海外メディアやSNSの情報に頼るだけでいい?危険を冒して自ら取材するべき?ウクライナ侵攻で問われる日本メディアの戦争報道
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 ロシアによるウクライナ侵攻を報じるマスメディア。ところが日本のテレビ局や新聞の多くは首都キエフを離れており、メディアアナリストの鈴木祐司氏によれば、JNN(TBS系)のみがキエフに記者を置いているだけ(2月28日時点)だという。

 日本の報道機関は海外メディアやフリージャーナリスト、さらにはSNSからの情報に頼っているだけでよいのか、日本政府が退避勧告を出す中、危険を冒しても現地へ取材に赴くべきなのか。1日の『ABEMA Prime』では、取材先のシリアで3年4カ月にわたり武装勢力に拘束された経験を持つジャーナリストの安田純平氏を交えて議論した。

■それでも残る“現地取材”の意味

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 安田氏はまず、自分の目で現場を見ることの重要性について次のように説明する。

 「私が取材していたシリアの場合、例えば小さな子どもが“目の前に爆弾が落ちて大変だった”とか、“生活がこんなに苦しい”とツイートすることで注目を集めると、反対の側は“これは実はおっさんが書いているだけだ”といって潰しにかかろうとする。現場にいる人は“当事者”なので当然、そういう目線になってしまうし、今回のウクライナに関しても、当事者がSNSに流した情報はどこまで信じられるのか、という問題が出てくる。

 それが現場に行けば、例えば政府側と反政府側がそれぞれどういう場所にいてどういう兵器を使っているのか、あるいは遺体の状況などから、“無差別爆撃をしている”といった情報が本当なのか確かめることができる。ただ、ベトナム戦争の頃のように、現地で写真を撮ること自体が貴重だった時代から、誰でも写真を撮れる時代になった今、記者がやらなければならないのは“一枚の写真”だけではなく、色んなものを総合して起きている事象を分析するというところまでやらないといけなくなっていると思う」。

 その上で、日本のメディアを取り巻く状況については「批判に耐えられず、ネットの情報でいいや、という話になってしまっている」と指摘する。
 

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 「長崎県の雲仙普賢岳が噴火した際(1991年)、取材に来ていたマスコミだけでなく警察官なども火砕流に巻き込まれて亡くなってしまったことがあった。批判も多く、その頃から“何か起きた時にまずい”ということで、現地取材そのものが減っていったと思う。紛争地に関しても同様で、イラク日本人人質事件(2003年)以降、やはり“何か起きたら迷惑だから”ということになっていったと思う。そこで私たちフリーランスが取材するということにもなるが、やはりイラク戦争を機に、“事実上の契約状態”から、“良い画が撮れたら買うよ”ということになった。当たり前の話だとも思うし、フリーランスとしても別に下請けでやっているわけではないので、むしろ大手のメディアがいない方が自分の取材がしやすくなる。

 逆に言えば、現場に入ろうとするからこそ、どういう状況になっていて、どんなリスクがあるか真剣に分析し、考えようとするわけで、自分たちで現場を取材しようとする意欲や努力が無くなれば、事実に対していい加減になり、“もうネットの情報でいいや”みたいな話になってしまうと思う。しかし安保法制が通った今、自衛隊が出ていくことになるかもしれない。そこは当然、政府の退避勧告が出た場所になるだろう。そこで勧告が出ているからといって、自衛隊が行った先に日本のメディアが行かなくていいのか、という話になると思う。

 やはり欧米のメディアが自分たちで取材に行くのは、民主主義国家の国民が物事を判断するためには、政府からの情報だけではダメだという前提があるからだ。だから日本のマスメディアの中に現地に行きたくて不満を持っている人はいると思うし、会社の建前と違うので発表していないだけで、実際はシリアにちょこっと入っている人もいたと思う。

 結局のところ、“迷惑”という話について、具体的にどういう迷惑なのかという話は誰もしない。現場に行った記者が拘束されてしまう、死んでしまうといったリスクをどこまで許容できるのか、その議論を詰めるべきだ。欧米のメディアは、そのあたりまで考えてウクライナでの取材を行っているのだと思うし、逆に私がシリアに行っていた2015〜2018年の間、欧米のメディアは入っていなかった。無理な時は無理だと判断もしているということだ」。

■SNSの情報も含め、俯瞰して分析する力も必要だ

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 安田氏の意見に対し、元毎日新聞記者でジャーナリストの佐々木俊尚氏は「安田さんのおっしゃる通り、国内の世論を読んで現地に行けなくなっているというのは確かだと思う。元新聞記者としては気持ちとしてもよく分かる。だからといって、今のテレビ局や新聞社に“出せよ”とは言いにくい。むしろ日本には、伝統的な“社会部ジャーナリズム”のような、過剰な現場主義がある」と指摘する。

 「僕が現役の頃、取材前に勉強していると、“佐々木、そんな暇あるんだったら現場に行ってこい”と必ず言われた。そのくらい、現場に行くことが偉くて、現場に行かない記者はダメな記者だ、現場に行っている記者には発言権があるが、行ってない記者にはない、みたいな空気があった。現場取材は確かに大事だし、行かなければ見られないものがあることも間違いないが、一方で現場というのは全体の中の一部でしかなく、その背景や文脈みたいなものが抜け落ちてしまうことにもつながる。つまり、両輪だということだ。

 さらに言うと、現場に行ったジャーナリストの“主観”という問題もある。誰が行ったかによって、物の見方が変わって来るわけだ。あるいはYouTuberはジャーナリストなのかという新たな問題も出てきている。中には物見遊山に行く人もいるだろうし、そこはもう、本人の志の問題に帰結するのではないかと思う。だからこそ現場の記者のレポートだけでなく、現地の人からの情報や研究者の分析、政治家の発信を掻き混ぜ、上手く分析する、そういう目線の努力が、このSNS時代のマスメディアには必要になってきているのではないか」。

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 2人の話を受け、テレビ朝日平石直之アナウンサーは「私自身、ニュージーランド地震を取材している際に警察に捕まって連行された経験もあるので、安田さんのような取材の尊さ、思いも伝わってくる。その一方で、現地にいると俯瞰した目で見るのが難しくなるので、佐々木さんの話もわかる。個人がジャーナリストとして持ってきた“パーツ”が他には代えがたいものだということは間違いないし、そのための取材も非常に貴重な、尊いことだと思う。一方で、それをどう評価するかはまた別の話になってくるし、こういう表現は使いたくないが、“迷惑がかかる”という状況もあり得るわけだ。安田さんは現地で見てくるのが得意な方だと思うし、佐々木さんは引いた目で見るのが得意な方なんだと思う。その両方が必要なことなんだと思う」とコメント。

 その上で、「雲仙普賢岳のことは私が入社する数年前のことだが、テレビ朝日も記者を失っている。しかも現地のタクシー運転手の方なども巻き込まれている。そして2011年には、現場に急行している途中に支局の記者が交通事故に遭って亡くなった。それは私の同期だ。しかも現地のスタッフの方も失っている。毎年、命日になると報道局のフロアに祭壇を設けて、手を合わせてきた。それでも社内には行きたいという人はいるが、やはり会社としては安全に対する意識が高く出てしまっているのかなと思うし、結果として、情報を提供してもらってばかりになっているというのも事実だと思う。さらに組織ジャーナリズムとして別の視点で言えば、テレビ朝日はモスクワに支局を構えている。報じ方によってはこれも一方に寄ってしまうリスクも出てくると思う」と自らの思いを語った。(『ABEMA Prime』より)

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