小中高に複数紙を配備…文部科学省の“主権者教育のために紙の新聞”政策にジャーナリスト、ネットメディア記者の意見は
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 「学校図書館への新聞の複数紙配備を図ります」。文部科学省が1月24日に公表した計画に疑問の声が相次いでいる。

 計画では「成人年齢などの引き下げに伴い、児童生徒が主権者として必要な資質や能力を身に付ける」ことを目的として、小学校でも複数紙を置けるよう必要な経費を新たに盛り込み、予算は前回から40億円増の総額190億円(2022年度からの5年間)としている。

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 ただ、教育現場のデジタル化も進んでおり、すでに小中学校の9割以上で端末の配布が完了しているという今、なぜあえて“紙の媒体”なのだろうか。

■新聞業界が政府に働きかけたから?

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「紙の新聞は年に約200万部ずつ減っていて、2030年代にはほぼ消滅すると言われているので、ものすごく必死になっている。政府が新聞を軽減税率の対象にして批判されていたが、あれも新聞業界が必死で政府に働きかけたからだと言われている。今回の件も、そういう部分があったのではないか」と推測。

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 「実際、今の小学生の親の平均年齢は30〜40代になるだろうが、その世代への紙の新聞のリーチ率は非常に低いし、子どもが紙の新聞を読むこともないというのは確かだろう。一方で、ネットが人の考え方を極端にし、人々を分極化させていく可能性は若い世代よりも高齢層の方が高いのではないか、との指摘がある。なぜなら、高齢者はマスメディアが情報源なので、そこに流れてくる情報とは異なる陰謀論のようなものに触れると、あっという間に染まってしまうが、若い世代はSNS上で極端な意見に触れているので、簡単に情報を信じてはいけないという“見る目”が養われているからだ。

 そう考えると、もし小学校で2紙を取るというのであれば朝日新聞と産経新聞を並べて、“同じ新聞でも、世の中の見え方はこんなに違うし、世の中には極端なものの見方をしている人が実に多いか。それを知るのがメディアリテラシーだ”と、いわば“反面教師”として教えるというのがいいのではないか。1紙だけ取るのであれば、日経産業新聞がいいと思う(笑)」。

■「絶対に正しいメディアはない」という視点を

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 慶應義塾大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は「何を報じるか以前に、ちゃんと取材できる人がいるからコンテンツがあるという、機能としての新聞社の存在を守っていくことは大切だと思う」と指摘する。

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 「確かに家庭で新聞を読む人はこれからも減っていくだろう。それでも化石みたいな感じで、小さい頃から図書館や学校で紙の新聞を見てきたという経験があれば、“すごいものだ”という自覚が生まれてくるはずだ。日本では昔から残っている伝統的なものは“ありがたい”と神格化される。だから形が時代に合っていなくても、紙の新聞は最後まで刷り続けて、権威のあるものなんだ、価値のあるものなんだと示し続ける必要がある。

 学校でも、校長先生が紙で読んでいるというだけでいい。図書館じゃなくて、玄関や職員室の前でもいい。コストを考えれば、週に一回、月曜日の新聞だけ貼っておくのでもいい。それが完全に無くなってしまえば、取材力のある新聞社が発信した情報と、ネット上の市民が発信した有象無象の情報の見分けも付かなくなってしまうかもしれない。逆に言えば、“あのちゃんとした情報源である紙の新聞の記者が書いたものなんだから読むに値する”となれば、新聞社の人たちも立派であらねばならない、襟を正して頑張ろう、と思えるし、何部売るかではなくて、ジャーナリズムを守っているという自覚も強まる」。

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 その上で若新氏は「ただし、“教育に適切な新聞”というのは難しい。例えば僕の地元の福井県では、福井新聞がシェアの8割を占めていて、全国紙を読んでいる人の方が少ない。一方で、僕の両親は学校の先生で、親父は校長もしていたが、バリバリ左の人で、“朝日新聞以外は新聞ではない”と言い切っていた。つまり、そもそも誰もが偏っている中で、自分なりにどう見ていくかが大切なのであって、これを読んでおけば間違いないという絶対に正しいメディアも、絶対に正しい大人もない、ということを同時に教えないといけない」と指摘した。

■新聞を読むだけで「主権者教育」になるのか

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 「Business Insider Japan」の西山里緒記者は「若新さんがおっしゃるように、タブレット端末に表示されるというのでは、“権威性”が失われるのかもしれないが、政府もこれだけ“SDGs”と言っているのに、あえて紙で置くのか。190億円も使って刷らせるというのは矛盾していないか」とコメント。

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 「加えて、ローカルの新聞もあるし、それぞれカラーも違うと思う。小学校2紙、中学校3紙、高校5紙というのは、学校が選ぶのか、それとも教育委員会が選ぶのか。まさか国が選ぶとは思わないが、そういう判断を通して新聞社が癒着して政治に対抗することが難しくなったり、ジャーナリズムの独立性が保たれなくなったりする可能性もあると思う。

 そもそも、“主権者教育のために新聞を読ませる”というのがそもそもずれているのではないか。みんなが当事者意識を持って政治参加できるようにするのが主権者教育であって、そのために必要な資質や能力は、政党について学んだり、みんなで議論したり、模擬投票をしたりする機会を通して培われるもの。単に新聞を置くだけ、新聞を読むだけで達成されるとは思えない」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
 

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