「安全保障の専門家は“始まる”という前提で考え始めている。2月10日〜20日が非常に危ない」ロシアによるウクライナ侵攻の可能性、小泉悠氏に聞く
小泉氏の解説 »

 ウクライナ国境近くで軍事演習を継続するロシア。24日、NATO(北大西洋条約機構)は対抗措置として東ヨーロッパに戦闘機などを追加派遣することを明らかにした。

 ロシアにとっては旧ソ連の一部である一方、西側諸国との“緩衝地帯”でもあったウクライナ。それが西側の軍事同盟であるNATOへの加盟を掲げたため、ロシアは認めないよう要求。敵対するなら軍事的措置で抗議すると警告した。一方、アメリカ国防総省は米軍に8500人規模の派遣準備を指示。さらにウクライナにあるアメリカ大使館職員の家族全員に対し国外への退避を命じている。

「安全保障の専門家は“始まる”という前提で考え始めている。2月10日〜20日が非常に危ない」ロシアによるウクライナ侵攻の可能性、小泉悠氏に聞く

 25日の『ABEMA Prime』では、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏に話を聞いた。

【映像】国境付近に10万の兵...衝突間近?

■ウクライナを“分割”する構想も?

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 地図を見ると分かるように、ウクライナというのは面積が日本の1.6倍くらいあるし、人口も4000万人以上と、旧ソ連の中ではロシアに次いで第2位だ。ロシアとしても、自分たちを中心に旧ソ連の国々をまとめていく上で、ウクライナは同盟国にしておきたい。

 一方、そのウクライナでは2013年、EUの側につくのか、それともロシアの経済連合に入るのかで揉めた結果、政権が崩壊してしまったことがあった。その時にロシアはウクライナに軍隊を送り込んでクリミア半島を取り、東部のドンバス地方では今も戦闘が続いている。

 実は2014年頃のクレムリン(ロシア政府)は、ウクライナの東側に住むロシア語を話す人々は自分たちを歓迎してくれるだろうと考えていた。しかし旧ソ連が崩壊してから30年も経っているし、“我々はロシア語を喋っているかもしれないが、ウクライナ人だ。勝手に併合なんかされたくない”と、意外に強い抵抗を見せた。

 そこに改めて軍事的圧力をかけ始めたのが去年の春頃からだ。プーチンさんも7月には“ロシアとウクライナは本来一体なんだ”“今のウクライナはアメリカの手先になってけしからん。もう一度、ロシアの同盟国に戻ってこい”という論文を書いた。

 2014年の段階で、ロシアは現地住民が蜂起することも見越して、国土を4つくらいに分割し、ロシアに逆らえない弱い国の集まりに変えられるのではないかということも考えていたようだ。今回も、そういうことを狙っている可能性はあると思う。

■プーチン大統領が命令すれば大規模な軍事作戦に

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 最終的にはプーチンさん本人に聞いてみる他はないが、ロシアがウクライナ周辺にかつてない規模の軍事力を集めていることは間違いない。去年の春頃からロシア西部にいる部隊が南下してきたが、さらに中央アジアにいる中央軍管区の部隊も、今年に入ると日本の周りにいる極東の部隊まで鉄道で送り込んでいる。

 ロシアの地上兵力は36万人程度とされているが、ウクライナ国防省の見積もりでは、そのうち12万7000人くらいが集まってきているし、そこにはすぐに戦闘に入れる編成の代替戦闘団の約半分も含まれているようだ。私はロシア軍を見て15年になるが、こういうことは訓練でもやったことがない。

 もちろん、これから何も起こらないのが一番良いが、残念ながらプーチンさんが命令しさえすれば、本当に大規模な軍事作戦ができる状況になっていることは間違いない。すでにロシアはものすごい数のミサイルや火砲も集めているし、火力で圧倒しながら戦う体制が作られていることは間違いない。真正面からロシア軍がバーンと入ってきてウクライナ軍の主力とぶつかれば、おそらく短期間でロシア軍が勝つだろう。

 一方のウクライナは人口も多いので、20万人くらいの規模の軍隊がいる。旧ソ連15カ国のうち、10万人以上の軍隊を持っている国はロシアとウクライナだけだ。その意味では、ロシアとしても相当の損害を覚悟しなければならないし、我々も“普通、それはないよね”と思っていた。

 また、真正面から入れば、その後の占領統治が非常に難しくなる。昔の日本軍もそうだったが、広い国を占領しようとすると、必ず後方でゲリラ戦が始まることになる。ロシア自身、ナポレオンやヒトラーをそうやって苦しめたし、ウクライナもドイツとロシアに対してそういう戦い方をした。だから、何らかの形で短期決戦できるようなことを考えているのではないか。

■“見えない戦争”を起こす可能性もある

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 ロシアが2014年にウクライナを攻めた時に、最初は覆面をした兵隊がいっぱい現れて、議会やテレビ局など重要施設を占拠していった。さらにインターネットなどを遮断し、ウクライナ本土の情報が入ってこないようにした。そういう中で、ロシアに煽られたと思われる現地住民が“我々はロシアに入りたい”とデモを起こして騒いだ。

