取って付けたように見える「相談窓口の紹介」…若い視聴者が疑問視するテレビ報道、“中の人”は今、何を考えているのか
スタジオでの議論の様子
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 神田正輝さんと松田聖子さんに投げかけられた「今のお気持ちは?…一言だけ!」。あるいはコーナーの最後に挿入される、取って付けたような「相談窓口の案内」…。神田沙也加さんの死去を受けた一連のテレビ報道に対し相次ぐ不信や疑問の声。

【映像】ロンブー淳「逆の立場だったらどうですか?」 

 そこで23日の『ABEMA Prime』では、番組の末松孝一郎プロデューサーやテレビ朝日平石直之アナウンサーを交え、テレビの報道番組、情報番組が抱える問題について改めて議論した。

■平石直之アナ「このままではジレンマから抜け出せない」

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柴田阿弥(フリーアナウンサー):WHOや厚生労働省がメディア関係者向けのガイドラインを示していて、家族や友人にインタビューをするときには慎重を期すること、過度に繰り返さないことなどを求めている。にもかかわらず、“今のお気持ちは?”と尋ねたり、情報番組で50分間にわたって放送したりしている。こうした理念は、全ての人に共有されているのだろうか。

中川淳一郎(ライター):1986年にはアイドルの岡田有希子さんが亡くなったことが、若い方に大きな影響を与えた。当時ワイドショーを担当していたような上層部の方々から、末松さんたちの世代に何か伝言のようなものは受け継がれているのだろうか。

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末松:報じ方には気をつけようということはかねてから言われていた。ただ、極端なケースでは、私が20年前に担当していたワイドショーの現場で、非常に有名な方が亡くなった、これは大きなニュースだ、という時に、プロデューサーがチーフディレクターを全員集めて“5日間はこのテーマでやる。月曜日はこれ、火曜日はこれ、水曜日はこれ…”と指示したこともあった。今はそういう時代からは、だいぶ変わってはきていると思う。

厚生労働省のガイドラインが出て以降、死を連鎖させないための“やるべきこと”に関しては、考えながら報道するようになっていると思う。一方で、ガイドラインの“やるべきではないこと”に関して、自分たちがどこまで対応できているのか、という思いは正直ある。地上波の番組で言えば、決して肯定できることではないが、大きく分けて二つの事情があるのではないか。

まず、“裏環境”。例えば報道番組や情報番組を放送している時間帯は、裏(他局)も報道番組や情報番組を放送していることもあった、“このネタを扱うべきだろうか”と考える前に、反射神経で扱ってしまっているところがある。今回、神田さんと松田さんに対してあのような発言が出てしまったのも、取材で情報を取れないのが恐ろしい、勇気がなくてやらないという判断ができない、ということがあったのだろう。

次に、“視聴者層”。地上波は高齢の視聴者が多いので、神田沙也加さんのニュースであるとともに、松田聖子さんのニュース、神田正輝さんのニュースと方向に置き換えられて報じてしまっている部分がある。これまでの“振り返り”を流したり、尺が長くなったりするのも、それが原因だろう。

■茂木健一郎氏「“未来のお客さん”である若者がドン引きしている」

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茂木健一郎(脳科学者):ネットでは、テレ東だけが違うことをやっていると話題になる。そういうやり方もあるのではないか。やはり10代、20代の若者と喋っていると、地上波ワイドショーの横並びで集中豪雨的な取り上げ方に全く共感していない。最近のテレビ局は個人視聴率をものすごく気にしているようだが、これでは世帯視聴率は取れたとしても、“未来のお客さん”として大切にしなければならない若い視聴者たちがドン引きし、逃げてしまうのではないか。テレビ業界の人たちは、そのことを考えていないのだろうか。

末松:テレ東に関しては、ああいう路線もあるとは思うが、例えば18時台にアニメを放送するなど、ニュースを放送している時間帯が他局とは異なるという事情もある。その点、私はABEMAに来て1年くらいだが、そういった意味では、状況がガラッと変わった。ネットを通じて、特に若い視聴者の声にダイレクトに触れられる。

