「学校や教育委員会は生徒の生活にも責任を負っているのか。この際、全国大会は無くすべきだ」黙認されてきた公立校の“越境入学”の闇、藤枝東サッカー部論争で浮き彫りに
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 静岡県教育委員会の調査で、高校サッカーの強豪校として知られる静岡県立藤枝東高校などで、規定に反して“越境入学”をしていた生徒がいたことが波紋を広げている。

 静岡県では原則として公立高への越境入学を認めていないが、保護者と一緒に県内に転居することを条件に認める“学校裁量枠”が存在していた。ところが今回、6校で計38人の規定違反の入学が判明、うち25人を占めた藤枝東では、運動部所属の生徒を中心に県外にある自宅から通ったり、OBや後援会が用意した下宿から通ったりしており、学校側も25年前から“黙認状態”だったという。

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 この問題について、16日の『ABEMA Prime』では、バルセロナ五輪柔道銀メダリストで、出身地の静岡県教育委員会の委員長も経験した溝口紀子・日本女子体育大学教授を交えて議論した。

【映像】静岡県教育委員会の委員長も経験した溝口紀子教授に聞く

■公立の越境入学は“禁じ手”だし、県民に対する背任行為だ

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 調査結果について、県教委は「確認作業というところと、保護者の指導というところが行き届いていなかった」と説明しているが、藤枝東の場合、25人全員が「サッカー部」に所属。“サッカー王国”特有の事情も伺わせる。

 溝口氏は「清水エスパルスとジュビロ磐田の試合もある“静岡ダービー“もあるし、“小武将”がいっぱいいて、常に戦国時代だ。高校においても、藤枝東はサッカー部と進学校というブランドを打ち出している。私の教え子にも出身者がいるが、“先生、藤枝東に入ると、まずスパイクを買わされます”という話を聞いてびっくりしたことがある。体育の授業で、女子もスパイクを履いてガチのサッカーをするそうだ。そのぐらいサッカー熱がすごいし、みんな本当に上手い。女子もルールを把握している」と話す。

 「そういう中で、サッカーの名門校として、強くなるには他所から選手を入れたいという、いわば“パイの取り合い”、そして、それに対する“やっかみ”のような、内向きになってしまっている部分があると思う。現場では“みんなやってるよね”ということだったのだろうし、教育委員会も見てみぬふりをしていたのだろうが、バレバレだったとしても公立の越境入学は“禁じ手”だし、県民に対する背任行為だ」。

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 事実、県立校の運営には県民の税金が投入されており、県外の生徒の入学が増えれば、その分だけ、県内の中学生の進学先が減ってしまうことにもなる。

 「前任校が静岡県立大学だったが、県内者と県外者では入学金や授業料に2倍の開きがあったし、推薦入試の枠も県内の高校が多かった。税金は国からも投入されているが、当然、県民税も投入されているわけだから、そこは住民票のある県民へのサービスとして優先されるべきだという考え方からだ。とはいえ、藤枝東にはサッカーだけでなく、勉強で入りたいという受験生もいるわけで、そうした枠を県外の生徒が奪ってしまうというところには問題がある。“やっぱり親も住民票を移して納税してくださいよ”という話になるわけだ。

 また、越境入学は部活だけの問題にとどまらず、地域創生の問題にも関わってくる。静岡県でも人口の流出が起きていて、他県の人に使われた税金が結果として戻って来ないということになる。学校は知の拠点でもある一方、人の拠点でもある。地域のアイデンティティや文化の継承の場としても人を集めたいというところもある。特にサッカー部と野球部の出身者は就職に強いし、特に藤枝東の場合、県内で就職する際には“あなた藤枝東?”と、都内の名門大学を出た以上のブランド力がある」。

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 今回は静岡県がクローズアップされているが、2017年時点で32の道府県で越境入学が解禁されているというデータもある(三重県の調査)。

