先週、ディズニーランド・パリが発表した、パンツ姿のミニーマウス。衣装デザインを担当したイギリスの有名ファッションデザイナーのステラ・マッカートニー氏は「新しい世代にとっての進歩と活躍のシンボル」となることを望んでいると説明しているが、国内外では様々な議論が繰り広げられている。
こうしたジェンダーや表現に関わる問題をめぐり、これまでも「本当に議論したいと思う。こっちの思いも聞いて、あっちの思いも聞く、そういう場所がほしいなと思う」と話していたロンドンブーツ1号2号の田村淳。
1日の『ABEMA Prime』でも、「いつも感想を求められるが、僕は一方的な意見を言いたいわけではなく、とにかく自分の考えを変えるつもりで話を聞きたい。でも、フェミニズムの方々がどういう考え方で意見を発しているのか、僕の所までは届いてこないし、刀を鞘から抜いた状態で現場に現れるので、まず納めましょうやっていう思いもある」と話す。
番組のレギュラーメンバーからも、様々な意見が出された。
慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は、「まず、番組の台本に“分断”という言葉が入っているが、どこに分断が生まれているのか、あるいは、何を分断と見ているのか。物事にいろいろな“反応”があるのは当然のことだし、そのこと自体を分断とは呼ばないはずだ。違った反応を分断と呼んでいたら、世界は分断だらけだ。だから正反対の意見がぶつかり合っていることをだけをもって“分断”とは言わない方が良い」と指摘する。
その上で「僕たちは同じ時代に生きてはいるが、価値観も年齢・世代も違うし、何が正しいのかについて急いで結論を求めすぎると、ろくなことにはならない。時間の経過の中で淘汰されていく意見もあれば、じわじわ変わっていく議論もあるはずなのに、“古すぎる”とすぐに言ってしまうことが対立を煽っているような気がする。もちろん、死ぬまで価値観が変わらない人もいるだろうが、大切なのは、いつでも、どんな意見でも、安心して言えるという状況を保つことだ。それによって、落ち着くところに落ち着いていくような気はする。それなのに、一部の活動家やインテリの人たちが急ぎすぎな部分がある。もちろん、困っている人がいて、そんなに悠長なことを言っていられないこともあるのは分かるが…」と話した。
また、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「分断があるのは別にいいじゃない、それは価値観の多様化だよね、という話で、問題は、一つの価値観に染めるのかどうかということだ。例えば選択的夫婦別姓が導入された瞬間、夫婦同姓を選ぶやつはけしからん、みたいな意見が必ず出てくると思う。僕はミニーマウスがパンツを履くのも“萌え絵”もOKだし、不快なものを許容するのが多様性だと思うので、距離を置けばいいじゃないかという立場だ。ところが、どうしても一つの価値観に染めなければ気が済まない人たちがいて、そういう人たちが“多様化”と言うのはダブルスタンダードなのではないかと思っている」との見方を示す。
「また、運動が街頭というリアル空間で行われていた時代はそういう議論も成立したと思うが、SNSの時代になると全く対応しきれないだろう。それぞれが“私の痛みを分かってくれない”とか、“いちいち丁寧に説明する必要はない”と言われるわけで、それが100人、1000人という数でワーっと襲いかかってくるとなると、これは完全に“数の暴力”だ。しかし、そういうことをやっている限り、永久に痛みを分かってもらえることはなく、むしろ“触れたら怖い人たち”と思われてしまう“悪循環”が続いている」。
さらに「Business Insider Japan」の西山里緒記者からは、「表現の自由みたいな議論には正解がないけれども、経済的な平等や政治的な権利については、今まさに困っている当事者がいて、次の選挙では変えてほしいというような、緊急性の高い議論もある。色々なジャンルの問題が、全て“フェミニズム”として議論されていることが間違いではないのだろうか。ただ、#MeToo運動から続く流れの中で、SNSの運動が“数の暴力”につながってしまっている問題は、どこに向かうのだろうか」と話す。
■「フェミニズムの中にも多様性はある」
こうした意見を受け、武蔵大学社会学部教授の千田有紀氏は、まず表現をめぐる問題について「時代の進展はものすごくあると思うし、だんだん男女平等に近づいていくと、特に若い世代の女の子が性的な表現みたいなものを自分の主体性で楽しめるんだと考えられるようになるだろうし、正解も変わっていくのではないかと思う。一方で、今まで“女の子は可愛くて綺麗じゃないといけない”というルッキズム規範というものがあったのが、最近では過度にセクシーな男の子の裸体などが出てきているのを見て、人によっては“細くてマッチョで、かっこいい身体じゃないとイケてないんだ”というプレッシャーを感じるんじゃないかなと思っている。お弁当を食べている様子を見ていても、“ゼロカロリー寒天”とかを食べていて、“焼肉食ってればいいんだよ”というような子は少なくなってきていると思う」とコメント。
