「議論は正しい知識に基づいて行われるべきだ」ロシアの核戦略、そして日本の核共有(ニュークリア・シェアリング)の基礎知識を学ぶ
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 「国防相、参謀長にロシア軍の(核を含む)抑止力部隊を特別戦闘準備態勢に移すことを命令する」。ウクライナへの軍事侵攻が激しさを増す中、核の存在をちらつかせるロシアのプーチン大統領。さらにラブロフ外相はカタールの衛星放送局「アルジャジーラ」のインタビューの中で“第3次世界大戦”について「核戦争以外にない」と述べたと報じられている。

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■“核を使った脅しの敷居”が低いロシア

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 2日の『ABEMA Prime』に出演した防衛省防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室長は「ロシアがずっと準備してきたことだという恐ろしさがある」と話す。

 「冷戦後のアメリカは、ハイテク戦力などの通常戦力が強くなってきたために核兵器の役割を減らしてきた。一方、ロシアはハイテク戦力ではアメリカに敵わないということで、逆に核の役割を増やし、その使用をちらつかせることで相手に譲歩させたり、場合によっては限定的、警告的な使用によって相手を退かせたりすることについても議論をしてきたといわれている。今回のプーチン大統領の発言も、まさにそのライン上にあって、“核を使った脅しの敷居”はロシアの方が西側諸国よりも圧倒的に低いということだ。

 ただ、ロシアとの戦争は核戦争に発展する可能性があるからといって今回のような侵略を許してしまえば、それが前例になってしまうことになる。しかし、そもそも核軍縮の大きな流れは、ロシアによるクリミア併合(2014年)で無くなってしまい、今や“米露で1550発”という条約を守れるかどうかがポイントだ。それも今回の戦争で難しくなってきていると思うし、悲しいかな、時計の針が戻ってしまったというのが現実だ」。

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 その“限定的”な場面において用いられると考えられているのが「戦術核」だ。同時にロシア軍では、「戦略核」の部隊が戦闘態勢に入っているとも報じられている。

 「専門家の間では戦術核と戦略核という区別はされておらず、戦略核と非戦略核・小型核という言い方をしている。戦略核が米露の核軍縮条約で規制される核戦力で、非戦略核・小型核はそれ以外の核戦力だ。なぜなら、どんなに小さい核兵器であっても使用されれば戦略的なインパクトがあるからので、「戦術」と呼ぶとそれが矮小化されてしまうからだ。

 そして冷戦後、今が最も核使用の危険が高まっている状況だと見て間違いない。シナリオとしては、NATOが介入しロシアをハイテク戦力で圧倒した場合、核兵器を使って反撃する、もしくは本気であることを示すために、人がいない場所で爆発させるということが考えられる。極端な悪いシナリオとしては、可能性は低いものの、ウクライナに対して使うということも考えられなくはない。また、第3のシナリオとして懸念しているのが、成層圏で爆発させて電磁パルスを発生させ、コンピューターや送電システムに影響を与える、というものだ。

 いずれにしろ、核兵器が使われたのに同じ核兵器で反撃しないということはちょっと難しい。しかし、これだけSNSが発展した時代で核兵器が使われらどうなるか。キエフからの映像が流れてくるように、広島にある原爆の図のような画が、はるかにビビッドな形であっという間に世界中に流れることになるだろう。それは世界を変えることになるし、もう元には戻れない。それによって大幅な核軍縮が実現するのかもしれないが、そのために核攻撃が起こってほしいとは全く思わない」(高橋氏)。

■安心を提供するものが“核の傘”だ

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 こうした中、安倍元総理がフジテレビ系で放送された橋下徹氏との議論の中で「世界はどう安全が守られているかという現実について議論することをタブー視してはいけない」と指摘。アメリカの核を自国内に置いて共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について言及している。

 また、自民党の高市政調会長も、核を「持たず」「作らず」「持ち込ませず」という「非核三原則」について「あくまで守るのか。それとも“持ち込ませず”の部分については例外を作るのか。それはその時の政権が判断すべきことであって、将来にわたって縛ることはできない」との見解を示している。

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 「現時点ではNATOにしかなく、5カ国に置かれた核弾頭を、必要な場合にそれぞれの国の航空機で運んで落とすという仕組みだが、これだけが核共有だという絶対視する必要はない。ドイツのケースで言えば、空軍基地に核爆弾が置いてあり、ドイツが攻められた時にはドイツの飛行機で運んで敵に落とすということだ。そして一緒に攻撃をした時には、核兵器を使うというものすごい責任を分かち合うことになる。

