同性婚を認めないのは憲法違反だとして、13組の同性カップルが全国で一斉に国を訴えた裁判。
札幌地裁が去年、全国で初めて、憲法で定められた法の下の平等に反するとする判断を示した一方、東京地裁では今月9日、国側が婚姻の目的について「自然生殖可能性”のある関係性の保護だ」とし「同性婚では子を産むことはできないため、結婚を認める必要はない」との主張を展開。さらに「同性カップルは婚姻している異性カップルと同等の社会的承認を得ていない」とした。
これに対し、「全国の性的マイノリティの人々をどれほどまでに傷付けているのか。どうかその点を立ち止まって考えていただきたい」「同性カップルが結婚している異性カップルと同等の社会的承認を得るには、まず同性カップルの結婚を認めなければ始まらない」として、国の主張が差別の無限ループを生み出していると反論したのが、原告代理人の寺原真希子弁護士だ。
■国は非常に苦しい立場に追い込まれているということではないか
まず、去年3月の札幌地裁判決について寺原弁護士は「憲法訴訟において違憲判決を獲得するのはものすごく難しいこと。原告や弁護団だけでなく、性的マイノリティの人権の問題に尽力してきた人々の活動の積み重ねに対し、札幌の裁判長が真正面から誠実に向き合ってくれた結果だと捉えている。もちろん、原告側の主張の全てが認められたわけではない(13条、24条については合憲との判断)が、一つの条項(14条)について主張が認められただけでも違憲は違憲だ。国会は不平等にならないよう法律を改正しなければいけない立場にあることになる」と話す。
また、憲法制定時の時代背景も踏まえ、「24条は同性婚を想定していない」とする意見についても、「同性同士の結婚は認めないと明確に書いていれば憲法を変えなくてはいけないが、正直なところ、そこまで考えていなかったというところがあって、禁止もされていないことになる。つまり憲法は中立なので法律を変えれば問題ないというのが原告の主張だし、憲法を変えなくてはいけないという主張は国側もしていない」と説明した。
訴訟に注目してきた「ニッポン複雑紀行」の望月優大編集長は「札幌地裁判決は歴史的なもので、今後、他の地裁や高裁でも踏襲されてほしいと思っている。また、24条の条文の解釈について、必ずしも“両性”=“男女”と読まなければならないわけではないという見解が多く、国も含め、同性婚を認めるような法律を作ることが憲法24条に違反するという意見は多くない。そこを区別することは重要だと思う」と話した。
そんな中で出た今回の東京地裁での国側の主張。テレビ朝日の田中萌アナウンサーは「“社会的承認がない”という国の主張は、権利を認めてほしいと活動しているあらゆるマイノリティの方々を排除するような、ひどく乱暴な言葉だと感じた。出産についても、自分たちの意思でしないということと、できないということは違う。やはり苦しんでいる人たちへの差別を助長してしまうかのような言葉を使っていることに驚いた」と懸念を示す。
寺原弁護士は「今回、国は“軌道修正”をしてきた。つまり、今までは“子どもを産み育てることが目的だ”と言っていたが、“子どもを産み育てることは必要ない”と明確に認めたということだ。そうであれば同性カップルを結婚から排除する理由はないはずなのに、“生物学的な生殖可能性”という、憲法にも法律もない新しい言葉を持ってきた。私たちが“なぜ男女だったら結婚できるか”を問題にしているのに、“男女だったら結婚できる”という結論を繰り返しているわけで、論理が破綻している。しかも、主張自体が差別的で、原告やその背後にいる多くの性的マイノリティの方が聞いたらどれだけ傷つくだろうか。法廷で強く抗議した」。
望月氏も「ひどい話だと思う。男女のカップルであっても、結婚しないことを選ぶとか、経済的な理由で出産することができないとか、いろいろな形があるわけで、結婚と出産は必ずしもセットではない。異性愛のカップルに対してもプレッシャーをかけるような問題で、受け入れてはいけないと思う。また、身体的な理由から考えても、例えば60歳代の男女が結婚することは認められているわけで、やはりセットではないことは明らかだ。これだけ反駁が不可能な論理を持ち出すということは、逆に言えば国がやっていることを正当化する手段がこれしかない、つまり非常に苦しい立場に追い込まれているということではないか」との見方を示す。
■“自民党をどう動かすか”ということが必要になってくる
ここで慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は、憲法改正や法改正には時間がかかるという意見を踏まえ「伝統的な結婚観や、その枠組みに入れないことが差別だというのであれば、そこに無理に入れてもらおうとせず、それと同等に権利や生活が保障されるような新たな枠組み、制度を作るという考えはあるのだろうか。例えば全国の自治体で始まっているパートナーシップ制度を、国が率先して導入する」と問題提起。
すると寺原弁護士は「実際、海外では婚姻とは別に同様の制度を作ることが行われてきた。しかし別の制度を作ること自体、同性カップルは異性カップルと同じ伝統的な結婚というものにはそぐわない存在だという差別を助長することになるし、それが差別になるという司法判断も出ている。むしろ同性婚の方に移行しようとしているのが海外の状況だ」と説明。
望月氏も「異性のカップルの人が結婚する理由を考えると、相続の規定など、分かりやすいメリットもあるからだ。外国人を取材すると、例えば同性国際カップルの場合はどちらかに配偶者のビザが出ないということがあるので結婚を認めて欲しいと言う。その意味では新たな選択肢という考え方もあるが、同性婚を求めている個人にそうした制度設計まで求めるのは行き過ぎだと思うし、現行の制度に入れてほしいというのは素朴な要求として認められるべきではないか」との見方を示した。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「最終的には結婚という制度をやめて、全てを新しいパートナーシップ制度にしていかないと、平等を保てなくなるし、選択式夫婦別姓の議論と同じで、便益の議論になってしまうと“仕組みづくりをすれば大丈夫だから、同姓のままでいいではないか”という反論が出てきてしまう。だからこそ、法の下の平等に反するというところに集約させた札幌地裁の判決には価値があったと思う」と指摘。
他方、「新たな法律を作ることのできない行政府としては結局、こういう無理やりな話しかできないということだと思う。一方で、それをバカにしたり、笑っていたりすればいいというわけではない。選択的夫婦別姓の問題も同様だが、例えば理解できない高齢者に“バカじゃないの。古いんじゃないの”と言うだけでは問題解決はしない。
電通の調査では8割くらいの人が同性婚を容認しているし、保守層が地盤というイメージの自民党の国会議員の中にも若手や都市型の浮動層を基盤にする人が増えてきていて、決してLGBT嫌いというわけではないと思う。今回の裁判で結論が出てくれば、行政府に対して非常に強い後押しになるのと同時に、国会で法制度を変えてもらおうというフェーズに移ってくるだろう。そう考えると、いつまで経っても変わらない人たちを罵倒し続けるのではなく、“自民党をどう動かすか”ということが必要になってくる」と分析した。
最後に寺原弁護士は「原告の中には亡くなった方もいるが、病院で家族として扱われず、死に目に会えなかったケースもある。1日も待てないというのが切実な思いだ。私が代表を務める『Marriage For All Japan』という団体では、今回の裁判の支援だけではなく、まさしく自民党の方にお会いして必要性をお話しし、いわゆる社会的承認のための意識を喚起のためのイベントを開催している。こうした取り組みが相互に作用し、1日も早く実現するようにと思っている」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)
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