内閣府が7日に発表した調査で、25〜34歳の年齢層の中で「所得格差」が広がっていることがわかった。背景には非正規雇用者の増加があるといい、世帯所得が500万円未満の場合、子どもを持つという選択も難しくなっているという。
「日本若者協議会」の室橋祐貴代表理事は「重要なポイントとして、日本における“格差拡大”は、欧米のそれとは違いがある。富裕層と貧困層の両方が膨らんでいるために開きが大きくなっているのが欧米で、日本は富裕層はそれほど増えず、中間層が下がっているために全体が貧しくなっているというイメージだ。岸田総理は“再分配”と言っているが、それは上の層に余裕がなければできないことなので、まずは全体を底上げする施策が欠かせないということを押さえるべきだ」と指摘する。
■「親が行けというから塾に行っている」と言われてショックを受けた
こうした状況、“体験格差”の観点から警鐘を鳴らすのがライターのヒオカさんだ。精神障害のある父親の下で育ち、奨学金で公立大学に進学したヒオカさんは、同級生の「親が行けというから塾に行っている」という言葉にショックを受けたことを、今でも覚えているという。
「小学生の時に友達の家に遊びに行くと、本やゲーム、お菓子があったが、私が育った県営住宅の団地では、どの家もすごく雑然としていて、物はあっても、本や娯楽に関する物は一切なかった。それどころか、食べる物や着る物にもすごく困っていた。具体的な数値に表せる“格差”が注目を集めやすい一方、文化的なものやクリスマス、お正月などの行事に触れる機会の乏さによって積み重なる“格差”については見落とされがちだ。
私も学校でも部活動に入らせてもらえず、みんなと同じ経験をすることができなかったし、“我慢して”と言われて塾に通えず悔しい思いをするなど、学習面でも苦労をした。公立の図書館が地域にあったので、家で勉強できない分はそこで補っていたが、同級生が“親がどうしても行けと言うから、行きたくないけど塾に行く”と言っているのを聞いて、すごくショックだった」。
■“何で障害があるのにあなたを産んだんだ”と言われた
近年、日本ではいわゆる“自己責任論”を目にする機会も増えた。ヒオカさんは「スタートラインの時点で平等ではないし、大学を卒業する時点でも、“実家が太い”と言われる子たちと、奨学金の返還、さらには親の借金を抱えた子たちが一緒に社会に出ていかなければならない中、リスクヘッジができない貧困層が“自己責任論”で切り捨てられることには違和感を覚える」と話す。
「私も、“何で障害があるのにあなたを産んだんだ”みたいなことを言われたことがあった。実際のところ、父は生まれた後で精神障害になったのだが、やはり予測できないことは起こりうるわけで、そういう時には最低限の生活が保障され、子どももしっかり教育を受けられるような社会にしていかなければ、子どもを産みたいとは思えないだろう」。
■同年代で、本当にここまで違うのかと感じている
慶應義塾大学で“トー横”に集う若者たちを研究、ライターとしても活動する佐々木チワワさんは「大学では部活の費用が足りないからと、風俗で働いたり、パパ活を始めたりする子を見てきた。奨学金でなんとか通っているような子の隣で、“親が子どもを応援するのは当たり前だと”という話がされているグロテスクさみたいなものも感じてきた。一方、歌舞伎町に行くと、両親がいる家族の方が少ないので、例えばホストクラブの中では“普通の家庭”というワードはNGだ。同年代で、本当にここまで違うのかと感じている」と明かす。
「今は“経験”に価値が置かれるような時代になっているが、このままAO入試が増えてくれば、学習成績のみならずコミュニケーション能力やボランティア経験、留学経験などの比重が高まり、そこにお金を出して伸ばそうとする家庭も増えてくる。体験格差は、本当に国を挙げて取り組まなければならないと問題だ」。
■人生は運によるところが大きいということを認めるべき
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「僕も貧しい家庭に生まれ、図書館で本を読んだおかげでなんとかのし上がれたという実感があるが、一方で、そもそも図書館に行くという発想がない、そもそも学ぶという行為そのものがありえないという環境も広がっている。例えばどうやって進学校に行くのか、奨学金をもらうといった情報にさえリーチできない生徒がいる一方、“僕たちはこれ以上の富は必要ない”とデモをしている生徒もいる。そのギャップを埋める努力を、メディア、あるいは国の政策でやっていかなければならない」とコメント。
慶應義塾大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は「その意味では、人生は運によるところが大きい、ということをもっと認めていくべきだと思う。親のせいにするな、努力次第でいい生活を得られるという勘違いがあるからこそ、自己責任論も出てくる。僕だって、いまこの場所にいられるのは完全に運だと言い切れる。そして運良く余裕のある人がサポートをする社会にしていかないといけない」と応じた。
■私立の中高一貫校出身者ばかりがエリートコースに
さらに前出の室橋氏は「世代間の認識の差という問題もある。政治家や“重鎮”の方々と話していると、“自分たちは大学の授業料をアルバイトで稼いで払っていたんだ”と、“武勇伝的”に語ってくる。しかし当時の授業料は10万円や20万円という水準だ。今は国立でも50万円、私立だと90万という大学もある。親の世代の余裕もなく、仕送り額も減ってきている。
また、家族構成によってはヤングケアラーの問題もある。政府による実態調査によれば、中学生の17人に1人、つまりクラスに約2人の割合だ。習い事・部活を自由にできないような子どもたちについては社会、政府で支えていく必要がある。他方、東京都内では私立の中高一貫校が広がり、その出身者がエリートコースに乗って官僚などになっていく。そういう人たちが本当に実態を把握できているのだろうか。世代内での認識の分断も生まれていると感じている」。
ヒオカさんも「共感する。貧困体験を書くと、“わしらの頃は授業料も頑張れば払えたし、なんでエアコンが無いくらいで文句を言うんだ”と言われる。しかし、50年も違えば状況も全く変わってくる。やはり若者の貧困は見えづらいと思うので、もっと知ってもらうためにも情報発信を続けたい」と話していた。
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