師匠の厳しさの中にも愛があるから、弟子も素直についてくる。実に理想的な関係だ。「第1回ABEMA師弟トーナメント」の開幕に先立ち、師匠8人が集まり将棋界の師弟関係について語る「師匠サミット」が12月18日に放送された。日本将棋連盟の常務理事も務める鈴木大介九段(47)は、弟子の梶浦宏孝七段(26)とともに、8組の師弟による戦いの頂点を目指す。師匠がそれぞれ弟子を自慢する中、鈴木九段も負けじと「長い間、力を維持できる」と太鼓判を押す。にこやかに語るが、その接し方は「昭和ながらの厳しいもの」だった。
鈴木九段の師匠は大内延介九段。一門の教えは厳しく、「師匠から教わったのは『おれの顔に泥を塗るな』でした」と笑った。ただ、それも勝負の世界で生き抜くのは必要なことと、そのまま弟子の梶浦七段に伝え「将棋の手ほどきは梶浦にはしていないんですが、厳しくはしているつもりです」と、今の時代では古いと言われるようなものでも、そのまま指導・育成に活かした。
一門の決まりとして、もっともきついと思われるのが「奨励会で1年間、同じ段級にいたら即破門」というものだ。将棋界は、師匠がいなければ弟子になれない。つまり破門は、プロ入りの道を絶たれるということだ。「同じところにいたら13、14歳で辞めないといけないですからね。梶浦も、それが一番ありがたかったと(言っていました)」と、奨励会にいるだけでなく、少しでも早く昇級・昇段しようとしなければ、プロの世界で到底生き抜いていけない、という叱咤激励でもあった。
厳しさ一辺倒というわけではない。これも大内九段にならって鈴木九段が行ったのが、弟子の親の前での“誓い”だ。「この子は絶対にプロになります、八段になりますと、親御さんに話すんですが、子どもの前で話すんです」。預かるからには責任を持つ。その才能も保証する。親と弟子と師匠の三者面談。これがあるから、預ける側も信頼するのだろう。
大内九段、鈴木九段、梶浦七段と継がれているのは、将棋界への恩返しだ。鈴木九段によれば、梶浦七段は「仕事もよくこなす。きつい仕事もすすんでやって、自分のことより率先して、将棋連盟のことを第一に考えている」と、ここは手放しで褒める。また、努力型だからこそ、長く活躍できる棋士だと信じている。「うちの弟子は他の素晴らしい弟子たちより(成長が)緩やかな右肩上がり。他のお弟子さんで棋士になる子は1つ教えると3つ、4つ覚えてくるイメージですが、うちの弟子は10教えて、やっと1つか2つ覚えてくる。伸び率は悪いんですが、それを決して忘れない。四段になって力が足りなかったのが、だんだん成績も上がってきて、自力をつけてきた。梶浦の場合は長く力を維持できるんじゃないかと思います」。一気に伸びない分、つけた力が簡単に落ちない。素直な性格は、この成長曲線にもつながっているようだ。
鈴木九段が、将棋界の子どものように目をかける梶浦七段。「弟子にタイトルを取ってほしい。タイトルを取ったら、『金の延べ棒をよこせ』と言ってありますが、弟子も『はい、わかりました』と言っていました」と、おもしろい約束も明かした。この大会で優勝を果たしたら、弟子から師匠に、どんなお礼のプレゼントが贈られるだろうか。
◆第1回ABEMA師弟トーナメント 日本将棋連盟会長・佐藤康光九段の着想から生まれた大会。8組の師弟が予選でA、Bの2リーグに分かれてトーナメントを実施。2勝すれば勝ち抜け、2敗すれば敗退の変則で、2連勝なら1位通過、2勝1敗が2位通過となり、本戦トーナメントに進出する。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールール。
(ABEMA/将棋チャンネルより)







