将棋の対局は、それぞれ数時間の持ち時間を使って戦うものもあれば、数分から数十分の持ち時間で指す「早指し」がある。瞬時の判断、ひらめきなどが求められると言われる早指しでは、若手がベテランを上回るというのも定説だ。これについて51歳のベテラン藤井猛九段は、慣れがあればかなりの早指しでもこなせるという感触を持っているが、ある対局ではわずか3手目で切れ負け寸前に追い込まれ、冷や汗をかいたというエピソードを持っていた。
【動画】藤井猛九段の「切れ負け寸前」エピソード(4時間10分47秒ごろ~)
藤井九段が、ひやひやの秘話を紹介したのは、12月21日に行われた棋王戦挑戦者決定二番勝負で、ABEMAで解説を務めていた時のこと。聞き手の室谷由紀女流三段(28)と、持ち時間について話していたところ、不意に早指しに話題が飛んだ。
藤井九段 早指しでも、プロの棋士なら1手5秒でもあれば、そこそこでしょ。サントリー杯(SUNTORY 将棋オールスター 東西対抗戦2021)は初手から30秒という、今までになかったシステム。私も参加して、1手30秒ってどんなものかと思ったけど、ちゃんとした将棋が指せました。
公式戦では将棋日本シリーズ JTプロ公式戦が、持ち時間5分・切れたら1手30秒未満・考慮時間各5分、というのが最短。さらにそれより短い初手から1手30秒未満であっても、プロともなれば練習将棋で10秒切れ負けなどの経験も豊富にあるだけに、対応は可能だという。ところがこの余裕が、思わぬ冷や汗をかくことを招いた。
藤井九段 持ち時間10分とかだったら、10分を大事にするからバタバタ指すんです。でも(初手から)30秒だったら、30秒を使った方がいいって思うじゃないですか。だから初手▲7六歩とやるだけでも、逆に30秒ずつゆっくり指しちゃうんですよ。それで僕は(時間が)切れそうになって(苦笑)。
振り飛車党の藤井九段、初手は▲7六歩と指し、相手が2手目を指したところ、次の3手目でゆっくり考えているうちに、チェスクロックが時間切れ間近を告げるべく「ピッ、ピッ」と鳴り出した。
藤井九段 飛車を振るのにゆっくりしすぎて、切れそうになっちゃった。「おおお!」ってなって。三間飛車にするかどうか迷っていたんですが、飛車を動かすのって時間がかかるじゃないですか。「あぶねーっ!」となって、すごく動揺しちゃいましたね。余裕をこいて、飛車振るだけで切れちゃったらね。あれが今年一番焦りました(苦笑)。
勝負も差し迫った最終盤、考えがまとまらずついに切れ負け、ということはアマチュアならありそうなものだが、プロである棋士、ましてや超序盤の3手目で切れ負けともなれば、もはや“事故”レベルだ。
藤井九段 (チェスクロックを)自分で押さないといけないから。3手目、▲7八飛であんなに焦るとは。中継のカメラも入っていたので、切れなくてよかった。あれはびっくりしましたよ。
今年最大のピンチを一気に振り返った藤井九段だったが、ここからは持ち前のユーモア満点のトークが炸裂。また、室谷女流三段の切り返しも抜群で、視聴者の笑いをさらう時間へと突入した。
藤井九段 切れた時、どうしようかと思って。カメラが回ってなかったら「いい?これくらい」って、相手に。※手を合わせてお願いのポーズ。
室谷女流三段 初手からもう一回やって、と。
藤井九段 いいや、これくらい(そのまま続けて)いいんじゃないのって。ダメかな。
室谷女流三段 ふっふ。ダメですね(笑)。
藤井九段 相手がいいって言えばいいんじゃない?まあいいでしょみたいな。どうなんだろうね。いや、おれの勝ちだって言うのかね。どうなっちゃうんだろ。
室谷女流三段 まあ、勝ちだって言われたら、何も言えないですね。
藤井九段 でも、いいじゃんって。ダメかね。
室谷女流三段 ふふふ。ダメだと思いますね(笑)。
藤井九段 ダメ?3手目で切れちゃったら、アクシデントじゃないの?ダメか(笑)。
このやりとりは、視聴者たちに大ウケ。「てんてートークがキレッキレ」「切れてたら罰金でもおかしくないやつ」「ダメかね ダメですね」「でもいいじゃん笑」など、大盛り上がりになっていた。
(ABEMA/将棋チャンネルより)





