東京23区の新築マンションの平均価格が約8000万円まで上昇したことが話題となっている。一方、バブル崩壊後の約30年、平均賃金はほとんど上がっていないにも関わらず、日常生活においてはガソリン価格の高騰や電気・ガス料金の値上げなど、庶民の生活は苦しさを増すばかりだ。
岸田総理は去年、「新しい資本主義の起動にふさわしい3%を超える賃上げを期待します」とし、企業への法人税優遇など賃上げ策を推し進めようとしているが、効果は期待できるのだろうか。
そんな状況に飼い慣らされてしまった結果なのか、若い世代の間では、金銭感覚にも変化が生じているようだ。経営コンサルタントをしているというTwitterアカウントの「たろ丸」さんは、「キャリア相談に乗ったときに将来年収400万円くらいを目指したいという若者が増えていて、その理由が仕事よりプライベートを重視したいなどではなく、単純に今の若者の間では年収400万円が高給取りだと認識されているようで、日本が本当に貧乏になってきている現実を実感しています」と投稿し注目を集めた。
■「年収400万円は“高給取り”だなと思う」
IT企業の社員で、年収が約300万円だというYouTuberのりょうさんは、1カ月の食費が3万円、つまり1食に均すと300円という生活を送っている。“あまり物を持たない”というポリシーで、衣類についても、昔買ったものを大切に着続けている。
「こんなにやっているのに300万なのかという気持ちもあるが、仕事を頑張ったところで300万以上稼げる日は来ないなと思い、自力で行動しようと、YouTubeを始めることにした。ただ、“切り詰めている”という感覚は全くない。普通にやりたいこと、楽しいことを優先順位の高いものからやって生きている感じだ。
もちろん、スマホのない15年前だったら今のような暮らしは無理だったかもしれないと思う。本を読もうと思ったらメルカリで買ってメルカリで売ればいい。Apple製品は高いが、これもちょっと使って売れば、安く使えることになる。クルマだってカーシェアがある。もちろん不満が全くないと言えば嘘になる。それでも、この生活に本当に心の底から満足している」。
そこで「たろ丸」さんのツイートについて尋ねてみると、「同意見というか、まさに僕のことだなと感じた。年収400万円は、“高給取り”だなと思う。ただ、バブルを経験したわけでもないし、最近になって貧乏になったなと感じることはない。YouTuberの収益を入れればそのくらいにはなるが、僕も本業でそのくらい稼げるようになりたい、そんな仕事をしたいなと思う」と語る。
かつては上京していたが、いまは地元に戻っている。「もうすぐ結婚しようかなと思っているが、現実的に考えれば共働きがマストだと思う。そうなると、育休・産休の間はどうなるんだろうといった不安もある。ただ、今の仕事で給料を上げたいとか、転職して給料を上げたいという気持ちはなく、あくまでもやりたいかどうかで決めたい。やるからには頑張りたいし、せっかくなら楽しみたい。だからそれまでは副業で何とか家計を安定させつつ、というのが僕の価値観だ」。
■森永卓郎氏「りょうさんはいい選択をしたと思う」
19年前、「年収300万円時代」の到来を予測した著書がベストセラーとなった経済アナリストで獨協大学教授の森永卓郎氏も、こうした状況について「日本の実質賃金は、物価を調整すると1997年から下がり始め、この四半世紀、真っ逆さまに下がり続けている。そうなるのは分かりきっていたし、今後はもっと下がっていくと思う」との見方を示す。
「バブルの頃のエリートは、30歳を超えたら年収1000万円を超えていた。大手銀行の内定を取った瞬間に生涯年収6億が確定していたし、フジテレビなら8億が確定していた。しかし今は入社してからの賃金の上昇率も劇的に小さくなってきていて、そういう道はなくなってしまった。
だからみんなも現実を冷徹に見ているということだと思うし、りょうさんみたいな人もすごく多くて、有楽町にふるさと回帰支援センターというのがあるが、若者中心に地方移住の希望が爆発的に増えているようだ。うちの学生たちも、10年ぐらい前まではみんなが東京で就職していたが、どんどん地方を向くようになっている。
