アメリカ合衆国議会の襲撃時間から1年あまりが経過した11日、毎日新聞が『米陰謀論、日本から発信か 「Qアノン主宰者」?札幌在住』との記事を1面で大きく報じた。
「Q」と呼ばれる正体不明の人物が発信する情報をベースにして、トランプ前大統領が世界を裏で牛耳る「ディープステート」と呼ばれる“闇の政府”と戦っているといった陰謀論信奉者「Qアノン」。そこに、ひろゆき(西村博之)氏が買収・運営するネットの掲示板『4chan』が深く関わっていたというのだ。
「4chan」の問題を取材してきたルポライターの清義明氏はまず、この『4chan』の底流には日本の『2ちゃんねる』のカルチャーがあると主張する。
「このようなコミュニケーションはネットならではで、自由な言論が行われている既存のシステムや考え方を破壊できる“武器”になるのではないかと、1990年代前半の段階で言われていた。実際、日本でもネットが携帯に入ってきた2000年代に世論はだいぶ変わってきたし、地上波やBSの放送のように放送法やBPOの縛りを受けないYouTubeとかTikTok、ABEMAなども出てきた。その元祖とも呼べる巨大な存在が『2ちゃんねる』だし、匿名掲示板の文化も日本で生まれたと言ってもいいくらいのものだと思う。
2000年代には“在日朝鮮人陰謀論”が流行った。昨年も健康食品・美容系企業の社長が“NHKは朝鮮人に乗っ取られている”といった完全な陰謀論を自社のホームページで主張していたが、こうしたものを増幅させたのが『2ちゃんねる』だと考えている。
これがオタク文化と共にアメリカに伝播し、なんでも嗤ってやろう、中には誹謗中傷も差別もある、というものが増幅されていった。それが『4chan』で、アメリカの大手メディアが“ネットの最大のごみ溜めであるけれど、色んな社会の流れを作るためのエンジンとなっている”とも報じている。そういう中で、非常にインチキくさいおじさんの議論が、あたかも真実であるかのように取り扱われるようになってしまったというのが流れだ。
そして正確に言えば、これらは“匿名掲示板”ではなく、ハンドルネームも持たない人たちが喋っている“無名掲示板”だ。今は『Reddit』などに移ってちょっと落ちてきているが、一時は凄まじい影響力があった。その是非について、皆さんはよく考えた方がいいと思う」。
テレビ朝日の平石直之アナウンサーが「ひろゆきさんに話を聞くと、かつての『2ちゃんねる』は利用できるのは一部の人で、間違ったことがあった場合には“すぐに違う”と指摘するようなファクト重視の文化があったということだった。それが今は違う形で散らかっていく中で、陰謀論めいたものも抑え込めなくなっているんじゃないか、という話だった。だからひろゆきさんと直接繋げるのは、話が違うような気がする」と指摘すると、清氏は「何億円もの賠償金を払わないで逃げている人が言う話ではないと思う」と反論した。
続けて清氏は、毎日新聞が報じた「ロン・ワトキンス」という人物について「西村博之さんは小学生の頃からよく大変よく知っている方だと思う。非常に複雑な関係がある」と話す。
「毎日新聞さんの記事は『Q:Into the Storm』(=『Qアノンの正体』、HBOMax)というドキュメンタリーの“後追い”で、僕にとっては特に目新しい部分はなかった。つまり確証はないけれども、札幌在住のロン・ワトキンスという人間がQの正体なのではないか、という捉え方だ。
ただ、僕が見る限り、ロン・ワトキンスは最初のQではないと思う。考え方がかなり違っているし、文体なども明らかに違う。ある意味で知的な、あのような文章を書くことはできないと思う。加えていえば、西村博之さんが運営する『4chan』に書くわけがない。なぜなら西村さんはロン・ワトキンスと、その親父さんであるジム・ワトキンスに『2ちゃんねる』を乗っ取られ、追放され、訴訟になっているので、“犬猿の仲”だからだ。
ただし、ある時期からはQとして複数の人間が書き込むようになったという研究者の話もあるし、どこかで、ロン・ワトキンスに入れ替わった可能性はある。
さらに言えば、西村さんが『4chan』のことをあまり語りたがらないのは、『8chan』という掲示板も運営しているジム・ワトキンスがQアノンの責任を問われ連邦議会の公聴会に呼ばれており、『4chan』もその一端を担ったということで訴追される可能性が出てきているからだ。今のアメリカは、そのくらいネットの陰謀論に厳しくなってきている。来月にはトランプ前大統領が自前のメディアを立ち上げると言っているが、どこまでやれるのだろうかと思うし、偏った人たちだけが集まるSNSが楽しいのか、それがうまくいくかといえば、ちょっと疑問だ」。(『ABEMA Prime』より)
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