「To be, or not to be, that is the question.」

 シェイクスピアが残した演劇史上最も有名なこのセリフ。

「生か、死か、それが疑問だ(翻訳・福田恆存)」
「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ(翻訳・河合祥一郎)」
「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ(翻訳・小田島雄志)」

【映像】「Good people turn their scars into stars.」を“翻訳”してみたら(6:10ごろ〜)

 上記のようにメジャーなセリフでも、翻訳家によって訳し方はさまざま。本や映画などで目にする翻訳の裏には、実は訳した人の解釈が入っている。

 過去にベストセラーの翻訳を手掛けた宮崎伸治氏は「正確に読み取ってどういうふうに訳すのか。すごく時間がかかるし、それプラス、日本語として読みやすいように何度も何度も推敲しないといけない」と苦労を語る。そんな宮崎氏の著書『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』が今、話題を集めている。

印税カット、出版中止…翻訳家が経験した地獄にひろゆき氏「スキルあるのに儲かる方に行かず、下請けで困ってる。よくわからない」
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「自分の名前が載った翻訳書が書店に並ぶ。ベストセラーになる。印税がガバガバ入る。そういう数々の成功体験ができた。しかし、8年前、私はその世界から完全に足を洗った」(※一部引用)

 業界との決別宣言まで飛び出すに至った宮崎氏の怒りの裏には、翻訳業界ならではの事情があるという。

「印税を出版の直前になってひっくり返されたり、カットされたり。約束した出版時期を延ばされて遅らされたことが何回もあった。全部裏切られて、夜も眠れないような日々を何日も過ごした」

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 翻訳の仕事が軽く見られ、無理なお願いをされることもしばしば。3度の出版中止も経験した。

「私自身は出版翻訳家になって良かった、良い体験だったとは思っている。だから出版社側もできるだけの範囲で、誠実に対応して欲しい。それが私の希望です」

 ニュース番組『ABEMA Prime』に生出演した宮崎氏は「一般的には、たくさん印税が入ったら一番良いと思われるかもしれない。私の場合はそれよりも読者に評価してもらったり、あるいは、翻訳書を出すことによって講演の依頼が来たり、著書の依頼やインタビューが入ったり。自分の活動が、どんどん広がっていくことが非常にうれしかった」と語る。

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 30代の10年間で著書を含む60冊を手がけた宮崎氏。中でも翻訳した名著『7つの習慣 最優先事項』はベストセラーになった。この“10年間で60冊”は睡眠時間を削った上で成り立った数字であり、かつ著書を含めた冊数だという。

「著書の場合は『2週間で書いてくれ』とか、だいたい無茶ぶりで依頼される。著書の場合は、自分が思っていることをどんどん書けばいいので、早く書ける。翻訳書は、原著を理解して、それを自分の言葉に置き換える作業があるから、非常に時間がかかる。過去に3度の出版中止を経験したが、翻訳は全部終わっていた。日本の出版社は古くからの慣習で出版契約書をなかなか発行してもらえない。私はそれと戦うために、しつこく『出版契約書を出してください』と毎回言っている。なかなか出版契約書を出してくれなくて、トラブルの原因になることもある」

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 宮崎氏の説明に、ネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「結局下請けとしてやる翻訳の仕事と、エージェントとして翻訳する権利を取るという、別々の仕事をごっちゃにしているのが問題だ」と言及。「翻訳する能力があって面白い本を見つけられるなら、最初から外国の作家さんに『俺が翻訳するからエージェントも俺がやるよ』と言って、出版契約自体をもらって、出版社に持っていけば、出版社が途中で出版をやめても、それをそのまま他の出版社に持って行ける。中には何十億円と儲けている翻訳家もいて、当たれば儲かるのに、スキルがありながら儲かるほうに行かなくて、下請けで困っている。それがよく分からない」と疑問を浮かべた。

 日本語で書く作家も翻訳家と同じような状況なのだろうか。増刷率90%の出版プロデューサー・西浦孝次氏は「僕は出版前に出版契約書を結んだことがない」という。西浦氏は「さすがに書き上がってから、そういうこと(出版取りやめ)にはならないようにはしている」とした上で「例えば、企画書の段階では面白そうだったのに原稿を書いてみたら面白くないとか、企画書で言っていた内容のクオリティに及んでいない場合『ちょっとこれは言っていたことと違うよね』となる。著者さんも納得して出版に届かなった場合は、お互いにごめんなさいして、引っ込めることはある」と明かす。

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 宮崎氏も著書と翻訳の違いについて「(著書は)書いてみなければ、どういうものが上がってくるのか分からないところもあると思う」という。その上で「ただ、翻訳書の場合は原書がある。原書をちゃんと読めばだいたいどういう本か分かるはずだ。分かった上で翻訳の仕事を依頼しておきながら『読んでみたらやっぱりちょっと違っていた』と言われても、こちらとしては納得ができない」とコメント。「私は裁判を何回もやっているが、なかなか改善しない」とため息をついた。

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 音楽ユニット「Foorin」の楽曲『パプリカ』の英語訳詞などを手掛けているシンガーソングライターで俳優のネルソン・バビンコイ氏も翻訳業の難しさに共感を示した。

 ネルソン氏も「舐められているとしか言えない。翻訳ってすごく難しい。人が分かってくれるような文章を、しかも相手が伝えようとしている文章をちゃんと読み取らないといけない」と苦労を述べる。

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 番組の中で、Google翻訳やDeepLといったAI翻訳の精度について議論が及ぶと、ネルソン氏は「僕の仕事仲間がDeepLとGrammarlyという英語の文法を直してくれるサイトを使って、3人分の仕事を1人でやっている」と言及。

「今の時代、AIを使った上でプラスアルファ、自分でどれくらい変えられるのか。そこまで総合的に把握してやらないと厳しいのではないか。そういう時代に来ている。10年前、僕が翻訳の仕事に3時間かけていたものが、今は15分で終わる。下書きをしなくていい時代だ。それぐらい効率化されている。ツールとしては最高だが、ただ、翻訳家として、仕事の相場が下がっていく。結局『人間ができることは何か』だ。常にそれを探求して追求していかないとまずい」

 活字離れや本屋減少など、暗いニュースばかり続く出版業界。AIが進化する中、翻訳者の役割や重要性に注目が集まっている。(『ABEMA Prime』より)

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