さまざまな意味を持つ、重要な一戦だ。4月2日に開催されるRISEのビッグイベント・国立代々木競技場第一体育館大会。ここで那須川天心がRISEラストマッチを行なう。デビューしたリングとの「お別れ」となる記念すべき場。そこで那須川と対戦することになったのは、同じTEPPEN GYMの風音だ。
風音は昨年の53kgトーナメントで、ほぼ“無印”の下馬評から優勝。しかも1回戦で江幡睦、準決勝で政所仁、そして決勝で志朗と強豪を立て続けに下している。RISEの伊藤隆代表も「実績は間違いない」と太鼓判を押す。もともと、風音自身がトーナメント優勝直後に対戦をアピールしており、9日の会見ではこう意気込みを語った。
「僕が3年前に(関西から)こっちに来たのは誰よりも強くなるため。一番強い選手は天心選手なので、倒すために過ごしてきたし、結果も出してきました。(このマッチメイクは)必然だと思います」
「(練習は)実際の試合とは全然違う。本気のぶつかり合いをした時に僕の強さが分かるんちゃうかなと」
お互い同門対決にやりにくさはないとキッパリ。しかしポイントはジムの会長である天心の父、那須川弘幸氏が風音のセコンドにつくことだ。天心は言う。
「セコンド、サポートも相手につけて俺を超えてくれと。自分のテーマとしては“父親を超える”。大舞台での親子喧嘩ですね」
SNSでは「地上最強の親子喧嘩」というフレーズも。天心は幼い頃から弘幸氏と二人三脚で闘ってきた。その父を“敵”に回し、打倒・天心の策を授けられた“刺客”とも言える風音と闘う。それが那須川天心の、RISEでの最後の仕事ということになる。
風音は「那須川会長のやり方で倒してやろうかと。(天心の)強いところも弱点も知っているのが那須川会長なので」と言う。もし、他の誰もが気づいていない天心の弱点を那須川会長が知っており、そこをポテンシャル抜群の風音が突いてきたら…。そんな見方もできる闘いだ。
また天心が去った後のRISE、キックボクシングを背負う存在の1人として風音がふさわしいのか否かが“査定”される試合でもある。天心は「RISE魂を最後に見せたい」と語ってもいる。
風音戦を終えると、天心を待つのは6月の武尊との大一番、そしてボクシング転向だ。風音戦を「通過点」と言う天心だが、それは油断とイコールではない。
「原点に戻るというか、今までは“試合”をしてきたんですけど、今回と次は“競技”をするのをやめようかなと」
ここ数年、天心は勝負にこだわる姿勢を何度も見せてきた。まずは結果ありき。ビッグネームとなり、研究され、アップセットを狙う相手が100%以上の頑張りを見せる中でも自分が勝つ。その“勝負師”ぶりが魅力だった。しかし風音戦、武尊戦のキックボクシングラスト2戦は違うものになる。
「自分の試合を見返して“殺意”が足りないなと。無敗というのもあってプレッシャーを感じてたのかもしれないですね。そういうのは客観的に見てカッコよくねえなと。ちょっと守りに入ってた気がします。やっぱり破壊というか、常に攻める、倒しにいかなきゃと。闘っててカッコいいのは勝ちに徹するより前に出ること。泥臭くても、何が何でも勝つと言う姿勢」
今の那須川天心の能力で“破壊”を意識した闘いを繰り広げたら、いったいどうなるのか。かつてムエタイ王者をバックキック一発でKOした天心だが、今はさらに成長している。風音戦は武尊戦に向かう過程にあるものだが、モードは既に切り替わっている。
“破壊する那須川天心”は、間違いなくキャリア最強。迫力、怖さも含め、今まで誰も見たことがない姿で対戦相手に襲いかかるだろう。
文/橋本宗洋