「大学に行きたくても、奨学金の情報がない」「就職先でうまくいかず、一人暮らしで孤立」児童養護施設“18歳の壁”撤廃へ…進学・就職した子どもたちが頼れる環境づくりも必要だ
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 虐待を受けたり、親を失ったりした子どもたちを受け入れてきた児童養護施設。全国に612カ所、約2万4000人が生活を送っている。

 ただ、そこでの支援は原則として18歳まで(最長22歳)と定められており、東京都の調査によれば、退所した人の5割以上が不安を抱き、3割が孤立・孤独を感じていると答えるなど、“自立”へ向けたハードルの解消が長年にわたり求められてきた。

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 3日、この“18歳の壁”を撤廃する方針が厚生労働省の専門委員会で示され注目を集めている。同日の『ABEMA Prime』では、現場に残る課題について当事者に聞いた。

■必要な情報を得られる環境づくりを

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 政府の審議会で専門部委員も務める、児童養護施設「二葉学園」の武藤素明・統括施設長は「以前は親がいないから、または親がいても経済的な理由で面倒をみられないから、という子どもが多かったが、昨今は6〜7割方が親等からの虐待を受けて入所してきている。また、以前は衣食住や高校ぐらいまでの教育費については保障されてきたが、大学や就職してからのアフターケアための費用はあまり保障されてこなかった。ただ、この10年間で、少しずつ改善されてきたというのが現状だ」と話す。

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 その上で武藤氏は「改正される児童福祉法の条文や細則・施行規則などを見てみないと分からないが、“18歳の壁”が無くなるのは基本的には良いことだと思う。今も国と都道府県が生活費や職員の給与、経費の2分の1ずつを負担して、22歳までを保証をするという制度はあるものの、やはり社会的自立が困難な子どもたちも多いので、時間をかけることも必要だ。その意味では、今年4月から成人年齢が18歳に引き下げられるということで、私たちとしては児童養護施設の子どもたちが早期の社会的自立を余儀なくされるのではないかという心配もある。そこは自立支援やアフターケアに関わる職員をしっかり配置していくことが必要だと思う」と指摘した。

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 ネグレクトを理由に2歳で児童養護施設に入り、昨年3月に退所した山内ゆなさん(大学1年生)は「私がいた施設の場合、中には親御さんの元に帰る子どももいたが、多くは就職先の会社の寮に住み始めたり、一人暮らしを始めたりしていた。賃貸契約のとき、施設長さんに連帯保証人になってもらっている子たちもいたので、やはり自分一人で生活することが難しい子どもが居続けられるようになるのは良いことだと思う。ただ、職員さんが日々忙しそうにしているのも見てきたので、本人が残りたいと言えば残れるのか、あるいは各都道府県が基準を決めるのか、それが明確ではないところが心配だ」と懸念を示す。

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 また、児童養護施設の退所者の大学進学率(17.8%)は全国平均(52.7%)と比べて大幅に低く、山内さんのいた施設でも、多くが就職を選択したという。

 「進学したいという以前に、始めからその選択肢がない。“自分で生活しながら勉強するなんてできないよね”と思っている子も多かったと感じていて、商業高校や工業高校など、就職に強い高校を選ぶ子が多かった。中には短大や専門学校に進学する子どももいたが、4年制大学に進学したものの経済的な理由で中退してしまったケースがあったので、私の場合も心配して反対されたこともあった。

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 ただ、退所後の生活のためにバイトして初期費用を貯めている子が多かったし、私も申請すればバイトをすることができる高校に通っていたので、16歳からバイトを始め、進学のための費用を100万円くらい貯めていた。探してみると色々な企業さんが奨学金制度を用意して下さっていたりするので、私もSNSで情報を集め、給付型を頂いて通うことが出来ている。施設の職員さんたちも含め、そういう情報を知ることができる環境を作ることが大切ではないか」。

■大人や支援団体と繋がれる仕組みづくりを

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 児童養護施設を取材した経験を持つEXITのりんたろー。は「僕らが取材した施設でも、大学進学したいんだったら、高校を卒業するまでにバイトして100万円ぐらい貯めなさいという感じだった。実は様々な支援制度があるのに、その情報が本人はもちろん、職員さんたちにすら届いていない現状があると感じた」とコメント。

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 兼近大樹も「経済的な問題もあるが、それ以前に周りにロールモデルが少ないので、“努力の仕方“を知らない人たちもいると思う。そして、施設って家庭みたいなものだと思うので、社会に出た後で何か辛いことがあった時に繋がりがある、戻れる場所であることが大事だと思うので、そういう優しさのある制度づくりをしてほしい」と話す。

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 武藤氏は「2年ほど前から、国の方でも大学や専門学校に行けるようにという方向で検討してもらっていて、私も現状について園の高校生と一緒に話をさせてもらった。現場の方でも、“じゃあ私も頑張ってみる”ということで、中学生ぐらいから塾に通う、そのための経費も用意する、といったことで、徐々に進学率も上がってきてはいる。ただし、全国すべての児童養護施設や都道府県にそうした情報が周知されているかというと、まだまだだと思う」と応じる。

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 「また、進学するにしろ就職するにしろ、施設を出てからは厳しい状況に置かれることになる。やはり18歳で社会的に自立するのは難しく、相談できる場所がないことで孤立してしまっている方々もいらっしゃる。そこは暮らしていた施設にいつでも相談に行ったり、場合によっては泊まっていったりできるような仕組みづくりが必要だと思う」。

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 山内さんも「私のいた施設の場合、子ども同士の繋がりが厚く、私も施設にいる高校生と連絡を取り合っているし、上の子や同期とLINEグループを作って、雑談や“今日こういうことをしたよ”というやりとりができるようにしている。何か困ったことがあった時も、まずは自分たちで連絡を取り合って、じゃあ施設の職員さんに連絡してみようよと協力しあっている。また、一緒に育った仲間の中には就職したが、すぐ離職してしまい、生活保護を受けながら頑張っている子もいる。その意味では、施設を出た後の支援ももちろん必要だが、施設にいるうちから、頼れる大人や支援団体さんに繋がれるような準備をできるのかも課題だと思っている。児童養護施設が全てを担うのではなく、民間団体とも連携していく必要があると思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)

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