音楽のサブスク化・プレイリスト化で、「アルバムを曲順に聴く」体験が消滅? 松尾潔氏と語るSpotify時代の楽しみ方
松尾氏と議論
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 「アルバムはストーリーを伝えている。それを作り手が意図したように聴いてほしい」SpotifyやApple Musicなどに代表されるストリーミング配信が普及する中、一石を投じるツイートをしたのはイギリス出身の人気歌手、アデルさんだ。こうした声を受け、Spotifyはアルバムのシャッフル再生を、オリジナルの曲順通りに再生するようデフォルトの仕様を変更した。

【映像】シャッフル再生は冒涜?サブスク時代のアルバム曲順論争

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 『ABEMA Prime』の取材に、インディーズロックシーンで活躍する「Lucie,Too」のChisaは「そのまま聴いてくれて意図を読み取ってくれたらメチャクチャうれしいが、私自身もこのシャッフル再生して新たに見つかったりいろんな発見があったり、“この曲誰だ?”“このアーティストだったんだ”みたいな感じになったりすることもあるし、そこから改めてアルバムを通して聴いてみようということもある」とコメントした。

 番組では、今の時代の“音楽の聴かれ方”について、平井堅やCHEMISTRYを手掛けた音楽プロデューサーの松尾潔氏を交えて議論した。

■和田彩花「“バラバラにしたら意味がない”と怒っちゃった(笑)」

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 番組に生出演したアイドルの和田彩花は「昨年末にファーストアルバムを出したが、まさにテンポや歌詞のメッセージを踏まえて、“ここで一息ついてほしい”“こう聴いてもらえたら”と自分の中で作ったストーリーを詰め込んで作った。だから先行して3曲だけ出すという話があったときには、“何で?この世界観を一気に提示したくて作ったのに、バラバラにしたら意味がない”と怒っちゃった(笑)。でも今は皆が楽しんでくれていたらそれでいいし、シャッフルで聴いてもらうのも、他のアーティストの曲を挟んで聴いてもらうのも、どうぞどうぞという感じだ(笑)」と話す。

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 実際、リスナーからは「同じ曲ばかり聴いていると飽きちゃうので、好きなアーティストを選択して、シャッフル再生でいろんな曲を満遍なく聴きたい」(大学生)と、音楽をランダムで楽しむことが少なくないようで、音楽ジャーナリストの鹿野淳氏も「アーティストの楽曲一覧を見に行くと人気の5曲ぐらいが出てくるので、そこだけを聴いて終わるということが多いと思う。その結果、アルバムのように起承転結が生まれていくことを楽しむ機会が無くなり、メインディッシュをパッと食べて、またメインディッシュをパッと食べて…みたいな形で聴くようになってしまった」と指摘した。

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 こうした意見を受け、テレビ朝日平石直之アナウンサーが「レコード(アナログ盤)の場合、いちいちアームを持ち上げて動かし、針を落とすという動作が必要だったので、途中の曲を聞くということはあっても、基本的には収録曲の通りの流れだったと思う。CDにしても、Mr.Childrenの『深海』(1996)などが一枚のアルバム全体としてストーリーになっているのはわかるが、手の平サイズの端末で何万曲も聴くことができる時代、一つのアルバム、一つのアーティスト、一曲を丁寧に聴く、ということは少なくなってきていると思うし、“飽きるまで聴いた”みたいな経験をしなくなってきていると思う」と問題提起すると、松尾氏は次のように語った。

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 「音楽に限らず、器が変われば中身も変わるということはある。シャッフル再生というのは作り手、送り手の考える文脈をバラし、聴き手に主導権を託すシステムだと思う。その流れがお気に召した方はそれで聴いていただければと思うが、やはり一度は作り手の考えた流れで聴いていただきたいなということは、控えめながらに言わせていただきたい(笑)。

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 特に“コンセプト・アルバム”と呼ばれるような、例えばベトナム戦争に反対する目的で作られたマーヴィン・ゲイの『What's Going on』(1971)、イラク戦争に反対する目的で作られたグリーン・デイの『American Idiot』(2004)など、文脈を変えて聞くと恐ろしいものになる場合もある。必ずしもシャッフルに向いているアルバム、音楽ばかりではない、ということはリスナーの皆さんにも分かってほしい。

 とはいえ、その人の音楽体験が始まった時期に接していたメディアがレコードなのかCDなのか、はたまたサブスクなのかで異なってくるとも思う。1980年代初頭にCDが出てきた時、“スキップ機能”が大革命だった。それに比べれば、シャッフル機能にはそこまでの衝撃はないと思う。佐々木さんもそうは思わないですか?(笑)」。

