アメリカのメリーランド大学が10日、世界初となるブタの心臓を人間に移植する手術に成功した。
【映像】移植手術を受けた男性、執刀医とツーショット(10秒ごろ〜)
手術を受けたのは、末期の心臓疾患を持つ57歳の男性。男性は手術前日に「死にたくなければこの移植を受けるしかなかった。私は生きたかった。危険は承知していたが、それが私の最後の選択だった」と語っていた。
術後3日が経過したが、状態は良好だという。ブタは、拒絶反応を引き起こす遺伝子を除去するなどの操作が行われていて、動物の心臓がヒトの体内で機能し、免疫の拒否反応を起こさずにいるのは初めてだという。執刀した医師は「臓器不足問題の解消に一歩近づいた。世界初のこの手術が、未来の患者にとって新しい選択肢になることを期待している」とコメントしている。
アメリカの保健資源事業局によると、国内のおよそ11万人が臓器移植を待っている状態で、人間の臓器と似ているブタの心臓や腎臓などの移植研究が進んでいるという。
このニュースに日本初の個人向け大規模遺伝子検査・解析サービスを手がけるGenequest(ジーンクエスト)の代表取締役・高橋祥子氏は「こんなに早く実現するとは」と驚く。
「動物の臓器のヒト移植は昔から研究されていましたが、免疫拒絶などの問題で実用化はかなり難しいと思われていました。今回は免疫の拒絶反応に関わる遺伝子をなくし、ヒトが受け入れられるような免疫遺伝子をブタに入れてから、移植をしています。昨年10月にアメリカで行われたブタの腎臓を移植する手術は、脳死状態の方が生命維持装置を外す直前に家族が同意しました。今回は、移植して、その臓器と一緒に生きていく。こんなに早く実現するとは思わなかった」(以下、高橋祥子氏)
昨年10月、ニューヨーク大学のランゴーン・ヘルス外科医らのチームは、ブタからヒトへの腎臓移植成功を発表。移植された新しい腎臓は、脳死状態だった患者の血管につながれて、体外で3日間維持された。このときの移植手術でも、ブタの遺伝子が操作され、拒絶反応を起こす分子を取り除いていた。患者の家族は、脳死状態の患者が生命維持装置から外される直前に実験に同意したという。
世界で注目を集めているブタからヒトへの臓器移植。臓器の大きさは、釣り合っているのだろうか。高橋氏は「ブタの心臓はヒトのサイズと似ていて、比較的受け入れられやすい(大きさの)臓器だと思います。他の動物からの移植も研究がされているが、今回は『ブタが最も適しているのではないか』ということで選ばれたのでしょう」と話す。
一方で、高橋氏は「ブタの記憶がヒトに入るなんてことはないだろう」とした上で、「ブタの心臓が他の臓器にどのような影響を及ぼすのか。未知なので、影響がないとは言い切れません。患者さんが今後どうなっていくのか。健康で生きていけるのか。重要なデータの“最初の一歩”になるでしょう」とコメント。家畜の臓器利用は、今後人間に受け入れられていくのだろうか。また、倫理的に問題はないのだろうか。
「今回のケースは、死か移植か、それ以外の選択肢がありませんでした。結果、移植を行い、今のところは成功しているので、良い事例だったと言えますが、ただ、昨年の脳死状態だった患者さんでいうと『脳死状態であれば何やってもいいのか』『(移植の)安全性を試すことに使っていいのか』という問題があります。最近では、ブタの中で人間の臓器を作る研究もされています。そうなってくると、どこからがブタでどこからが人間なのか、境目が曖昧になってきます。技術的にできるけど、どこまでやっていいのか。倫理的な問題がどんどん発生してくると思います」
(『ABEMAヒルズ』より)
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