2週間後に開幕する全豪オープンに向け、これはいいサインだったのだろうか。あるいは不安要素が増したのか――。
シーズン開幕戦の一つ『ATPカップ』で、今年はグランドスラム優勝が期待されるステファノス・チチパスが肘の手術後初めてのシングルスを戦った。16カ国による国別対抗戦は現在グループラウンドの真っ最中で、ギリシャの第2戦の相手はアルゼンチン。2日前の第1戦では大きなリスクを避けてダブルスのみ出場したチチパスダが、世界ランク13位のディエゴ・シュワルツマンとのバトルでケン・ローズウォール・アリーナを熱くした。
シュワルツマンは、トッププレーヤーたちも皆「やりたくない」と口を揃える選手の一人だ。170cmの身長はツアーでもっとも小さいといわれるが、テニス界随一といわれる俊足と強靭なフィジカルを武器にコートを縦横無尽に暴れ回る。不屈の精神も持ち合わせ、2020年の全仏オープンではベスト4入りし、その後に自己最高の8位をマークした。
序盤から激しい攻防が繰り広げられ、タイブレークにもつれた第1セットをものにしたチチパスが第2セットも1ゲーム目をブレーク。しかしすぐにブレークバックしたシュワルツマンが第8ゲームを4度のデュースの末にブレークし、流れを変えた。セットを奪い返すと、最終セット、今度はシュワルツマンが先に第1ゲームをブレーク。このリードを最後まで守り切った。
チチパスはシュワルツマンのほぼ2倍の37本のウィナーを放った一方で、やはり2倍以上となる57本のアンフォーストエラーをおかした。最後はスタミナ切れも否めない。しかし、持ち味の片手バックハンドを含めたショット全体のパワーやキレは、肘の故障明けとは思えないほど。本人もこう満足の言葉を口にする。
「あのレベルのパフォーマンスができるとは思っていなかった。予想以上にうまくいった。つい2週間前におそるおそるボールを打ち始めたことを考えれば、いい方向に進んでいると思う」
ただ、サーブだけはまったく満足していないという。10本のエースを放ったが、「全然ダメ。確率が悪いし、100%の力で打ててもいない」と現状を明かした。
「ダブルスをプレーした翌日は、痛みが出てサーブを打つことができなかった。今日あれだけの試合をやって明日どうなるかってことが、一番心配だ」
そう吐露しながらも、基本姿勢はポジティブだ。
「オーストラリアン・オープンまではまだ十分時間がある。一日一日良くなっているし、しっかり予防してドクターの言うことを聞けば、100%の状態で迎えられると信じている」
なお、今日はダブルスには出場せず、ギリシャはアルゼンチンに0-3で敗れた。
そのほかの結果は、同じグループDでポーランドがジョージアを3-0で圧倒し、グループAではスペインがノルウェーを3-0で撃破したが、2年前の優勝国セルビアはチリに1-2で敗れた。今回はノバク・ジョコビッチを欠く苦しい布陣のセルビアだが、さらに不運にも見舞われた。エースを務めるドゥサン・ラヨビッチがクリスチャン・ガリンとの試合を途中棄権。第2セット終盤でおそらく足に痙攣をきたし、走ることも踏ん張ることもできない状態に。最終セット0-3までプレーを続行させたが、それが限界だった。その後、勝負のかかったダブルスで、チリのアレハンドロ・タビロ/トマス・バリオス・ベラがマッチタイブレークの接戦を制した。
明日の注目カードは、初日に強豪イタリアを破って俄然勢いづく開催国オーストラリアとディフェンディング・チャンピオンのロシア。世界ランク7位のマッテオ・ベレッティーニを破って復活をアピールしたアレックス・デミノーが、今度は世界ランク2位のダニール・メドベージェフに対してどんな戦いを挑むか。
同じグループBでは、もう負けられないイタリアがフランスとの1敗同士の対決に臨む。グループCでは、1勝のイギリスと1敗のカナダ、1勝のアメリカと1敗のドイツが対戦。カナダは、コロナ感染による隔離明けで初戦のシングルスを欠場したデニス・シャポバロフの回復具合が、命運を握ることになりそうだ。
文/山口奈緒美