市立小・中学校に通う児童・生徒を対象に、エビデンスに基づく効果的・効率的な教育改革の推進をしている埼玉県戸田市。市教委の戸ヶ崎勤(崎はたつさきが正式表記)教育長によると、「リーディングスキルテスト」と「県学力・学習状況調査」の結果に相関関係があるという。
「このリーディングスキルテストというのは、国立情報学研究所のグランドチャレンジである、“ロボットは東大に入れるか”というプロジェクトの一環として新井紀子教授などによって2015年に考案され、翌年から研究開発をされているものだ。“読解力”というとどうしても国語をイメージしてしまうが、物事を論理的に捉えるという点では数学との親和性も非常に高いと思う。
本市では全ての生徒が中学校卒業の段階で教科書を正しく読めるようになることを目標にしているが、このリーディングスキルテストを受験することによって、そうではない子どもたちが少なからずいるということが分かってきた。例えば学力調査の点は高いけれどもリーディングスキルは低いという子どもたちに対しては、文章が読めないことでつまずかないよう、リーディングスキルの視点からの授業改善に取り組むことが不可欠であると再認識された」。
また、「わかる」ことと「楽しい」の相関関係も見出されたという。
「やはり“わかる”ということよりも“楽しい”という子どもが増えてほしい。TIMSS2019という国際調査があって、日本は理科教育の学習到達度が高い一方、“楽しい”と回答する子どもは小学校の理科を除いて国際平均を下回っているという調査結果がある。戸田市でも独自に悉皆で質問紙調査を行ったところ、算数・数学と理科では異なった傾向が結果で出てきた。算数・数学では“わかるんだけども楽しくない”と答える学級が多かったため、教師は教科の楽しさの理解にもっと腐心していくべきだという仮説を立てた。
その点、どうしても“楽しい”の分解よりも、“わかる”の分解の方が積極的にされてきたのではないか。英語で言えば“I see”という段階なのか、それとも“understand”の段階なのか、さらには良さ・美しさがわかるという点で“appreciate”の段階なのか。楽しさということも、どの段階にあるのかに紐づいているのではないかと思う」(戸ヶ崎教育長)。
同市教委のアドバイザーを務める米イェール大学助教授で半熟仮想株式会社代表の成田悠輔氏は「楽しさというのは分かっていくためのポテンシャルみたいなものを表す部分もあると思う。その時点では苦手だったり点数が低かったりしても、楽しいと時間を使っちゃって、そのうちにできるようになるということもある。逆に言えば、その時点でどの程度できるのかを測るだけではなくて、どれだけ楽しいと思っていて、放っておいても頑張っちゃうのか、ということを見つけることが大事なんじゃないか」と話す。
タレントで元AKB48総監督の高橋みなみは「私は小学校時代、学年で3位ぐらいに入るくらい頭が良くて、いろんなことが分かるから、また勉強する意欲に繋がってすごく楽しかった。それが中2でAKBに入った途端に、学年で下から2番目になってしまって、楽しくなくてしまった。AKBの総選挙のことも思い出しちゃった。総選挙って、楽しくはない(笑)。頑張った分がすぐ数字に出るわけではないし、1位になった子が次の年も出たいかというと、負ける可能性もあるから出たがらない」とコメント。
成田氏は「順位や点数はフィードバックのために本人に教えたり、公開されたりした方がいいと思われがちだが、そのことによって他人との比較に目が行ってしまい、興味があることや楽しいことを見失ってしまう側面もある。その意味では教育は偏差値や点数など単純化された軸で人間や内容を評価する制度を作り上げてきた。ところが、その“諸刃の剣”の効果みたいなものに皆が苦しめられるようになったので、もう一度、教育を豊かな方向に戻すために揺り戻しが起きていると思う」と応じた。
こうしたエビデンスベースの取り組みについて戸ヶ崎教育長は「テレビの警察ドラマを見ていると、ベテランの刑事は情報を足で稼ぐみたいな部分があるが、今は経験や勘に頼るだけでなく、効率的・合理的、あるいは物理学や医学を使った科学的な捜査が行われていることは誰しもが理解していることと思う。
一方、教育の世界はどうかといえば、“経験”、“勘”、“気合”。私は“3K”と呼んでいるが、どうしてもこれらが主流で、“後ろ姿を見て学べ”、“習うより慣れろ”でスキルを磨く文化だった。しかしこれだけブラックな働き方だと言われ、教員のなり手が少なくなってしまっている今、暗黙知、優れた教員のスキルを効果的に伝承し、多面的な学びの過程の結果や客観的なデータに基づいた専門的な指導を行う仕組みが必要なのではないか。
ただ、口で言うのは簡単だが、遅々として進まないという実態がある。また、データだけが独り歩きするのは危険なことでもあるので、最終的には専門家である教師がエビデンスベースからエビデンス・インフォームドという考え方で指導を行うことが大事なのではないかと考えている」と話した。
さらに戸田市では家庭に関する情報のデータベース化も進める構想があるという。戸ヶ崎教育長は「経済的なことから、始まって健診・体力テストの結果など、すべてに“SOS”のサインがあると思う。教育委員会以外が持っているデータだけでなく、市全体が持っているデータを統合しながら一つの大きなデータベースを作り、それぞれに複数の支援をしていけるような環境になると良い」と語る。
成田氏は「教育の中で何が起きているか、あるいは何が重要で、何が効いているか、といったことを自治体の持つデータを使って測っていこうというものだ。それによって効果測定や評価をするというよりも、貧困や心身の障害など、問題を抱えていてもSOSを発しにくい状況にある子どもたちへのアウトリーチの改善が考えられると思うし、自治体が提供するサービスの質を上げるという方向性もあると思う。そのような子どもたちの生活の全体像に関するデータベースを作る構想を、一緒にやらせていただいている」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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