強い変容を引き起こす方もいる。そうしたカテゴリーを一緒にして、化学物質過敏症と呼んでいる。化学物質には体内に蓄積するものもあれば、代謝されて解毒されてしまうものもあるが、それらが許容量を超えてしまうと発症する、という理解でいい。花粉症と同じで、誰が、いつ、どのタイミングで発症してもおかしくないと捉えておいたほうがいい」と説明する。
アンナさんの場合、診察までに時間がかかり、大量の問診票、そして平衡検査と眼球検査があったという。現状では、化学物質過敏症の治療ができる医療機関は、そう多くは無いようだ。
この点について坂部氏は「論文によっては人口の10%が該当するという論文もあるが、はっきりとした統計が出ていないのが現状だ。加えて、医学教育の中でそこまで細かいことは習わないということもあり、若い先生の場合、診る機会も少ない。そのため、大量の化学物質による急性毒性、あるいは慢性毒性という形になれば診断ができても、非常に微量な化学物質による影響については診断が難しいことも問題だ」とコメント。
「生活を送る上での対策としては、基本的には経験的に避けなくてはいけない化学物質の環境を避けることが一番だが、我々がそうしたものを避けるのは現実的になかなか難しい。周りの理解、配慮もとても大切だ。そして、それは環境問題とも関わってくる。我々は多くの揮発性の有機化合物を使用しているが、それらは基本的には石油製品だ。つまり地球環境問題まで広げて考えていかなといけない、という話でもある」。
学校に充満する柔軟剤のにおいで体調不良になり、登校することができなくなったという小学生が綴った手紙には、「学校がくさくて、じゅうなんざいのポスターも学校にはってるけどみんなくさいふくをきて学校に来てるからますます学校に行けなくて、こまってます」とある。
アンナさんは「私たちに配慮をほしいというよりは、苦しい思いをする人を増やしたくない。特に小さいお子さんが学校に行けなくなるというのは、本当に辛いと思う。大人は“いつか発症するかもしれない”ということを頭の隅に置きながら生活用品を選び、子どもたちに手渡してあげるべきなのではないのか思う」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)