かつては休憩時間を利用して、外出可能だった将棋のプロ対局。食事に出かけるだけでなく、対局場の近くを散歩してリラックスしたり、長丁場に備えて仮眠を取ったりと、それぞれの過ごし方で朝から晩まで続く一局に向き合っていた。ベテラン島朗九段(58)も通算対局が1500を超える中、いろいろな思い出があるが、忘れられないのが“ひふみん”こと、加藤一二三九段(81)との出来事だ。
棋士は対局中、基本的には座りっぱなし。いろいろと体勢を変えてはみるものの、どうしても膝や腰を痛めるのが職業病にもなっている。「40代、50代で腰を悪くしている人は多いです。私も今はなんとかもっていますが、30代のヘルニアや腰痛がすごかった」と苦労した。
腰に爆弾を抱えながら過ごしていた時、加藤九段と順位戦A級で対局した。持ち時間は、タイトル戦を除く対局としては最長の6時間。お互い使い切れば12時間で、それに昼食、夕食の休憩を合わせれば、13時間以上にもなる。そんな対局の時に「午前中からあまりに腰が痛いので、連盟(会館)から車で20分ぐらいの、ほねつぎの先生のところに行ったんです。この時ばかりは夜までもたないと。お昼休みを早めに入れて、タクシーで行って治してもらったんですよね」と駆け込んだ。
なんとか痛みを抑えてもらったものの、対局場に戻る時間が少し遅くなった。「大先輩に申し訳ないと思った」と慌てたが、盤の前に加藤九段の姿はなかった。周囲に聞くと「どうやら教会に賛美歌を歌いに行ったそうで」。クリスチャンである加藤九段にとっては大事なものだ。
このエピソードを披露したのは、ABEMAの中継に解説で出演した時のこと。この腰痛対策と賛美歌という、なんともギャップのある組み合わせに、視聴者からは「めっちゃおもしろい」「持ち時間の使い方は自由」「時代だなw」と大盛り上がりだった。
(ABEMA/将棋チャンネルより)