 「いまこのデータを知った静岡県民は、画面の前で“良かったんじゃん!”と椅子からずり落ちていると思う(笑)。私もそう思った。しかし先ほども言った通り、静岡市は全国でもっとも若者の流出が多い街の一つだ。柔道もそうだが、種目によっては、逆に県外に出てしまうケースがある。だからこそ先生たちも“他の県がやってるんだったら、自分のところだっていいじゃん”と見逃してきたんじゃないか。実際、私も教育委員会の中に入ってみると、やはり“みんなやっているよね”というところがあった。“裁量枠”というのも、ぶっちゃけて言えば野球とサッカーの推薦枠になっていたし、実質的に男子のための枠になっていた。しかし、それはおかしいということで、数学オリンピックや音楽など、文武芸に門戸を広げるようにはなった。学校にも多様性があるし、独自性を出して戦略的にやらなきゃいけないという点では、私立高も敵になるということだ」。

■学校名で行われている“部活動”の範疇を明らかに超えていると思う

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 他県に先駆けて越境入学を解禁してきたのは島根県で、公立の全38校中15校で認めており、学校が保有する寮の数も全国一だ。結果、県外からの入学も、11年で4倍以上に増えているという。

 オンラインサロン『田端大学』の田端信太郎塾長は「県民の税金が使われているという意味では、県知事選の争点にすべき話だと思う。例えばアメリカでは、州の公務員で最も給料が高いのは、州立大のフットボールやバスケのコーチだし、情報公開もされているので、納税者も納得している。静岡県知事は、サッカー王国として、とにかく強くすることを目指すのか、県民をフェアに入学させることを目指すのか。投票で決められればみんなも納得できると思う」と問題提起。

 「ただし日本の場合、首長と現場・保護者の間に教育委員会が入っていて聖域のようになっている。例えば僕は港区に住んでいるが、教育委員会のメンバーは知らないところで勝手に決められているし、そこに対して誰も説明責任を負わず、ガバナンスも効いていないと感じている」。

 溝口氏は「私は知事選に出たこともあるが、それを訴えたら当選していたかもしれない」と苦笑。「やはり静岡県教育委員会は矛盾している。実は人口の少ない山間部では、都内の子を“留学”させて、田舎の暮らしやお茶の栽培など、地域の特色を生かした教育で子どもを育てようという取り組みはやっている。そっちはいいのにこっちはダメということになっているので、やるなら独自性を出してちゃんとやった方が私もいいと思う」と応じた。

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 慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「田端さんのおっしゃる通りで、僕はオンライン教育の規制緩和に関わっているが、文科省があって都道府県があって教育委員会がいて学校がいて、という構造になっているので、みんなが“私たちはやってます”と言っていても、実は全体的にはやれていない」とコメント。

 さらに「教育上、本当に問題だと思うのは、越境入学の生徒だけが事実上の“全寮制”になっていることと、そこに対して学校がどれだけ責任を負っているのかが不明確なことだ。アメリカのボーディングスクールの場合、全員が寮に入る代わりに、そこでの規律ある生活も教育の一環になっているし、うちの娘が入っている全寮制の学校も、学校が寮生活も教育プログラムとして責任をもって管理している。藤枝東の生徒が住んでいる下宿や島根県の県立高の寮はどういう思想に基づいて運営され、学校がどれだけの責任を負い、教育上の配慮をしているのか。県立高がそこに乗り出していくというのなら、団体生活も教育だということで、責任を持ってカリキュラムに組み込むべきだ。学校と別のコミュニティが存在し、それが放置されているとすれば、学校名で行われている“部活動”の範疇を明らかに超えていると思う。

 そしてこの際、高校スポーツは全国大会をやめた方がいいんじゃないか。真夏の暑い時に全国から集まって試合をする野球も含め、全国大会をやるからこんなことになるんだろう。サッカーの場合はJリーグのジュニアユースがあって、高校と一緒にやっちゃいけないことになっている。縄張り争いじゃないんだから、そういうことは辞めたほうが良い。これは日本特有の問題でもあるし、高校はやはり勉強するところだ。藤枝東も高校とは切り離して別のコミュニティにしちゃって、OBなどが盛り上げるサッカークラブにすればいいのではないか」と厳しく批判した。

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 溝口氏も「お金の問題はもちろん、保護者の方が遠いところにいる生徒の事件・事故が起きた時にはOBやファンが面倒を見ているという実態もある。私学と違って、親の“預けっぱなし”で良いのか」と話していた。(『ABEMA Prime』より)

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