また、「議論」の問題について、「私は“ファッションフェミ”が苦手だ。大学時代、フェミニズムの話をすると“千田さんは働き続けたいの?変わっているね”“ちょっと頭おかしいんじゃない”“フェミニストの人って頭おかしいと思わない?”などのバッシングを受け、つらい思いをしてきた」と明かす。
「そうした中で、フェミニストであることはバッシングも込みかなという思いもある。そのせいか、ディオールが“We Should All Be Feminists”と書かれた高額なTシャツを売り出したり、エマ・ワトソンの演説を聴いて“フェミニズムかっけー”みたいな感じになっているのを見ると、むしろ逆に違和感を覚えることもある。やっぱりもっと泥くさい、“派遣社員の私はつらくて、なんでこんなにつらい思いしなくちゃいけないのかな”というような、どちらかというと“かっこ悪いフェミニズム”もあるような気がしている。
そして私が危惧するのが、フェミニズムがある意味で“叩き棒”みたいになっていて、“アンチフェミニズムな表現をしたこの会社の商品は買わない”とか“謝罪させよう”といった、ある種の“キャンセルカルチャー”のような中に巻き込まれていっていること。ここは相当慎重にならなければいけないと思っている。ただし、“対話ができない”といわれた人の中には、ものすごく辛い思いをしていたり、痛みを感じたりして、本当に押しつぶされそうになっている人もいると思う。そういうときには、相手に分かるように一生懸命喋ろうというよりも、“痛いんだ”ということをとにかく聴いてもらいたい状態になると思う。個人でも運動でも、初めはそういう段階から始まると思う。
その点でも、70年代のウーマンリブなんかも、“女であるということはこう痛いんだ”とか“あなたに分かるように話す暇はない”みたいな感じで、かなり戦闘的なポーズをとっていたと思う。他者を傷つけない限り、やっぱりそういう理由があるんだと、いろいろな運動においてちょっと理解してあげたいなと思う。ただ、今の“第4波フェミニズム”というのはまさにSNSを使ったようなものだが、難しい問題も孕んでいると思う。賛同者を上手く集め、急激にムーヴメントを起こすことができる反面、反対の方向にも言ってしまいやすい。でも、フェミニズムの中にも多様性はあるし、“あなた、ちょっと行き過ぎなんじゃないか”とか、“私はそうは思わないとか”というやりとりができるのもSNSの良いところだと思う。“ツイフェミ”だけが暴走していくみたいな、そういうような将来が来るというふうには私自身は考えていない」。
■「問題を分節化して考えていくことが必要」
改めて若新氏は「僕は主張が過激であることよりも、“絶対に意見を変えないぞ”、という姿勢の方が恐ろしく感じる。やっぱり今、議論するに当たって、“意見を曲げたら負け”とか、“自分の意見が勝って初めて報われる”みたいになり過ぎていると思う。意見を変えることは負けではないし、“ずっとそう考えていたけど、そういう考え方もあるのか”と思える。お互い、それができるようにならないと。ところが自分たちがやってきたことが正義だと思っている人の中には、せっかく囲い込んだ若者やフォロワーたちが逆の立場に行ってしまうことを恐れてしまう人もいる。しかしそれでは“相手の気持ちは絶対に変えらないんだ”と認めているようなものだ。話し合いをした結果、ちょっと意見が変わった、一つ学んだと言えるのが格好いい、みたいにならないと」。
田村も「選択的夫婦別姓の導入に反対している竹田恒泰さんと対談させてもらった結果、賛成派である自分の立場が変わることはなかったが、“なるほど、反対派にはこういう意見があるのか”と理解することはできたし、少し前に進んだような気がした。僕は同じような対話をフェミニズムの団体の方にも求めているが、僕のキャラクターのせいか、“あいつ攻撃してくんじゃねえか”と思われているみたいだ。でも、僕は刀を鞘に納めているどころか、しかも家に置いてきているぐらいの感じで議論がしたいし、“過激に討論”というのが前に出過ぎると、互いに理解を深めるという目的は達成できないと思っている」と訴えた。
千田氏は「やはり“何が問題なのか”ということが分からない限り、“お前ら女は分からないんだ。そんなことばっかり言っているんじゃない”というのと、“あなたたちには分からないわよ”という言い合いになってしまうし、それではしょうがない。問題を分節化して考えていくことが必要で、気に入らない意見があったら黙らせてやるとか、電話してやるとか、そういうことではない」と応じていた。(『ABEMA Prime』より)
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