今月20日、元国会議員が救急搬送されたとのニュースが一斉に報じられた。命に別状はないということだが、捜査関係者によると、親族の通報によって警察官が自宅に駆けつけた際、元議員は睡眠薬を大量に服用し意識が朦朧とした状態だったという。
選挙違反の罪で有罪となり現在は執行猶予中だった元議員。このことを踏まえ、スポーツ紙などは“「さようなら」の前にやるべきこと”、“騒動に驚き、絶句 コロナ急拡大の中で救急車出動…国民守る立場だったのに邪魔しかねないことをしてどうする”など、強い言葉を用いて批判的に報じている。
24日の『ABEMA Prime』に出演した精神科医の井上智介氏は「こういった行動についてメディアが報じる際は、(WHOなどの)ガイドラインを守ってほしいと思う」と警鐘を鳴らす。
「こうした報道によって、何とか理性で収まっているような本当にギリギリの状態でいる方々が、どこか背中を押されたような感覚になり、苦しさを無くすために自らを傷つける行動に出ようとすることもある。結果として命を落としたとかどうかではなく、関連した行動であっても、ガイドラインに基づいた扱いをしていただきたい。
こういった辛辣な言葉が並ぶことで、この方の“やり直し“の道が閉ざされてしまう可能性もある。やり直しというのは本人だけの力だけでは難しく、誰かの力を借りることが必要だが、今回のような報道が届いてしまうことで、“周りの人も皆そう考えているのではないか”と思い込み、誰にもSOSを出せずに抱え込んでしまうという、ある意味で非常に危険な状況を生み出すことにもつながる」。
一方、井上医師は「正直言って、当事者にとっては死ぬことが今の辛さを解決する解決策、ある種の“一筋の光”のようなところもある。だからメディアに“それはダメだ”というメッセージを届けられることもまた、苦しいということになる」とも指摘する。
「その意味では、メディアがあまり触れない、とうことも一つの方法だと思うし、何かできることがあるとすれば、当事者が近しいところに目を向けられるような声掛けをしてくれれば、救われることもあると思う例えば僕は“とりあえずマックス3人で良いから、SOSを出してくれ”と言っている。“できる限り”と言うとキリがないが、経験上、1人、2人はあまり力になってくれなくても、3人ぐらいいれば、誰かが力になってくれたり、心配してくれたりする。
やはり周りの方の理解が一番大事だし、そういう方が一人もいないと、自分は孤独・孤立しているんだと感じてしまうと思う。なので、本人が何も言わなくても、できるだけ側にいてあげる人がいて、違う価値観もあるよ、粘り強く生きていきましょう、ということが伝わっていけばいいと思う」。
テレビ朝日の田中萌アナウンサーは「大部分の人はそうは思っていなくても、声を上げた一部の人のセンセーショナルな意見が世の中の意見のように見えてしまうのもSNSの怖さだし、問題点だと思う。それから、失敗に厳しすぎる気がする。事件について個人が思っていることを書くのはいいとしても、命にかかわるようなことに関してまで、よく他人にそんなことを言えるな、ということを書き込むのは違うのではないか」とコメント。
また、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「ネットがなかった時代、メディアや政治は、いわゆる民意、あるいは“庶民感情““市民感情”と呼ばれるものに寄り添うべきだと言われてきた。しかし誰もがSNSで情報発信ができるようになり、我々は悪口や罵詈雑言を無くすことはできないということを何度も経験してきたはずだし、民意、あるいは“庶民感情““市民感情”と呼ばれるものが、決して美しい、良いものばかりではなく、悪意も孕んでいて、あっという間に暴走するものだということも分かってきたはずだ」とメディアのあり方を批判する。
「つまり、今や“読者が喜ぶから”、“視聴者が喜ぶから”という発想で記事を書いたり番組を作ったりして、先頭に立ってSNSの民意に火を点けて回るのではなく、その暴走を抑制する側に回るのが本来のメディアの役割ではないのか。あるいは“ネットの声は…”と言って誹謗中傷のような意見ばかり取り上げるのではなく、SNS上にある膨大な専門家の意見をすくい上げる仕組みに変えていくべきだ。それこそTwitter検索をすれば、井上先生のツイートもすぐに見つかる。そういうものを取り上げればいいのに、どうしてわざわざ“責任を取れ”みたいな声を引っ張ってくるのだろうか。
また、ネットスラングに“謝ったら死ぬ病”というものがあるが、逆に謝っているのに追い詰める人が増えていて、“絶対に謝っても許さない病”のような空気が蔓延していると思う。元議員についても、執行猶予付きではあるが有罪判決が出ているし、法的な制裁という意味では終わっているわけだ。そこに対して、さらに言葉の暴力によって過剰な私的制裁を加えていいのかどうか。報道機関の側には、“この報道はリンチになっていないか”、ということを一歩引いて自覚することが必要じゃないか」。(『ABEMA Prime』より)
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