大学入学共通テストの日に、東大前で受験生ら3人が切りつけられた事件。捜査関係者によると、逮捕された高校2年の少年(17)は「来年東大を受験する予定だったが、『勉強しろ』との圧力が強く、勉強が嫌だった」「東大を受験するなら東大で事件を起こそうと思った」と供述している。
こうした少年の供述について、臨床心理士で明星大学心理学部准教授の藤井靖氏は「本当の意味で自分で決めた目標ではないのでは」と分析する。
「自分の中に何らか明確な思いがあって『医者になりたい』『東大に行きたい』という目標を決めたとすれば、少年が供述しているような言い方にはならないんじゃないかと思います。医者になりたいのであれば、仮に東大への道が閉ざされたところで背景にある思いは消えないので『ほかの方法もある』と考えてあがくでしょうし、東大に行きたいのであれば色々な学部や入り方もあります。(合格するまで)何年も粘ることもあり得るわけですよね。でも、『医者になる』『東大に入る』ことがかなわないがゆえに『自分も死のう』と思うということは、誰かに言われたり薦められたりして“自分の中に芽生えてきた目標”であって、本人も知らず知らずのうちにそれを背負って生きてきた印象を受けます。彼の中では自分自身と進路や目標が一体化してしまっていて、自己否定に至ったのではないかと思います」(以下、臨床心理士/明星大学准教授・藤井靖氏)
東大に行くことが“自分のアイデンティティー”になってしまっていたのか――。事件現場に東大を選んだことについて、「彼にとって東大の存在が重すぎたのでは」と藤井氏は話す。
「さまざまな道具を用意するなど、合理的判断や理性に基づいて犯行を計画しているように見える一方で、実際の犯行は稚拙な部分もあります。とにかく『今の辛い状況から逃れたい』と思った少年は、目標である東大を感情のはけ口にしたのでは。自分なりに攻撃をして何か“やってやった感”(を得る)というか、被害を与えることで、かりそめの自尊心を高められる一方で、自分自身を否定したり殺したりすることにもなり、楽になれると考えたのかもしれません」
無差別に人々を襲い、自らも死を望む……そんな悲惨な事件が相次ぐ中、藤井准教授は「17歳の少年が過去の事件に共感してしまった部分があるのでは」と推測する。
「犯罪心理として『人を刺す』とか『火を放つ』背景には、対象への強い恨みや攻撃性、怨念があるとされています。しかし今回の加害少年に関しては、(そういった感情が)そこまで強いと感じません。一方で、電車で火を放ったり、無差別に人を傷つけようとしたりする犯罪が最近続いていますよね。(少年も)何かモヤモヤすることを抱えていて、『どこかで発散しつつ、自分も死んでやろう』みたいな(最近の犯罪に)共通した心理があった。そういう事件を見聞きし、他の容疑者に対して一方的に共感力を働かせて、方法をある程度自分の中に取り入れた可能性はあると思います」
加えて藤井氏は「最近頻回に起こっているこのような事件は、現実にはその場で防ぐことがなかなか難しい。そのような中で、なぜ犯罪を起こしてしまう心理に至るのかということについて類推することで、予防の一助とすべきです。『自己責任だ』『犯罪者の気持ちは分からない』と切り捨てるだけでは、結果的に将来の犯罪を増やしてしまうリスクがある」とし、事件の背景について考察し続けることの重要性について言及した。
一方で、事件以降、懸念されているのが「受験生のメンタル」。保護者や周囲はどのようなサポートができるのだろうか。
「受験生で精神的に不安定になったり心がざわざわしたりしている方いるかと思いますが、自分に対して『大丈夫』って言ってくれる人をぜひ見つけてほしいと思います。その言葉の意図は、『十分準備してきたんだから大丈夫』かもしれないし、『仮にうまくいかなくても大丈夫』や『会場まで送って行くから大丈夫』、あるいは『あなたの人生そんなに深刻に考えすぎなくても大丈夫』などかもしれません。その都度、不安を抱きがちの受験生の心は、周りの方の『大丈夫』という一言で支えられることも多いと思います。コロナ禍でコミュニケーションが減っている状況でもありますが、ぜひ意識的に『大丈夫』を言ってあげてほしいなと思います」(『ABEMAヒルズ』より)
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