「小学生の様子がいつもと違うなと思うと、声をかけるように。無理して行くとかわいそうなので」。
【映像】転倒事故に犬襲撃...時に無茶ぶりの民生委員 それでもやりがい? どう制度維持?
都内在住の加賀野恵理子さん(68)は、毎朝7時半に自宅を出て、近くにある小学校の通学路へと向かう。地域住民の安全を見守る「民生委員」として、この10年以上、“あいさつ運動”をしているのだ。
自治会などからの推薦を受け、厚生労働大臣が委嘱する特別職の地方公務員「民生委員」。加賀野さんの活動を見ても分かるとおり、民生委員は「児童委員」も兼ねている。
高崎健康福祉大学の金井敏教授は「法律によって役割は異なるが、結局は1人なので、活動内容の区別はできないと思う」と説明する。
「やはり地域の活動を長くやっている方や世話好きの方など、みんなが“あの人だったら任せられるよね”という方が選ばれるパターンが多いと思う。もちろん市区町村からの募集もあるが、基本的には“あの人が辞めます。じゃあ次の方どうしますか”“お願いできませんか”ということで、町内の中で決まっていく」(金井敏教授)。
「民生委員」としては地域の高齢者や障害者の生活の安全を確認する訪問活動などを通じて、住民と行政との橋渡しとなり、地域によっては屋根の雪下ろし作業を手伝うこともあるようだが、活動の対価はいずれも無償。つまり、全員がボランティアなのだ。
「無報酬が基本というのは大正時代から変わらない。仮に給料をもらっている人が“役所から来た公務員ですよ。どんな相談でもどうぞ”と言っても難しく、地域にいるからこそ、挨拶をしながら“今日元気?どんな暮らししているの?”“じゃあ、ちょっと相談に乗って欲しいのだけどお願いできますか”みたいなやり取りができるということで大切にしてきた」(金井教授)。
前出の加賀野さんも「皆さんが元気に育ってくれているのが嬉しいし、それがやりがいになっているかなと思う。町ですれ違った時、中学生になった子に“今、試験勉強頑張っているよ”って言って頂けると、懐かしくてちょっとウルウル来る」と目を細める。
他方、全国民生委員児童委員連合会の調べによれば、全国の民生委員の平均年齢は66.8歳(2018年)。民生委員が活動中に負傷する事例も相次いでいる。多くは移動中の転倒や交通事故だというが、中には訪問先で犬に噛まれたり、ボウガンのようなもので撃たれりしたケースもあった。
「もちろん若い人にどんどん入ってきてほしいし、NPO法人などを立ち上げて頑張っている若者もたくさんいらっしゃる。ただ、そういう方は地域とのつながりが弱いというか、高齢化した自治会・町内会の方々の考えやニーズに即応して解決を図るという部分ではミスマッチが起こる場合がある」(金井教授)。
問題はそれだけではない。寺の住職で、葛飾区の民生委員・児童委員協議会の会長を務める小林隆猛さん(63)は、「上の階の住人の物音がうるさいから何とかしろという相談もある」と苦笑する。
「ただ、“それは民生委員の仕事じゃないから”って断ってしまうと、本当に民生委員に相談しなくてはいけない時に“あの人には相談できないわ”となってしまうから…」
そもそも小林さんの場合、望んで民生委員になったわけではない。それどころか、「父親がやっているのを見て、民生委員だけは受けたくないと思った」と明かす。
「うちの地域では推薦母体が自治長会になるが、町会長さんと副会長さんがやってきて、玄関先で“やってくれ”と。“ここじゃ話もできないから中に入ってくれ”と言うと、“とにかく受けてくれ。ここで断られてしまうと、お寺の後ろを流れている川に飛び込むしかないから”と。いわば脅かされて、やるしかないと…」。
就任1年目は民生委員としての研修を受け、前出の金井教授の話も聞いたという。活動に充てている時間は、週に1時間程度だというが、無償であることについてはどう考えているのだろうか。
「やはり報酬をもらってしまえば、“責任問題”が出てくる。私たちは要するに、“地域に住んでいるおじちゃん、おばちゃん”だ。そんなに責任を押し付けられても何もできないし、成り手がさらにいなくなってしまう。“話は聞けますよ。つなぐだけですよ。あとは専門家に相談してくださいね”というのが私たちの務めだ」。
それでも、個人情報保護の観点から名簿作成への協力を断られたり、昨年からはコロナ禍によって大きな制限も生じたりするなど、活動には苦労もつきまとう。
「他の区では外出するのを家族に反対され、辞めてしまった人もいるというし、委員の半分が入れ替わった地域もあるようだ。そもそも時代の変化もあって、サロン活動とか自主的な活動も増えてきていた。ただ、その“自主的な活動”とは何をやればいいのかということ自体も大変だと思う」。
仕方なしに民生委員となって26年。小林さんは「やっぱり人に喜んでもらえることがやりがいだ」と振り返る。
「民生委員でなければ出会えなかった人との出会いもある。長くやっている人ほど、受けてとても良かったという回答が増えるのもそのためだと思う。1期(3年)で辞めてしまうと、民生委員の本当の良さはわからないと思う」「なんだかんだいいながら“寅さん”の地元なので、町会組織もしっかりしているので、まだ義理人情も強い」。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「この制度は、いわゆる“自助・公助・共助”の中でも共助にあたる部分だと思う。ただ、かつてであれば商店街振興組合、農協、檀家などの地域共同体みたいなのがいっぱいあったが、都会のマンション群や、地方でも過疎化によって共同体の維持が難しくなってしまっている。また、昭和の時代であれば退職金や年金で老後の生活も安定していたので、“じゃあ地域にお返ししよう”ということも言えたと思う」と指摘。
その上で「最近の若い世代は社会参加、社会貢献したいという意識が強いし、地方移住などで新しいコミュニティも生まれている。そういうところをベースに、新しい形の民生委員のようなものを育てていかないといけないと思うし、保護司のように、有償で専門的なスタッフの育成も必要になってくると思う。また、支援を受ける側も、昔のように子ども2人のサラリーマン家庭のような“標準世帯”ではなく、単身世帯ということになってくる。それこそインターネットを駆使した支援のような方法も考えなければ、膨大な世帯数には対応できないのではないか」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・キー局全落ち!“下剋上“西澤由夏アナの「意外すぎる人生」
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・「ABEMA NEWSチャンネル」知られざる番組制作の舞台裏