やはり東京はお金を持っている人だけが楽しい街。若者はみんな車もパソコンもテレビも持っていない。スマホがあればいいじゃんと。音楽だって、楽器がなくても、作曲も演奏も全部できちゃうからそんなにお金はいらない。リモートワークが普及すれば、豊かな地方のほうが全然いいとなると思うし、私はりょうさんはいい選択をしたと思う。
今後はものすごい勢いで年金が減っていく。今は夫婦で厚生年金が21万円だが、30年後には13万円まで下がる。それでどうやって暮らすのか。私は5年前から一人社会実験として、家の近所で30坪の畑を耕している。それだけで、家族が食べる分は自給できるし、ちょっと余ったので、去年と今年の阿佐ヶ谷姉妹は、うちの野菜で育った(笑)。
ただし、上昇志向のある人がいなくなったわけではない。学生と話をしていて感じるのは、起業するんだ、自分でビジネスをやるんだという意欲が出てきている。かつてアメリカ人に“なんで学生のうちにどんどん起業するの?”と聞くと、それは“社会が違うからだ、日本みたいにローリスク・ハイリターンの就職先があれば、俺らだってそっち行くよ”と言っていた。その意味では、ある意味で普通になってきた、アメリカみたいになってきたということではないか」。
■堀潤氏「“やめようぜ、変えようぜ”と言わないとダメだと思う」
フリーアナウンサーの柴田阿弥は「問題のツイートの“若者”がどういう人物なのかはわからないが、大卒の初任給の平均が25万円くらいなので、年収で言えば約300万くらいだし、全世帯の年収の中央値を見ても437万円なので、“とりあえず400万を目指そう”というのは地に足がついた目標といえるのではないか。“日本が貧しくなっている”みたいなツイートは最近よくバズるし、私はそういう投稿の一つかなと思って見たし、むしろ、新卒でいきなり“年収1億円を目指す”と言う方が心配だ」と指摘する。
「りょうさんも私も、“失われた20年”の間に生まれているので、豊かな時を経験していない。むしろ貧しいのが当たり前だし、良くないことだが、諦めになっている人もいるんじゃないか。それでも地域差以上に性格差もあると思う。いくら稼いでいれば十分というのはないと思う。結局、どれだけ年収があっても将来不安は消えないし、多く貯めこんだ人の方が生き残れるので、報酬の追求は止まらないと思う。逆に年収が下がった時に不幸を感じるのだと思えば、生活レベルを上げすぎないことが必要なのではないか」。
パックンは「りょうさんの話を聞いていて、自分の貧乏時代を思い出した。年収300万円弱で、似たような生活をしていたし、終身雇用の時代に日本にやってきて、給料が上がりっぱなしのテレビ局社員が羨ましい限りだった(笑)。でも、りょうさんの暮らしの方が圧倒的に豊かだと思う。当時はレンタルビデオ屋さんで、1本1泊400円で映画を借りていたが、今なら1000円くらいで見放題だ。当時がPHSに6000円くらい払っていたが、同じくらいの値段で、今はスマホが使える。確かに実質賃金は下がってはいるが、見えない部分で豊かさが増えていることも忘れてはいけない。ただ、起業率が低いのはどうしたものかなと思う」。
ジャーナリストの堀潤氏は「労働の闘士みたいな感じになってしまうが(笑)、僕は人間の尊厳を奪う働き方を社会が強要してはいけないと思っている。本当はこのぐらいの値段なのに、お前はこんなもんだと叩きつけるような世の中はろくなものじゃない。りょうさんという人材の適正な価値も、300万円ではないと思う。そうやって、人を買い叩く社会を絶対に許したくはないと思う。やっぱり自分で値付けをする側に回るべきだと思うし、回れるようにしたらいい。でも、そういうことを考える力を奪うようなものがある」と憤る。
「メルカリでの“自給自足”が成り立っているうちはいいけれど、いきなりハイパーインフレになったとか、戦争や大きな災害が起きたということになれば、途端に生活が成り立たなくなる可能性があるわけだ。そうなれば不幸を背負うことになる。今のうちから、余力のある人たちが“やめようぜ、変えようぜ”と言わないとダメだと思う」。(『ABEMA Prime』より)
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