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 これにジャーナリストの佐々木俊尚氏は「思う」と賛同。「僕自身は今でも好きなバンドがニューアルバムを出すと、間違いなくそれを一曲目から聴いていくが、そうやって順繰りに聴いていくという文化そのものが、2000年代には消滅したのではないか」との見方を示した。

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 「僕の場合、音楽を本格的に聴き始めたのは10代だった1970年代なので、ロックの歴史もまだ浅かった。だからビートルズも含め、順繰りに、体系的に聴いていくことができた。一方で、その整理された情報の中からアルバムを一枚ピックアップして買うということが尊い、貴重な行為でもあったと思う。また、かつてのように雑誌などに掲載された、“このバンドが6枚目のアルバムを出した”みたいな情報よりも、YouTubeなどから偶然流れてきた音楽を聴いて、“こんな良い曲があるんだ”と知る。Spotifyのプレイリストもそれに近いと思うし、今や音楽の入り口に体系や時代性はない。

 だからこそ、いきなり“コンセプト・アルバム”というのはちょっと重いし、最近のミュージシャンが聴かれやすいよう1、2曲ずつリリースして様々なプレイリストに入れてもらい、気づいたらアルバムとして出ている、という形を取っているのもわかる。つまり、“偶然の出会い”と、“ファン・コミュニティ”で聴かれる音楽は別だという発想がとても大事になっているということだ」。

■紗倉まな「CDで聴いていた時代は歌詞カードの存在や、ジャケットの存在が大きかった」

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 さらに松尾氏は「紗倉まなさんがいらっしゃるので、小説に例えると分かりやすいと思う。村上春樹さんが何年かぶりに書き下ろし長編を出すというとき、下巻から読み始める人はいないだろうし、むしろ“この日に買って、時間を確保して正座して読むんだ”、というような人が多いと思う。一方、新人作家の場合は作品がアンソロジーに入ることで広まるということもある。今の音楽アルバムというのは、その中間にある“連作短編集”のような、一応の順序はあるけれども、途中から気になったものをパラパラっと読んでもらっても作者としては咎めませんよ、ぐらいのなのが現在地ということかもしれない」。

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 すると紗倉は「私がCDで聴いていた時代は歌詞カードの存在や、ジャケットの存在が大きかった。“こう聴こえていたけどこういう言葉だったんだ”、“写真にはこういうメッセージがあるのかな”と、アーティストが詰め込んだ世界観、意図を読み解こうという楽しみもあった。だからこそ最後まで飛ばさず、順番に聴いていた面があると思う。それがデータになってしまった今、そうやって目でも楽しむ、という部分が減ったことも大きいと思う」と問題提起。

 松尾氏は「同感だ。ブックレットに思いを託していたし、僕がプロデュースするアーティストの多くは年齢的にもアルバムということを一応は考える。それでも昔に比べればコンセプチュアルな度合いが弱まっているし、あまり良い言葉ではないが、“シングルの寄せ集め”、ベストアルバムのようになっているのは確かだし、逆に曲を出さずにいて、ある時に一気に出す、ということがリスキーになっている。もうCDプレーヤーを持っていない人も多いので、買わせることが本当に難しくなっているし、買わせるという態度自体、もうダメなのかもしれない」。

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 やや悲観的にも思える議論を受け、Spotifyなどで選曲を手掛ける「プレイリスター」のふくりゅう氏も「僕自身もCD世代だし、アナログレコードも大好きなので、まさにフルコースの料理のメニューにわくわくするように、アーティストが意図した曲順にはかけがえのないものがあるなと思う。一方で、やっぱり楽曲、アーティストと出会うための“きっかけ”を提供したいという思いも強い。Spotifyの場合はプレミアム会員でない場合はシャッフルでしか聴けない状況になっているので、逆に言えば曲順と関係なく平均的に聴かれることで、知ってもらえる機会の提供になっているという考え方もできると思う」と提言。

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 「また、Spotifyの場合はオリジナルを聞いてもらうための導線を大事にしているとは思うし、公式プレイリストの『Liner Voice+』というシリーズでは、アーティストが音楽評論家と対談したり、楽曲の合間に解説を入れたりしたものを提供していて、アルバムをより深く楽しむためのライナーノーツ、解説書みたいな位置づけのものも出している。若いリスナーでも、ボカロ文化圏の“じん”の『カゲロウプロジェクト』や、YOASOBIのアルバムなど、曲順を通じて楽しむ面白さを積極的にプレゼンテーションしているケースもある。

