マスメディアが日々速報している新型コロナウイルス関連の情報だが、「死者数」についての報道が話題になっている。例えば今年に入って重症者数0が続いている山梨県では死者数は6人(1日時点)が報告されているが、これは死因が老衰や他の病気であったとしても事前検査で新型コロナウイルスの陽性であれば計上するという厚生労働省のルールが影響している。
同省は、発表は“速報性”を重視しているのが理由で、正確な人数は後に示すとしているが、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「厚生労働省が悪いのではなく、メディアが速報のための情報を要求しているからだ」と指摘する。
「結局、起きた事実を単に報道していればいいと思っている人がいるということだ。確かに、速報値で死者数はこれだけ、というのは客観的な事実ではあるが、その裏に潜んでいる“物の見方”や、視点が抜け落ちている。ワクチン摂取に関する報道もそうで、亡くなった人については因果関係が分からなくとも“有害事象”として発表することになっているが、それをそのまま報じてしまっているので、ワクチンが原因で人が死んでいると勘違いし、騒ぐ人がいっぱい出てくる。
一方で、厚労省が数字を出さなければ、今度は“隠している”と怒る。疑わしい数字も全て出している、それを右から左にそのまま流してはいけない、という前提を理解した上で報道しなければ、何も進歩しない。そのようにして、情報を一般市民に分かりやすく説明することを“科学コミュニケーション”と言うが、日本のメディアはそこが極めて弱く、ほとんどやっていないとさえ言われている。そういうことができる記者やリポーターを増やしていくことが大事ではないか」。
また、慶應義塾大学の若新雄純特任准教授も「データが“事実”であるとは限らない。あくまでも、“事実の手掛かり”だ。それを無視して“データだから”と言い切ってしまえば何とでも言えるし、とくに死者数というのは、それが“1”であったとしてもインパクトが強いので、正確に伝えた方が良いし、それをどう見るべきなのか、勇気を持って一歩踏み込まなければならない。しかし、“あのメディアにはこういう意図があるのではないか”ということをを恐れて、データだけを発表する“逃げ腰”になっている気がするが、それができるのが本当のマスメディアではないか」と話した。
両氏の指摘を受け、テレビ朝日の野村真季アナウンサーは「その視点は本当に抜け落ちていると思う。情報を読むので精いっぱいになっていて、それが何を意味しているかまで噛み砕くのは正直難しい。特に新型コロナウイルスの問題になると全く自信がないので、専門家の方や、詳しい方の話に頼らざるを得ない」、田中萌アナウンサーも「私たちアナウンサーは基本的には原稿を読むという立場にあるので、踏み込めず、モヤモヤを抱えながら伝えているときもある」と明かした。
すると佐々木氏は「ただ、スタジオに呼んでくる専門家が、また業界で異端の人ばかり、ということもある。お医者さんたちが“なんでその人を出すんだよ”と驚いていることもある」と苦笑。
「例えばTwitter上の“医療クラスタ”と呼ばれる人たちの発信を横断的に見ていくと、医療界ではこのあたりが今の共通認識なんだろう、というものが見えてくる。そういうものを把握していないから、よく分からないが、何か都合のいいことをしゃべってくれる言う人を呼んできてしまうのではないか。先日、『バンキシャ!』(日本テレビ系)を担当していた桝太一アナウンサーが退社して大学の研究員になり、科学コミュニケーションを学ぶとおっしゃっていたが、そういう声が現場から出てくるのも当然のことだと思う。ぜひ科学コミュニケーションをしてほしい」。(『ABEMA Prime』より)
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