“優劣のランキング”が、やがて“人権がない、生まれてこない方がいい”に…SNSや日常に顔を覗かせる「優生思想」
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 「170センチない方は“俺って人権ないんだ”って思いながら生きていってください」。ライブ配信中そんな発言をしたプロゲーマーの女性が非難を浴びて謝罪に追い込まれ、契約していたプロゲーミングチームとの契約が解除された問題。

 あるいは過去に論争となった「どこまで高齢者を長生きさせるのか考える必要がある。命を選別しないとダメだと思う」、「ホームレスの命はどうでもいい。自分にとって必要ではない命は軽い」「◯◯選手のようなお化け遺伝子をもつ人たちの配偶者は国が選定すべきではないか」といった表現や考え方。

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 これらは「暴言」「不適切発言」「問題発言」などとして報じられ「差別発言」、さらには「優生思想につながる」といった指摘が出る一方、そもそも何がどう悪いかを、詳しく学ぶ機会が少ない。

 こうした状況について、17日の『ABEMA Prime』に出演した立命館大学先端総合学術研究科の松原洋子教授(生物学史)は「センシティブな領域であることは確かだが、一つ間違えると、気づかないうちに人の存在を否定することあり得る。そして今、優生思想がいろいろな形で生活に浸透しつつある」と話す。

【映像】話す&聞くことすら許されない?タブー視される優生思想のそもそもを解説

 そもそも、「優生学」「優生思想」とはどのようなものなのだろうか。

■出発点には、“人間の品種改良”という考え方があった

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 松原教授は次のように話す。
 
 「身体的・精神的特徴、能力など、人の様々な性質に優劣を付ける。分かりやすいのが知能や身体能力、よく言われるような、“人間としてのスペックが高い”といったものだ。そして、そうした生物学的な素質は生まれつきのもので、高い社会的地位にあるとか、お金持ちであるといったこととも科学的な関連があると考える。それが優生学の特徴だ。そこで遺伝を重視し、優れているとされる人をたくさん生み出す一方、劣ったとされる人が生まれないよう、人為的に生殖に介入する。しかし、その優劣というのは時代の価値観、特に多数派の価値観で判断される傾向があるし、生まれ持ってのものと関連があると決め付けることはできないし、一言で言えば科学的にナンセンスな部分もある。

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 ところが日本においては1996年まで『優生保護法』という法律があり、そこには“優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する”ことが目的だと書いてあった。そして、これに基づいて不妊手術が行われていた。例えば、不良少年や放浪している人など、変わった行動をする人や、社会に迷惑をかけるような行動を取る人を“素行不良者”として知的障害や精神障害といった病名に結び付け、精神病院に入院させて強制的に不妊手術を行うということが、戦後も現実に行われていた。

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 外国でも、アメリカでは早くから『断種法』という法律が作られ、犯罪傾向や能力を人種と結びつける差別的な考え方と優生学によって、特定の人種には妊娠させないということも行われていた。そしてナチスドイツによる『T4作戦』だ。これは生命を格付けして出生に介入する考え方を超えて、1945年までに精神障害者や身体障害者が20万人以上をガス室で虐殺した。この方法がユダヤ人の強制収容所でも応用されたということだ」。

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 フィリピン出身で学生時代に来日、現在は外資系ホテルの日本法人社長を務める薄井シンシア氏は「こういう歴史について話をすること自体が悪いことになっている雰囲気があるが、その雰囲気こそが危険だ。最近読んだ本の中に“知ることが最良の予防接種だ”という言葉が、あって、すごく刺さった。知って、ディスカッションしてほしい」と話す。

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 テレビ朝日平石直之アナウンサーも「優劣を付ける、ということ自体を指すのではなく、その結果、優れているとされた人の子孫を増やす、あるいは劣っているとされた人の子孫を減らす、というものが優生思想だ。一方で、人間以外、例えば植物について言えば“良いリンゴ”と“悪いリンゴ”という表現があるように、“交配”や“遺伝子組み換え”などのバイオテクノロジーを用いて害虫に強い作物を作るといったことが行われている。あるいは動物についても、非常に優れた成績を残した競走馬を“種馬”として、その血統を残そうということが行われている。しかし、それを人間に当てはめると、差別や迫害を受けず自由に生きていく権利が侵害されるので、あってはならないこととされている。

 その、“なぜダメなのか”というところを説明しなければ、良いリンゴを作ろうとしているよね、速く走れる馬を残そうとしているよね、という議論になってしまう。そして“優秀な人の子孫を残した方がいいよね”というような考え方は勝手に芽生えてくるものだ。そこで“いやいや、人についてはいけませんよね”、“そもそも何が良いのか悪いのかは他人に決められるものではないし、ましてや国が決めるものではないよね”、“だから優生学はダメだよね、優生保護法はあったけどあれは間違った政策でしたよね”という議論をして、共通の理解ができるよう、タブー視することなく、話をしなければならない。しかし、そういう教育が今の日本にはないと思う」と応じた。