 そこにロシアが“政変でできたキエフの新しい政府はネオナチストだ”“ロシア系住民を迫害するつもりだ”という情報をバーっと浴びせかけることで、心配になった人々がロシアに占領してもらった方がいいのではないかという話をしだすようになった。今回もそういう状況を作り出すことを考えているのかもしれない。

 また、2015、2016年にはサイバー攻撃によって、一部の地域の電力を丸ごと落としてしまうという攻撃をやってもいる。こうした手法を組み合わせることで、社会インフラが動いていない、ネットもテレビも見られない、そういう中でよく分からない人たちが暴れ、そこに対してロシアが“我々は平和維持部隊だ”“人道援助だ”と言って入っていくという、“見えない戦争”を起こす可能性もある。

 私の専門はロシアの軍事思想だが、ロシアの将軍たちが書いているものを見ると、そのような戦争を計画し続けている。一方で、ロシア軍の制服組トップ・ゲラシモフ参謀総長の好きな言葉は“戦争にテンプレートはない”だ。我々がこうして想像しているというのとは別の方法、つまり本当にものすごい火力で圧倒しながら入っていくという、思い切った“正攻法”を取る可能性もあるだろう。

■NATOは“武器を送るので、なんとか頑張ってくれ”

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 NATOが軍事力を使ってまで止めにいくかどうかというは、かなり怪しい。やはりウクライナは同盟国ではないので守る義務はないし、ロシアは核保有国なので、最終的には核戦争までいってしまう可能性もある。

 また、去年12月にバイデン大統領がプーチンさんとオンライン会談をしているが、その後、早々にアメリカ単独で軍事力を使うことはないと言ってしまっている。イギリスもそうだ。現時点でNATOの国々が言っているのは、“やったら経済制裁を課して、経済的にひどい目に合わせる”というところまでで、“我々が入って止める”とまでは言わない。あるいは“武器を送るので、ウクライナなんとか頑張ってくれ”という感じだ。

 一方、ロシアは去年12月、NATOとアメリカに対して“これ以上NATOを東に拡大しない”という条約案を提出、これを認めろと言っている。ロシアもこれだけ軍隊を集めてきたので話し合おうじゃないかということで、今年の1月に3回連続で協議をやったが、NATOもアメリカも絶対に飲めないというスタンスで、ロシアとしては“決裂した”と言っている。

 ここから西側ができるのは、やはり経済制裁だ。しかしロシアという国は何でも自給できるので、あまり効かない。2014年に食らった時も、市民生活には影響が出たし、エネルギー部門にお金が入ってこなくなってしまった。しかし、それで破滅的な状況になるかと言えば、そんなことはない。SWIFTという国際決済システムから排除するという話も出ているが、すでに排除されている北朝鮮もイランも、国として潰れているわけではない。

■来月の10日から20日にかけての期間が非常に危ない

「安全保障の専門家は“始まる”という前提で考え始めている。2月10日〜20日が非常に危ない」ロシアによるウクライナ侵攻の可能性、小泉悠氏に聞く

 やはりここからはプーチンさんの“世界観”の問題に入ってくるだろう。国内の経済が多少悪くなろうとウクライナを取り戻すんだという決意があるとすれば、もう止めることはできないだろうというのが大方の見方だ。だから外交セクターの方や経済セクターの人たちが“何とかロシアを止められないのか”と一生懸命考えている一方、非常に残念な話だが、私のようにロシアの軍事などを見ている人たち、あるいはアメリカの安全保障の専門家たちは、“始まる”という前提で考え始めている。

 当のウクライナも、“NATOに入りたい”と憲法に書くなど、何が何でもロシアの勢力圏から逃れるということを国是にしているが、ロシアは諦めて、中立という条項を憲法に書けと2015年くらいから言い続けている。ウクライナとしては当然、そんな話を飲むわけはない。

 私としても何らかの落としどころが見つかればいいとは思っているが、あまりにもロシアの要求が強行過ぎて、落としどころらしきものが全く見えてこないし、軍事力の行使を回避できそうな雰囲気も見当たらない。それが非常に不気味で怖い。

 そして、来月の10日から20日にかけて、ロシア軍がベラルーシにおいてベラルーシ軍との大演習をやることになっている。大体、過去に大戦争が起こる時は“演習”という名目で始まることが多いので、この期間が非常に危ないと思う。ロシア軍が通常戦力の演習を行う場合は核部隊の演習をするが、去年はやっておらず、今年は“延期する”と言っている。もしかすると、ここで核部隊の大演習を行い、NATOに対して“手を出すな”と言いながら、ウクライナに対しては通常部隊での侵攻、もしくはハイブリッド戦を仕掛けるというシナリオがありえそうだ。

 こうした問題は、我々にも跳ね返ってくる。例えば台湾でこういうことが起きた場合、ヨーロッパ側から“中国の気持ちも分かる”と言われてしまえば我々はおしまいだ。だから日本としては、“ロシアの気持ちも分かる”と言いたい気持ちがあっても、軍事力による現状変更はダメだとはっきり言わなければ、国際秩序全体に対してまずいし、我々の安全保障面にも良い影響がないと思う。(『ABEMA Prime』より)
 

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