塩野義製薬が7日、開発中の新型コロナウイルスの飲み薬について、来週末か再来週にも厚生労働省に承認申請する可能性があることを明らかにした。
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同社では去年9月から国内で軽症や無症状の患者およそ2000人を対象に最終段階の治験を実施しており、有効性や安全性について良好な結果が確認できれば、最終治験が完了する前に実用化を認める「条件付き早期承認制度」の適用を想定し、承認申請をする可能性があるという。
このことについて4日、自民党の甘利明・前幹事長が自身のTwitterに投稿したことが波紋を広げている。一体何が問題だったのか。『ABEMA Prime』で検証した。
■薬機法違反、インサイダーに当たるのか?“政治的圧力”は?
薬機法では、承認前の医薬品などについて、効能・効果または性能に関する広告をしてはならないと定めている。甘利氏のツイートのうち、「日本人対象の治験で副作用は既存薬より極めて少なく効能は他を圧しています」という表現がこれに抵触するのではとの見方がある。
『最新《業界の常識》よくわかる医薬品業界』の著書もある薬剤師の長尾剛司氏は「ステマのようにお金の授受があればもちろん問題になるし、製薬会社がメディアに向かって発信したものや、製薬会社の社員によるツイートであれば問題だが、あくまでも一個人の投稿なので、“広告”という概念に当てはまるのか疑問だ。実際に公表されている情報にもとづいた発信でもあるし、塩野義製薬が宣伝をお願いしたようには見えない。よって、薬機法の違反ではないと考える。そもそも医薬品の開発には相当な承認のプロセスがあるし、厳密な治験もある。そこで何かデータをいじって良く見せるということはできない世界なので、承認されたら安心していいのではないか」と話す。
また、「ワクチンは5月めど、治療薬は2月にも供給はできます」として、供給の開始時期などについても触れている。このツイートの投稿後、塩野義製薬の株価が一時上昇していることから、インサイダー情報ではと疑う声もある。
また、内閣府の規制改革推進会議で議長も務める夏野剛・慶應義塾大学特別招聘教授は「インサイダーというのは、情報を得て株の売り買いをしたことを指すのであって、先に情報を知っていたからインサイダーというのは、明らかに事実誤認だ」と指摘した。
甘利氏は、「外国承認をアリバイに石橋を叩いても渡らない厚労省を督促中です」とも投稿、7日の塩野義製薬の会見では、記者から「有力な政治家があのようなツイートをしてしまうと、審査に影響があるのではないかとか、そういう心配もあるかと思う」との質問が出た。これに対し手代木功社長は「周りの方々からの何かが影響するのは一切ないと思っている」と回答している。
長尾氏は「実際に審査が歪むということはない。そもそも日本には薬害という暗い歴史もあり、すごく慎重な国だと思う。一方で、新薬が出るまでには、どこに効いて、どういう副作用があって…と、様々なプロセスを通らなければならず、年月がかかってしまうのが医薬品業界の課題でもあった。輸入超過によって国力が劣ってしまうという現状もある中、国内のために国産でワクチンを作ることへの期待は高いし、経済安保を手掛けてきた甘利さんとしては、産業を守る、という立場で発信されたのではないか」との見方を示す。
また、元経産官僚の宇佐美典也氏は「企業や個人が陳情を踏まえて議員が役所へ問い合わせや督促をすることはしょっちゅうある。むしろ、大物議員というのはそういうことをせず裏で大臣などに働きかけて省内のプロセスに乗せてくるから影響がある。その意味では、甘利さんが政府に対して本当に影響力を持っているのであれば、厚労大臣や厚労副大臣、自民党の厚労部会長などに連絡をして省内に圧力をかけられるはずだ」と指摘。
「だから今回のようなことを表で言うというのは、それぐらい甘利さんの影響力が低下しているとも言える。官僚の方も、そういうことを分かった上で“分かった、頑張る”と言って頭を下げ、督促を“されてあげる”。だからそれによって何か変わるかといえば、何も変わらない。そういう茶番も含めたパフォーマンスだし、官僚としては“甘利さんは追い詰められている”と捉えているのではないか」と話した。
■製薬会社によるロビイングの実態は
また、Twitter上には「塩野義がロビー活動して、厚労省に圧力を掛けるようお願いしたんじゃないの」といった意見も投稿されている。
こうした見方について、宇佐美氏は「勘違いしてほしくないのは、内政の問題に関して官庁に圧力を掛けるのも議員の立派な仕事だ。官庁を放っておいても、良いことをするとは限らない。むしろ、サボることも多い。だから単純に悪いことだと捉えるのは違うと思う。今回も、早期承認のプロセスに乗せるということは、政治的判断もあること。そのためにロビイングするのも普通のことで、塩野義は別におかしなことはしていないと思う」と反論する。
「ただ、こういうことをやる時は、何人かターゲットを決め、“絨毯爆撃”のように何人かの議員に回るものなので、甘利さんだけに言ったわけではないと思う。その意味では、甘利さんは軽率だった。また、私自身もロビー活動に携わることがあるが、批判が来るかもしれないので、強い言葉は野党議員に言わせるのが原則だ。そして大臣のスタンスが分かってきたら、与党議員に後押ししてもらう。これを日本維新の会の政治家に言わせれば、野党ということで問題は起きなかったのではないか。
その点、塩野義が慣れてないのか、与党で、大物のイメージがある人に頼ってしまったということで、稚拙な部分があったと思う。やはり官僚が強かった時代には、官庁とどういうコネクションを持つかがポイントだったが、政治主導の時代になってきた今、ロビイングの形も変わっている。そういう新しい取り組みに慣れていないと、こういう問題が起こってくる可能性はある」。
一方、長尾氏は「今回の件はなんとなく“ロビー”というイメージではないと思うし、実は日本の医薬品業界においては、それほどロビー活動が活発ではない。国際的にみれば、むしろアメリカの方がえげつない感じで、日本はむしろおとなしい」とコメント。夏野氏も「皆さん、政治家と企業が癒着しているというような目で見るが、そんなことは決してない。このコロナ禍において治療薬が重要なことは、与野党含めてみんなが思っていること」と指摘。
「薬の承認に関しては過去の経緯もあって慎重なところがあり、今回も厚労省のプロセスが若干遅いのではないかという話はいっぱいある。そこで今までにないやり方をどこかから言ってもらえないか、あるいは仲間づくりとして、こういう説明をしにくのは別に癒着でもなんでもない。そして、こういう時は内閣の中にいる人だと“役所から聞くから”となってなかなか受け付けてくれないので、そうではない自民党議員や野党にも行くだろう。そこでお金を渡しているわけでもないんだし、ツイートをこうやって取り上げていること自体、騒ぎすぎだと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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