将棋の藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、19)が、王将獲得の一夜明け会見で現在の位置について問われ「(富士山の)森林限界の手前」と答えたことが、大きな話題になった。過去にも「望外」「僥倖」といった、普段の会話には出てこないような言葉を用いることで注目されることも多いが、将棋界の大先輩でも粋な言葉を使う者が多い。その一人が故・米長邦雄永世棋聖だ。畠山鎮八段(52)が思い出したこの名文句に、弟子の斎藤慎太郎八段(28)も「それ、使ってみたいですね」と目を輝かせることになった。
「第1回ABEMA師弟トーナメント」の予選突破を果たした畠山・斎藤の師弟は、本戦に向けてフィッシャールールの練習として10局連続で指す特訓。さらには斎藤八段の父が経営する焼肉店でさらに絆を深めていた。ほどよく酒も入り、畠山八段の舌も滑らかになると、得意のものまねについても上機嫌に語り出した。若手の棋士、さらにはプロ入り前の奨励会員ともなれば、タイトルを保持しているような大先輩は憧れでもあり、その所作や口癖は真似したくなるもの。よく覚えているのが、米長永世棋聖のものだった。
畠山八段が説明したのは、米長永世棋聖が記録係に残りの持ち時間を聞く時のもの。「残り時間を聞く時に『俺の命は』と聞くんですよ。洒落ていると文化人にも人気があった。米長先生がやるとかっこいいんですよ。将棋盤を命がけみたいに見ているのに、フッと言われる」。確かに目の前の一局に心血を注ぐ棋士にとって、その対局を生み出すための時間は、命のようなもの。実におしゃれな表現だ。
ところが、これも米長永世棋聖だからピタッとハマるという笑い話もある。畠山八段が自分の横で対局している棋士の声を聞いた時の思い出だ。「私の先輩の某棋士が、米長先生の真似をしたんですけど、記録係の子が『はっ!?』となった」。どうやらその棋士は、尊敬する大棋士の言葉を借りてみたものの、残念ながら記録係にうまく伝わらず、米長永世棋聖のように決まらなかったようだ。
2人の間では大きな笑いが生まれつつセンス溢れる言葉選びは、新旧を問わず今後も将棋界で対局以外の要素として楽しまれていきそうだ。
◆第1回ABEMA師弟トーナメント 日本将棋連盟会長・佐藤康光九段の着想から生まれた大会。8組の師弟が予選でA、Bの2リーグに分かれてトーナメントを実施。2勝すれば勝ち抜け、2敗すれば敗退の変則で、2連勝なら1位通過、2勝1敗が2位通過となり、本戦トーナメントに進出する。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで、チームの対戦は予選、本戦通じて全て3本先取の5本勝負で行われる。第4局までは、どちらか一方の棋士が3局目を指すことはできない。
(ABEMA/将棋チャンネルより)