 ただ、作品リリース数が多すぎるし、受け手側に選択肢が多い時代だ。そういうこともあって、僕がプレイリストを作る時には“この曲にギターで参加しているギタリストの曲を次の入れてみよう”、“この楽曲のコード感と似ている曲を次に入れてみよう”となど、コンテクストを意識するようにしている。あるいは新譜中心のプレイリストなのに、急にプラスチックスなど、今聴いてもかっこいいと思える80年代のニューウェーブのアーティストの曲を差し込んでみたり、アルバム的に楽しめるプレイリストを提供したいと思っている。しかもTwitterのDMに、このプレイリストに入れてくださいと連絡が来ることもある」。

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 松尾氏は「CD時代に“コンピレーション”という文化があったが、それが拡張された、“夢のコンピレーション”がプレイリストだという言い方もできる。パッケージがなくなった分、在庫を抱えなくてよくなったので、“廃盤”という恐怖からはかなり解放された。それどころか、復刻もかなりカジュアルにできるようになった。その意味では“ロングテール”とも、“ロングノーズ”になっているとも言える。僕自身、Spotifyには『松尾潔Works』という“公式プレイリスト”があり、知らないうちに新たな作品が追加されているので、紹介していただいてありがたく感じる。ただし、そこからどれだけの方がオリジナルのアルバムに移動して聴いてくれるかが分からない。現状では、あまり行ってくれないんじゃないかなという感覚もある」とした。

■佐々木俊尚氏「プレイリスト化は音楽の民主化に繋がったという見方もできる」

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 一方、慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「僕もCD世代だし、MDが出てくると編集をいっぱいやった。そして記憶に残っているのが、インターネットが到来する前の時代には、ベストアルバムが売れまくり、みんな“ベストが出るまで待とうよ”と言っていた時期があったことだ。つまり、サブスクの前に、すでに欲しい時に欲しいタイミングで欲しいものが寄せ集められていて、僕たちが気持ちよく巡回できる仕組みがあったというとだ。ベストアルバムが文脈をぶっ壊した後で、インターネットが自由に組み替えるようになり、ベストからフェイバリットみたいなものに発展したと考えられる」とコメント。

 その上で、「そもそも、何で1曲が3、4分のままなのかという疑問がある。かつてはタイアップでの使用やメディアの収録時間との関係があったかもしれないが、通しで聴いてもらいたいということであれば、1曲で30分、60分という“フルコース”にしてもいい。例えば僕の好きなX JAPANには『ART OF LIFE』という29分という長さの曲があるが、60万枚も売れている。曲調も途中で変わるし、転調もあるし、演奏の中身も変わるので、あの曲は途中を飛ばせない。だから聴く時は“よし、今日は頭から後ろまで”と。アーティストを知ってほしいという入り口なら3、4分の曲でいいと思うが、メディアの制約から自由になったからこそ、この曲は60分だという感じのものを出してくれれば、聴く側もそういう態度になると思う」と指摘した。

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 若新氏の意見に、松尾氏は「プリンスが『Lovesexy』(1988)という、9曲入りのアルバムなのにトラックは1つ、というアルバムを出したこともある。これはレコードからCDに覇権が移るか、という時代だったので、“この曲順で飛ばさず聴きなさい”という意図だった。でも、これはトップ・アーティストだったプリンスだからこそできたことであって、追従する動きはなかった。もちろんクラシックなどには長い曲があるが、ポップミュージックが3、4分なのは、やはり快感が保てるのはそれぐらいの時間なんじゃないかという理由があると思う」と回答。さらに「僕の場合、時代に合わせてイントロを短くするよう意識しろとも言われこともあるが、作り込みたくなってしまう、オールドスクールなタイプなんだろう(笑)」。

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 ふくりゅう氏は「確かにイントロが短くなっている傾向はあって、0秒の曲も増えてはいるが、Official髭男dismあいみょんKing Gnuなどにはイントロの長いヒット曲もある。小室哲哉さんが篠原涼子さんに書いた『恋しさと せつなさと 心強さと』はイントロが0秒に近いが、TM NETWORKの『GET WILD '89』は1分半ぐらいある。両方ともがヒット曲だ。どの時代にも、両面があるんじゃないか」とした。

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 最後に佐々木氏は「プレイリスト化は音楽の民主化に繋がったという見方もできる。iTunesの時代までは“タコツボ化”してしまい、売れているミュージシャンはどんどん売上げが上がるが、中堅以下は聴かれなくなるという一極集中の時代が続いていた。それがサブスクになった結果、人気のアーティストに混じって新人のアーティストが入るようになり、その人たちが中堅ミュージシャンになって育つようになった。

 やはりプラットフォームが変わればコンテンツも変わっていく。音楽だってアナログレコードからCDになってA面・B面がなくなった。一方で、知り合いのミュージシャンによると、フェスというプラットフォームで音楽が聴かれるようになった結果、踊れる音楽がメインになってきたという。サブスク同様、世の流れはある程度はしょうがない。そこにうまく乗っかっていくのが大事だと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)

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