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 松原教授は「そもそも優生学の出発点には、“人間の品種改良”という考え方があった。19世紀の終わりに、ダーウィンの進化論の影響を受けて、“これを人間にも当てはめてみよう”ということになった。実際、動植物は品種改良を繰り返すことによって、望ましい特徴を持ったものを生み出してきた。人間も生物であれば、その原理を応用できるはずだということだ。しかし、誰が何をどう選び、どう改良するかという問題が出てくる。もちろん動物倫理の考え方もあるが、動植物の場合は圧倒的に利用する人間が優位だ。しかし人間が人間に対して、動植物に対する場合と同じような上からの目線に立てるのか、これが大きな倫理の問題になってくる」と説明した。

■人の生存や尊厳を否定すれば優生思想になってくる

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 一方、社会の風潮についてブログで「優生思想は、誰でも持っているものだ」などと問題提起をしたところ批判を浴びてしまったという片田真之介さんは「“お前の責任”とか“お前が頑張らなかったからだろ?”といった自己責任論、“そういうことを考えること自体、自分自身に優劣を付けているからだろう、寝た子を起こすな”といった批判を受けて、それ以上は話ができなくなってしまった」と話す。

 「私自身は、やはり優生思想のようなものはいろいろなところにあると思っている。例えば容姿をめぐる話もそうだし、良い学校に通っている人の意見の方が良いよねとか、良い会社に入らなければならないよねというような“勝ち組・負け組論“みたいなものもそうだと思う。あるいは私は中学生の時、プロスポーツの元選手の息子さんからいじめを受けていた。学校はその子のことは守るけれど、私のことは守ってくれなかった。いわゆる“恵まれた子”を助け、そうではない一般の子は放置するという判断を突き詰めれば、これも優生思想的なものなのではないか」。

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 松原教授は「“この人、素敵だな。自分もこうなりたいな”と思うことは誰にでもあるだろう。それはつまり“この人は自分よりも優れている”と思っているということだ。そして成績が良いとかスポーツが得意とか、お金持ちだといった、プラスの価値とされることは良いが、そうでないものは良くないな思ってしまう、それ自体も不思議なことではないと思う。だから自分が色々な場面で優れているな、劣っているなと思うこと自体を優生思想だというのは言いすぎかなと思う。

 ただし、先ほど“多数派の価値観が反映しやすい”と説明したが、そうした考え方が人間そのものの“格付け”とリンクしてしまい、さらに劣ったとされる人には“人権がない”とか、“死ねばいい、生まれてこない方がいい”といった、ある種の社会的な圧力になってしまうことがある。また、その裏返しとして、“優れている人同士が結婚したほうが優れた人が生まれるだろう”という、生物学的にはあまり意味がない意見も出てきてしまう。

 そして、片田さんが“言葉が出なくなる”とおっしゃったが、非常に重要なポイントだ。例えば旧優生保護法で強制不妊手術をされた方々は、その事実を恥じて明かすことができず、70代、80代になった最近になってようやく声に出せるようになり、国の責任を問う裁判を起こしている。格付けをされた結果、特に“劣”の方に追いやられた方々が苦しみを表現することができず、周りが“こんなひどいこと、やっぱりおかしいよね”と言ってくれる環境になって始めて表現できるようになることがある、という重い事実がある」と話した。

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 また、ルッキズムの問題や出生前診断をめぐる議論など、やはり優生学や優生思想の考え方を知った上での議論が求められる場面も増えているのではないだろうか。

 松原教授は「やはり見た目で人を格付けするという考え方自体、あまりよくないという時代にはなっているし、男らしさ、女らしさといった固定的な考え方に基づいて良し悪しと決めつけるジェンダーの問題や、人種、出自の問題。これらについても、単に優生思想ということではなく、まず自分自身の考え方が客観的に見て独りよがりではないの?という問いかけをしなくてはいけない時代になったということだ。その上で、人の生存や尊厳を否定すれば優生思想になってくる。優生学の背景にあるのも、“この人は生きていても価値がない”といった生命の格付けをする優生思想があり、それがエスカレートすると、“殺してしまえ”ということになっていく。

 そして出生前診断についても、やはり“こういう子は生まれてこなくていいんだ”という考え方が前提にあって、それに医療技術を応用することが許されるということだが、例えば障害を持った子どもを産まないようにすることは許されるが、男女の産み分けに使うことには許されないということには、自分の判断だけでなく、社会の判断が関わっている。やはりそこには社会的な傾向が影響しないのか、ということも考えざるを得ない」と話した。

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 フリーアナウンサーの柴田阿弥は「かつては身内に障害がある方がいると、結婚が破談になるということも普通にあったと思う。そういう中で非常に嫌な思いをしたことがおおいためにタブー視されてしまうのかなと思った」、『BlackDiamond』のリーダー・あおちゃんぺは「今の時代はSNSによって簡単に自分と他人と比べてしまったり、何となく格付けしてしまったりする。だからこそ劣等感も生まれやすいと思う」と指摘。

 EXIT兼近大樹は「“優生思想的”に考えたら、僕だって“生まれちゃいけない”はずの人間だし、“子孫を残してはいけない”と切り捨てられてしまった側の人間かもしれない。でも今、こうして片田さんと話をしている。誰にでも劣っているところはあるし、逆に優れているところもあると考えれば分かりやすいと思った」と話していた。(『ABEMA Prime』より)

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