そういう中で、“このニュースをどういうふうに広げていこうか”以上に、“知りたい人もいる中で、どうしたら傷付けずに伝えていけるんだろうか”と考えてやるようになっている。まさに、今が過渡期なのだと思う。変わっていかないといけないし、変えていかなくてはいけない。茂木さんがおっしゃるように、視聴率は下がったとしても、“テレビは嫌だ”と言われないよう、“未来のお客さん”たちに受け入れられるよう、若い視聴者の声に耳を傾けなければいけないと思っている。

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平石:『ABEMA Prime』の場合はそういう競争がないから、神田さんと松田さんの映像は使わないとか、今のような議論をするとか、独自の路線で行くことができる。一方で忘れてはいけないのは“そんなの流すな。そんなの見ないよ”と言いつつ、放送されているのを目にすると、思わず見入ってしまうという方もいるのではないか。マジョリティに寄り添えばいいとは言わないが、そういう論理、ビジネスモデルの中で今まで来てしまっているということだ。

やはり注目度が高いテーマがある時ほど、テレビ全体の視聴率も高まる。ネットでニュースを見て“こんなことあったんだ”、とテレビをつける。そして、そのテーマが放送されていれば手が止まる。それはテレビ局的には“稼ぎ時”なので、逃すのを恐れ、1分でも長く、でも同じことばかりはできないからと“振り返り”をやったり、スタジオでトークを続けたりする。実際、長い尺で放送した番組の方が高い視聴率を取っている事実もある。基準を変えるなり、放送時間をずらすなりしないと、このジレンマからは抜け出せない。

■中川淳一郎氏「家に行ってインターホンを押す、そういう姿勢が問題だ」

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中川:今回、マスコミへの反発が大きくなった発端としては、沙也加さんが亡くなられたことが報じられた直後に正輝さんの家に行ってインターホンを押し、今対応できませんという自動音声が出たとスポーツ紙が報じたことがあったと思う。そもそも、そういう報道姿勢があるから、“マスゴミ”と呼ばれてしまう。一方で、沙也加さんの死に関するディティールは、テレビとしてどこまで伝えるべきだと考えているのだろうか。

末松:個人的には、亡くなられたことへの悲しみと、その影響を考えて報じるべきだと思っている。警察発表を全て鵜呑みにして右から左に報じる意味は無いと思う。

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平石:非常に重要な指摘だと思う。芸能人が亡くなったという点においては芸能取材の動きになるが、事件や事故の可能性について調べようとすると、社会部的な取材に入ってくる。警察発表の中にそうした可能性が見出せた場合、場合によってはホテルに取材して確認をし、可能性をひとつひとつ潰していく作業が必要だ。

ましてや様々な報道が飛び交い、何が事実なのか分からない場合、大手メディアがとしてなすべきことはそうした情報の精査だ。その結果についても、報じるべき事実があると判断すれば報じるということだ。そこに対して下手にナレーションを付けたり、編集をしたりとか、過去のいろいろなことを振り返ったりするから、おかしなことになってしまう。

■柴田阿弥「私が読んだ原稿で誰かを傷つけているかもしれない」

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柴田:報じなければならないことがある。ただ、それを盾にして、母親との関係がどうだったとか、生前にこんな話をしていたとか、長々とVTRを流した後、“原因を明かす必要はないよね”“そっとしておきましょう”といった、すごくダブルスタンダードに思えるトークをスタジオでやる。あるいは事件を報じる場合、容疑者とされる人の心理について、本人にしか分からないはずなのに、精神医学や心理学の専門家が出てきて、“こういう人だったんじゃないか、こういうことがあったんじゃないか”みたいなことを勝手に話してしまう。

心療内科が現場になった大阪の放火事件をめぐる報道でも、当人にしか分からないことはあるはずだし、患者さんへのレッテル貼りや偏見はやめようといっても、やっぱりダブスタがある。私自身、番組で読んだリード原稿で誰かを傷つけているかもしれないと感じている。“本当にこの表現はどうなのかな”と思った時にはスタッフさんに聞くようにしているが、一回一回、“これは必要ないかもしれないな”とか、“誰かを傷つけるかもしれないな”と立ち止まって考えること、批判や世間の厳しい目を受けて、考え直すことをやっていくしかないと思う」。

