2021年2月28日を皮切りに3月3日、3月7日、11日など、わずか13日間で4回のトラブル。その後8月、9月にもシステムトラブルは改善せず、入出金振り込みなどが停止する異常事態に。それらを受け、11月には金融庁による業務改善命令、財務省による是正措置命令などが出された。年が明けてもシステムトラブルは改善の兆しを見せず、今月11日にはネットバンキングが利用できない問題が発生。一連の相次ぐトラブルを受け、今年4月に予定されていた社長交代が前倒しされるという責任問題に発展した。
思えば、みずほ銀行の歴史はシステムトラブルと共に幕を開けている。
【映像】「『合コンなのに…』と女性に胸ぐらをつかまれた」元行員が証言
1999年に第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が合併。2002年4月に迎えた“みずほ銀行新体制”だったが、その初日にシステム統合の失敗によるATM停止、二重引き落とし問題が発生。当時、財務大臣を務めていた塩川正十郎氏は「あんなアホなことあるか」とあきれた様子で報道陣に漏らしている。ちなみに、当時のみずほ銀行の社長は、現NHKの会長を務める東大法学部卒の前田晃伸氏である。
その後もみずほ銀行のトラブルや不祥事は続く。2011年、東日本大震災の義援金が集中したことを受け、システムダウンによってATMが利用停止。さらに2013年、不適切融資が発覚して首脳陣は退陣。このときは計54人に処分が下されている。
システムトラブルの背景については、合併が招いた弊害と指摘する声は多い。システムに関しては、一社に絞らず富士通や日立、IBMなど複数の得意先が参入した結果、混乱をきたしたとも。
16日にABEMAで放送された『ABEMA的ニュースショー』では、みずほ銀行の元行員、さらに現行員に取材を行った。京大を卒業後、みずほ銀行を経て同番組の構成作家を務める渡邊亮太氏は、古巣のシステムトラブル問題について「一生完成することが無いシステム界のサクラダ・ファミリアと言われていた」と明かす。さらに、肌で感じたこととして「先輩上司が気にしていたのは、旧何銀行出身か、ということだ」との指摘も。
また、合併前に入行したことによって当時のシステム統合に際しての混乱を目の当たりにしてきたというみずほ銀行の元行員であるAさんは次のように語る。
「システムをどこかで一本化するべきだった。両方の“いいとこどり”をしましょうというのは難しい。そこの決断が甘かったと思う」
実際、Aさんは2002年の発足直後から見舞われたトラブルの対応にあたっている。当時のこんなエピソードも。
「ATMが止まってしまったので、営業の方も全員ATMコーナーに行って、ただ一カ月間お詫びだけ。女性の方に『今から合コンなのにお金がおろせない』と胸ぐらをつかまれたこともあった。何もできないのが、きつかった」
また第一勧業銀行出身だったAさんは、他行について「富士銀行さんは上下関係が厳しい。立って挨拶する。白い歯を見せて笑うななどあった」と、出身銀行による文化の違いについても振り返った。
一方、みずほ銀行の合併後に入行し、現在も勤務する現役の中堅行員・T氏は「お客様にご迷惑をおかけしているのは、本当にお詫びしかございません」と切り出す。
T氏は頻発するシステム障害について重い口を開くと「作り上げたシステムのエラーとか管理保守というところがうまく行っていないと認識している。人間に例えると、持病を抱えているような状態。お客様にご迷惑が掛からないようにコントロールしながら運営していくということだが、今の問題ではトップが代わっても障害がなくなるかと言われれば、そういうことではない。誰がなっても一緒かなという感覚でいる」と半ば諦めの境地だ。
そして、現場で働く行員たちの切実な思いについても「お叱りを受けるのは当然だが、長く預けていただいているお客様を中心に『現場の人間に責任はない』と逆に励ましていただいたりもする。だからこそ、現場は現場としてやれることを頑張らないといけないと改めて思いなおした」とも明かした。
この問題について、大王製紙の前会長である井川意高氏は経営者の立場、視点から合併時の問題点について次のように語った。
「みずほ銀行の事例で言えば、本来は一番業績が悪かった“救済される側”の日本興業銀行が規模も小さく行員数も少ないのに、社内の勢力争いで勝ってしまった。その権力基盤を維持しようということで、他行出身者に対して色々な厳しい態度をとったということが、金融庁から指摘された『ものを言わない。言われたことだけをする』行風というものを生んでしまったのでは」
さらに井川氏は、自身が身を置いていた製紙業界を例に挙げ「私のもといた業界では、王子製紙は同業他社を救済合併してきたが、合併後に出身は一切関係なく、平等に社員を扱ってきた。現に今の会長である矢嶋さん(矢嶋進氏)という方は、救済合併された方の本州製紙の出身。そこから社長になれるということは、社員のモチベーションも上がる。実際に業界内での業績もいい。一方、ライバル社は過去に吸収合併した会社を差別して下に見てパージしていった結果、今では王子製紙とずいぶん業績が開いている。対等合併というのであれば、本当に対等の精神でやるべき。そうでなければ、合併した側が、合併された側を徹底的に切るなどしなければいけない」と私見を述べた。
そのうえで「みずほの場合は、合併された側の方が人数が多いので、切り切ることができないという問題が今日をつくっているのではないか。社内の権力争いが今日を生んでいると私は思っている」とも続けた。
井川氏の話を聞いたMCの千原ジュニアが、頻発するシステムトラブルについて「最新機器がトラブってるという感じがする」と感想を漏らすと、井川氏は「結局、システムもお互いに失敗しないようにと睨み合うので、システムを一つに統合するべき。とくに合併当初は、どこか3行の一つのサプライヤーに決めてしまうことができなかった。その後、興銀が権力を握ったが、最初に一つに決められなかったことが、統合したと言えば聞こえはいいが“ごちゃまぜ”にしちゃって、内部間のデータやり取りがうまくいかないなど、そういったことではないか」と応じた。
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