 アメリカ大統領とドイツ首相がいずれも使用で一致していれば問題ないが、アメリカ大統領が使いたくないという場合にはドイツは使うことはできない。なぜなら、弾頭はあくまでもアメリカのものだからだ。逆に言えば、ドイツ首相は使いたくない、しかしアメリカ大統領は使いたいという場合は、アメリカの飛行機で運んで使うことができるし、それをドイツ側は止めることができない。これを専門家が“ヨーロッパモデル”と呼ぶ、核の傘のあり方だ。

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 一方、核を置かずアメリカが核の傘をかけるアプローチを“東アジアモデル”と呼んでいる。実はロシアによるクリミア併合(2014年)によって無くなってしまったが、ヨーロッパにおいても東アジアモデルに移行しようという議論もあった。そもそも核の傘というのは、二国間の問題ではなく、3つの国、つまり三角形の問題だ。今回でいえばアメリカとロシアの関係に、ヨーロッパの同盟国が関わってくることになる。ここでアメリカがロシアに向けた矢印が抑止力で、アメリカが同盟国に向けた矢印が安心の提供だ。

 実際、東アジアモデルにおいても、核抑止が破れて核攻撃を受けた、反撃をしようという場合にアメリカが使うのは本土に置いてあるICBMの可能性が高い。飛行機は時間がかかるし、撃墜される可能性もある。冷戦期にイギリスのある国務大臣が面白いことを言っていて、“ロシア人を抑止するためには核兵器を使う可能性が5%あればいい。けれども、ヨーロッパを安心させるためには核兵器を使う可能性が95%なければいけない”と。それほど可能性が高くないと同盟国は安心できないと言うことだ。この区別で言えば、核共有というのは抑止ではなく安心のためだと言える」(高橋氏)。

■「議論は正しい知識に基づいて行われるべきだ」

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 一方、G7などの首脳との会談で「被爆地・広島出身の総理大臣として、核による威嚇も使用もあってはならない」と述べた岸田総理は、核共有に対しても「政府としてこうした考え方は認めないし、議論していくことは考えていない」と答弁している。

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 高橋氏は「総理の考えや政府の考えは国民の考えを反映するものなので、社会レベルで議論はしてもいいと思う。ただし、その議論は正しい知識に基づいて行われるべきだ。先程も説明した通り、仮に日本に核兵器を置いたとしても、実際に日本を守るのは他の核兵器だし、そうした計画や意思決定を共有することがポイントであって、核そのものが共有されるかどうかがポイントではない。

 また、中国や北朝鮮への抑止力が直接高まるわけでもなない。主要な作用は日本が安心するというものなので、これがないと安心できないと日本国民が言うのであれば必要だということだろう。その点、“核タブー”のない韓国では、反対論もあるが、日本よりも積極的に議論が行われている」と説明。

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 アメリカ出身のパックンは「反核の感情が地球平和につながると思うので、そこは大事に保ちたいと思う。ただ、議論をタブー視するのは逆効果になる」とした上で、「核共有を実現しても、抑止力には変わりがないのだろうし、むしろ安心どころか、不安に繋がると思う。例えば核をどこに置くのか。住民は自分たちの地域が攻撃の対象になるかもしれないと不安になるだろう。安倍元総理も山口に置きたいというなら凄いが、どうなのだろうか」と疑問視。

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 元経産官僚の宇佐美典也氏も「非核三原則というのは沖縄の本土返還の議論をしていた佐藤栄作政権時代に生まれたものだが、アメリカに対して“核を持ちたい”と言うぐらいの核保有論者だった佐藤栄作がなぜそんなものを作ったのかと言えば、ロシアや中国を安心させるため、“沖縄に基地は置くけれど核は置かない”という国際的な条件を整えるためで、裏にはアメリカとの密約もあった。そういう流れの中でできてきた大きな防衛の枠組みや日台韓の問題があるのに、大国間の枠組みに一足飛びに入ろうというのは、議論として飛躍しすぎだと思う。そして、安倍元総理は“どうやって自分の国が守られているか知らなきゃいけない”とおっしゃっていたが、先に議論すべきは、自衛隊の軍法会議の問題ではないか。現状のままでは、相手の兵士を撃った自衛隊員は刑法で裁かれる対象になってしまうかもしれない」と指摘していた。(『ABEMA Prime』より)

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