2月10日、フランスのマクロン大統領は「私は6基の原子力発電所を建設し、さらに8基を建設するために準備を進めるつもりだ」と、2050年ごろまでをめどに最大14基の原発を建設する計画を発表した。元々75%だった原発依存率を50%に引き下げると明言し、原発の縮小を進めていたフランス。それが今、原発建設再開へ向かっている。
【映像】ひろゆき氏、日本人の“原発アレルギー”に言及(16:30ごろ〜)
この背景には、EU・欧州連合の方針が関係している。2日にはEU欧州委員会のマクギネス委員が「我々は気候変動対策への困難な道のりの中で、天然ガスと原子力が貢献できると考えている」と発表。今月2日、EUの欧州委員会が原子力発電を、二酸化炭素を排出しないグリーンエネルギーとして認める方針を明らかにした。
一方、ドイツでは脱原発が進められ、今年中にすべての原発を停止する予定だ。このフランスの動きにドイツは強く反発し、オーストリアも法的措置をとる可能性を表明するなど、EU内部でも意見が分かれている。
2011年に起きた東日本大震災の福島第一原子力発電所の事故以降、脱原発を進める国がある中、なぜフランスは“原発回帰”に舵を切ったのか。また、これに日本はどのような対応をとるべきなのか。11日のニュース番組「ABEMA Prime」では、専門家とともに考えた。
フランス在住のひろゆき氏は「再生可能エネルギーがそこまで安定しない段階で、ヨーロッパはロシアの言いなりになるか、原発を動かすかのどちらかしかない」と指摘。「天然ガスをロシアから買って、もうロシアに逆らえない(状態に)なるか、原発で電力を作って独自にロシアに対抗するかしかない」と述べた。また、フランスでは「もともと電気代が上がっている」といい、「日本人は電気代が上がっても庶民は満足しているが、フランスではすごく文句を言う。僕の家にも1万3000円ぐらいの小切手が2回きた。『電気代が高くなったけど、文句言わないでくれ』と2万6000円ぐらい国がくれた。電気代が高いとこれがずっと続くので、原発を作らないと予算がもたないのもあると思う」と現地の状況を語った。
国際大学教授で経済産業省の総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会メンバーの橘川武郎氏は「エネルギー危機だ。天然ガスがロシアから来なくなるのではないか。これに対する一つの反応であることは間違いない」と話す。
これから原発を作るとしても、相応の時間がかかる。橘川氏は「原発を作るのに、どんなに早くても30年代(2030年代)になってしまう。だから、実は解決策になっていない。気持ちとしては、それだけやはりエネルギー危機の雰囲気があるのだろう」と述べた。
今月2日、EUは原発をグリーンな投資先(※環境問題を考慮した投資)に認定する案を発表した。ドイツやオーストリアなど、数カ国はこれに反対しているが、EU全体はこの方向性に向かいつつある。これに橘川氏は「政治が絡んでいる」と話す。
「フランスは『原発』と言っていて、ドイツは『脱原発』と言っている。大統領選挙もあり、政治が絡んでいると思う。原子力は新幹線と共にフランス人の誇りだ。だから、フランスでは『原発』と言った方が票になる。ドイツでは『脱原発』と言わないと票にならない。日本では原子力を推進といっても反対といっても票にならないから、政治家は原子力について何も言わない」
なぜドイツは脱原発なのか。橘川氏は「行くとよく分かるが、ドイツ国民は森の民だ。もともとチェルノブイリ原子力発電所事故が起きる前ぐらいから『将来的には原発を止めたい』という感じになっていた。もともとドイツの家庭用電気料金は日本の1.5倍ぐらい高い。それでもドイツ人は我慢して『再生(再生可能エネルギー)を入れて、原子力を止めるために必要だ』と。そういう国民性だ。だからここで『原発を続ける』というと、選挙には負けてしまう」と説明。
ひろゆき氏は「ドイツは天然ガスをロシアから買っている限り、ウクライナ(紛争)でも、ロシアに対して強くいけない」と指摘。「CO2がどうこうとか、電気がどうこうというより、国としての意思が表明できなくて、弱さを抱えている。他方、フランスの場合は、他の国がやらないから原子力をやりますと言っている。そうすると、どんどん原子力の電気を売れる側になる。みんなが嫌ってやらないものを産業として作って、いいポジションを取る。相変わらずフランスはおいしいことばかりやっていると思う」と見解を述べた。
