フランスで昨年末、自動車の広告の中に自転車や徒歩での移動を呼びかける事項などを追加することを義務付ける法案が成立した。違反したメーカーには、日本円で約650万円までの罰金が科されることになるという。
10日の『ABEMA Prime』に出演した編集者でライターの河尻亨一氏は「タバコのパッケージを連想してしまうし、車の広告があのようになってしまうのか、ある意味で、“不自由な広告表現”になってしまうのかと、ショックだ。企業や制作者はクリエイティビティを最大限に発揮していくとは思うが、厳しい制約が課せられ、表現のパターンが決まってきてしまうかもしれない」としつつも、次のような見方を示した。
「そもそもアメリカでタバコの広告が規制され始めたのは60年代頭ごろのことだが、それは事業や商品が個人の健康に問題があるのではないのかというところからだった。それが今は個人の健康だけでなく、地球の健康も考えなくてはいけないという時代に入ってきているので、受け入れざるを得ない部分もあるのかなという感覚もある。
例えば私は『カンヌライオンズ』という、世界から3〜4万件ものキャンペーンを集めて審査する、いわば“広告業界のオリンピック”のようなイベントを取材しているが、今回の法律のような考え方をしている広告が主流になってきている面はあると思う。業界用語では“パーパス”というが、企業や商品の社会的存在意義を表現の中に入れていないキャンペーンは、広告賞的な文脈の中ではまず評価されなくなっているし、特に北欧では、むしろそのような広告を出した方が商品も売れるという状況になっている。
フランスの企業や団体でも、ここ10年ほどは地球温暖化対策やジェンダーイコーリティなど、SDGs達成のための取り組みが行われてきたので、こうした規制が入ってくるのは既定路線だという受け止め方もできる。加えて、フランスでは2年後にオリンピック・パラリンピックが控えている。そうした社会的な合意形成をした上で開催を迎えるんだという意識と、それを世界に対してアピールしたいということで、政府が乗っかってきている面もあるのではないか。
その意味では、良いか悪いかの話ではなくて、“新しい競争に勝つための広告づくり”にもなってきていて、ぶっちゃけた話、“そこに乗っかった方が勝ちだ”と精鋭化してきてもいる」。
WEB漫画家のやしろあずき氏は、ネット上の“マスク警察”の問題に触れ、「僕のことを見てくれている人たちは、そういうことを書かなくても分かってくれている人たちだと信頼している」と断言、一切“※”は使わないと話す。
「テレビ番組で“スタッフがおいしくいただきました”と出すようになったせいでもあると思っているが、僕は“※”を付けて小さく表示する、というようなのが滅びてほしいぐらいに嫌いだ。Twitterでも、ご飯のことをツイートする時には、“※食べているとき以外はマスク着けています”みたいなことを書かないといけない時代になっているが、そんなの書かなくても分かるよという感じじゃないか。ここまで日常的なところに“※”が入り込んでいくと、書く側も読む側も思考停止して、ものを考えなくなっちゃって、生きづらい世の中になる」。
河尻氏は「CMだけでなく、番組、映画、音楽など色々なコンテンツがあるが、“これを絶対に届けたい”という鉄の意志のようなものがあれば、おのずと注意書きは減っていくのではないのかなと思っている。また、欧米には、“自分たちの感覚に世界を持っていきたい”という意識があるのも確かだ。ただし、日本だけを見ておけばいいや、ということではないと思う」とコメント。
「僕たちが電車内のポスターや、ネットで見かけた広告などを、どれだけ覚えているかと言われると、ほとんど記憶に残っていない。しかし今回のフランスのニュースのような話をきっかけにして、広告は世界を知るきっかけになるツールだということだ。また、今回のような規制が日本にも来るかどうかは分からないが、やはり“※”を出さなくても済むような面白いクリエイティビティを発揮してくれる企業やクリエイターが出てくれば素晴らしいと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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