「りゅうおうのおしごと!」白鳥士郎氏が感じた藤井聡太竜王の“ラノベ超え”の強さ「しばらく五冠以上。失冠するイメージが湧かない」
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 小説や漫画の世界を、現実が超え続ける。将棋藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、19)の活躍は、まさにそんな状況だ。14歳2カ月でプロデビューして以来、そこから次々と最年少記録を更新していったが、この2021年度は19歳にして、ついに将棋界の頂点に立ってしまった。ライトノベル・漫画「りゅうおうのおしごと!」で知られる作家・白鳥士郎氏も度々、藤井竜王の快挙について、非現実の世界を現実が上回っているとSNSで発信し、これもまた注目を浴びている。強豪棋士たちをあっという間に抜き去った令和の天才棋士の“ラノベ超え”の強さを、人気作家は今どう感じているのか。

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 「新たに出てきた天才棋士」から、今や「将棋界最強棋士」に。小説、漫画でもわずか5年半でNo.1になるというストーリーは書きにくい。日々、文字で表現を続ける白鳥氏に改めて藤井五冠の印象を聞いても、まず出てくるのは「強いとしか言いようがない」というものだった。

 白鳥氏 強いとしか言いようがないですよね。今後、八冠を全て制覇するかはわかりませんが、失冠をするイメージがないんですよ。しばらく五冠以上のままなんじゃないでしょうか。仮に今の状態が20年続いたとしても、まだ39歳。計算では100冠を超えていることになるので、ちょっと想像がつかない強さです。

 今から26年前の2月、羽生善治九段(51)が当時7つだったタイトルを独占した時も、同じようなことが語られていただろうか。その羽生九段がタイトル数を99期まで増やしたこの時代に、新たに現れた天才棋士。デビュー以来の29連勝に始まり、次々と最年少記録を更新、昨年度はついにタイトルを取ったが、よもやその翌年に五冠にまでなっているとは、将棋界でも予想できた関係者は少なかったことだろう。

 白鳥氏 藤井先生の棋力の伸びに、他の先生が追いつけていないように見えるんですよね。差が開いているような気がしてしまいます。通算の勝率は少し下がっているかもしれませんが、今年度はトップ棋士の豊島将之九段とも、たくさん番勝負をしました。超トップ棋士と当たり続けて、これだけの勝率(2021年度.8125)ですから、正直なところ藤井先生に追いつき追い越す、という人が、今いる棋士の中で出てくるのか…。ちょっと難しいんじゃないかと思ってしまうほどの一年でした。

 今年出場した5つのタイトル戦は、渡辺明名人(棋王、37)と豊島将之九段(31)の2人と戦ったもの。竜王戦、叡王戦、王位戦で戦った豊島九段には、合計11勝3敗。王将戦、棋聖戦においては渡辺名人になんと合計7戦で全勝した。内容こそ好勝負も多くあったが、数字だけ見れば断トツ。競り合いに見えないのも無理はない。

 本人がタイトル戦の最中に課題にあげていたのが序盤の戦い方だ。確かに終盤では他を寄せ付けない強さが際立つが、序盤においては相手にリードを許す場面も多かった。最先端の将棋ソフト(AI)同士の戦いにおいても、序盤は先手が7割から8割は勝つと言われてもいる。ところが藤井竜王は過去のインタビューで「お互いが最善を尽くせば序盤は互角だと信じている」という言葉を残している。

 白鳥氏 豊島先生との戦いにしても、順位戦B級1組最終戦で佐々木勇気七段と対局された時も、序盤はリードをされていました。ただ「最善を尽くせば序盤は互角だと信じている」という発言は、将棋のゲーム性を信じていらっしゃるんだと思います。見えている結果を無視しているわけではないでしょう。ただし考えを貫いて、後手番でも先手を追随して、悪くならないように指していけば、中盤以降に追い抜ける。そういう戦い方を今後も貫かれるのか、今後気になるところですね。さらに序盤を研究して、そのまま突き放して勝つようなことをされるかもしれないですし。また、トップに立たれたことで、他の人たちは藤井戦に「この一番」として全力で向かってくる。それをどういなしていくのかにも注目です。

 今年の7月で20歳。中学生でプロになったころに比べれば背も伸び、長時間対局を終えた直後には、無精髭も見えるようになった。ファンから「藤井くん」と呼ばれ続けていたところから、今や「藤井さん」「藤井先生」という方がしっくり来るようにもなってきた。ただ、思い出してみれば纏った雰囲気や言葉選びは、当時から大人びていた。

 白鳥氏 私もインタビューをさせていただいたことがあるんですが、その当時から大人びていました。若い頃から、人柄としてはすごく成長されていた感じがするので、今もあまり印象が変わらないんですよ。2日制のタイトル戦が終わった後の会見で「ひげが伸びるようになったんだなあ」という驚きはありましたが(笑)。ずっと若いイメージだったもので。

 今年は将棋での活躍とともに、周辺の情報もまた大きな話題になった。対局時に食べる「将棋めし」「おやつ」は、デビュー直後もテレビのワイドショーなどで紹介され、店頭に長蛇の列ができたり、売り切り続出になったりしたが、今年度も同じような現象がスケールアップして起きた。

 白鳥氏 藤井先生が食べたものが、すごく話題になりましたし、地元の方々がすごく喜んでいましたよね。今までも藤井先生の食べ物が注目されることはありましたが、それだけが話題になることに、批判的な捉え方もありました。ですが、それを続けた結果が町おこしにつながるようになりました。それは本来、タイトル戦で各地を転戦する意義にも合っていると思うので、とてもいいことだと思うんですよね。もう将棋界を超えた人気者、有名人になられたと思います。

 将棋の実力でも知名度でも、すっかり一番になった藤井竜王。来年度もまた“ラノベ超え”の快進撃が想像される。快挙達成の際には「りゅうおうのおしごと!」を期間限定で無料読み放題にもしたが、小説家としては次なる一手が悩ましい。

 白鳥氏 もうラノベの世界を超えてしまっているんでね。こちらでも差が開いています(笑)。どうしましょうかね。八冠取ったら8巻まで無料読み放題、というのもなんだかしょぼい気がするので、倍の16巻にしましょうか。ちょうど4月に最新の16巻が出るもんで。

 将棋界が盛り上がり、作品の知名度も上がるが、現実と作品とのギャップがまた開く。白鳥氏のうれしくも大変な日々は、藤井竜王が勝ち続ける限り、今後も続いていく。
ABEMA/将棋チャンネルより)

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