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茂木:そこは研究領域が近いし、科学者としての名誉を賭けて言うけど、本人の気持ちなんて絶対に分からないから。それなのに“専門家”が出てきて、いかにも“こういうことだったんじゃないか”と言う。本当に良くない。お前ら、デタラメ言っているんじゃないよ、そんなの科学じゃないから、って。その意味では、出演者も忖度しすぎているんじゃないだろうか。みんなが柴田さんのように、現場で抵抗していければ素敵だと思わないか。“この原稿や進行、無理なんですけど”って、皆が言えばいい。

末松:アベプラの場合、夕方5時半から、僕たち制作スタッフと平石さんで、テーマとその扱い方について話し合う。10分くらいのコーナーなのに、それぞれの考え方が違って、40分くらい言い合いをすることもある。それでも何をやりたいのか、そこについて同じ方向を向いていないと、ただ事象を追いかけるだけになってしまう。そういう思いや姿勢がないと、神田正輝さんと松田聖子さんへの質問や、ご自宅への早朝の取材のようなことが繰り返されてしまう。

■“相談窓口の紹介”に兼近大樹「スタジオのアクリル板と同じになっていないか」

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平石:もう一つ議論しないといけないことがある。番組でも記事でも、最後に“相談窓口”を取って付けたように伝える問題だ。「紹介しておけば許されると思ってない?」「本気で連鎖を止めようと思っているのか」とか、「相談窓口を紹介することが、かえって亡くなった原因の“匂わせ”になっているのではないか」といった指摘が相次いでいる。

『ABEMA Prime』では去年、「いのちの電話」がボランティアによって運営されていることなどを紹介した企画をお届けした。電話番号を伝えれば相談が殺到してしまうわけで、そういう実態を把握した上で伝えていくことが大事ではないか、という議論をした。

中川氏:“俺たちはガイドラインを守っているよ”というような、報じる側の“免罪符”になってしまっていると思う。相談窓口を掲載しているんだから、何をやっても良かろうという気持ちで記事を編集している人がいっぱいいることを、私は知っている。

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兼近大樹EXIT):スタジオのアクリル板や、あるいは芸能人は人のいないところでもマスクを着けとけ、という話を同じだと思う。それ自体は感染防止対策に大きな意味はないが、いろんな人が見ている以上、やっても、やらなくても意見をぶつけられてしまう。“何もしないわけにはいかないよね、一応やっとかないと”ということだろうと思いながら見ている。

柴田:私も相談窓口についての原稿を読んでいるが、困っている人が支援にたどり着けない問題がある以上、多くの人が見ているところで説明することには意味があると思うが、そう言われると、どのように伝えればいいのかと悩んでしまう。

末松:真剣に受け止めなければいけない話だ。まず、相談窓口を伝えること自体は絶対に必要だと思う。ただ、何のために伝えるのか、それを報道する人間、制作に関わる人間ひとりひとりが考えなければいけない。後を追う人が出てくるのを止めないといけない、という思いでやっているのであれば、じゃあどういう形で伝えるのがいいのだろうか、こうすれば困っている人を救うことができるんじゃないか、という議論になるはずだ。それができていないのは反省しないといけない。

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茂木:英語圏では、みんなで生前の輝いている映像や作品などをシェアし、リスペクトを表現する文化がある。神田沙也加さんは素晴らしい仕事をたくさんされてきた方だし、好奇心に基づいた話をするよりも、彼女の事をみんなで振り返えればいいと思う。そういう番組であれば意味があると思うし、地上波でもやってくれないだろうか。

末松:全ての番組が何も考えていないとは思わないが、そう見える番組が1つでも2つでもあれば、全体がそうだと思われてしまう。全ての番組で、自分たちがなぜ伝えるのか、ということを今一度考えることが必要だと思う。

“きれいごと言ってんじゃねえよ”と思われるかもしれないが、出演者の皆さんの力を借りて、ほかの番組やメディアから真似されるようなコンテンツ作りをしていきたい、ということは本気で思っている(『ABEMA Prime』より)

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