また、元経産省キャリア官僚で制度アナリストの宇佐美典也氏は「エネルギー危機に陥ったときに、各国がちゃんとスタンスを示して、ある程度データに基づいた議論をしている。ヨーロッパは健全だ」とコメント。
「日本は、データに基づいた議論を拒否し続けている。橘川先生の前でいうのは恐縮だが、審議会で橘川先生が、経産省のデータに対して『このデータはこういう観点でとても非現実的な目標だから、これを達成できるはずがない』というと『そこは野心的な目標なのでなんとかする』だけで押し切ってしまう。そういう状況で比較すると、日本が恥ずかしいと言わざるを得ない」
宇佐美氏の指摘に橘川氏は「日本は原子力に対して何もはっきりしたことを言っていない」とため息。「日本は新しい小型炉を開発すると言っているが、一方でリプレイス、新増設するとは言っていない。開発しても作らないから、誰もお金をつけない。アメリカのビル・ゲイツみたいな人がいればお金がつくが。日本の方針は絵に描いた餅だ」と訴える。
日本政府はEUの動きをどのように見ているのだろうか。EUが原発をグリーンエネルギーと認定した方針について、山口壯環境大臣は「EUがこうだから日本がこうだと、今そこまで言う段階ではない」とコメント。「(日本は)再生可能エネルギーを徹底的に導入していくというところ。原発については安全を最優先に」と発言した。
日本の対応に、ひろゆき氏は「日本の大衆の場合は『原子力はリスクがある』『放射能はなんとなく怖い。だから嫌』という意識がある。原子力がないと回らないところの問題は後回しにする」と指摘。「原子力爆弾も、広島・長崎があったから嫌だ、怖いと。日本では(原子力爆弾を)作らないと言いつつも、アメリカの軍事同盟で、アメリカが持つ核の力のおかげで今、日本は平和にやれている。大衆が『怖い』『嫌だ』『いらない』と言っていても、実際は原子力だったり原子力爆弾だったりのおかげでなんとか成り立っているのに、見えないようにしていて、そのコストを逆に払っている。EUの場合は、原爆はフランスが持つ。原子力もフランスが持つ。だからドイツが再生可能エネルギーと言って、原爆なんて持たないと言ったとしても、EU全体としてはちゃんとバランスが取れている。いろいろな決定権を別々に持って、独自の価値観があって、うまくいっている」と述べた。
その上で、ひろゆき氏は「3.11からも時間が経って、ある程度再稼働する原子力発電所も出てきた。橘川先生は、いろいろな委員会に出てらっしゃったと思うが、日本人の原子力発電所に対するアレルギーみたいなものはあまり変わっていないのか」と橘川氏に投げかけ。
ひろゆき氏の質問に、橘川氏は「私は、日本人はちゃんと考えていると思う。けれど政治家が正面から物事を言わない」と回答。「政治家が(原発を)推進と言っても票が減る。反対と言っても票が減るから政治家は何も言わない。私は政治家が日本の原発をおかしくしていると思う。霞が関の役人の方も原発をどうにかしなきゃいけないと思っている。だが、丘の上、首相官邸から降ってくる命令で、リプレースと言おうとすると、止められる。選挙にまずいからだ。今もそうで、参議院選挙までは原子力のことは何も触れないだろう」と語った。
橘川氏の見解に、宇佐美氏は「橘川先生の話の延長だが、政治家がビジョンを示すのはとても大事だ」とコメント。「かつて、天然ガスを液化して海を渡って輸出して火力発電に使うなんてことは『そんなことできるわけない』と世界中で思われていた。それを日本が主導して実現まで持ってきた。そういう底力が日本にはある。それを政治家が信じて提示しなければいけないのに、そこをサボっているというか、逃げているところが一番の問題だ。少なくともヨーロッパは、問題が起きたら問題と向き合ってビジョンを示そうとしている。日本もこういう姿を見習ってほしい」と述べた。
フランスが表明した原発建設再開の方針。日本でも明確なエネルギー政策の方針提示が求められている。(『ABEMA Prime』)
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