「職員の心のケアの制度もない。実態について知ってほしい」死刑執行に立ち会った経験のある元刑務官
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 20日、オウム真理教の幹部らが地下鉄車内にサリンを散布、14人が死亡した地下鉄サリン事件から27年を迎えた。霞ケ関駅の助役だった夫を亡くした高橋シズヱさんは献花台で犠牲者に祈りを捧げた後、「私たちも13人の死刑執行を見てきた先に、こういうやり方でいいのかという疑問もあったので、そういうところも考えていただきたい」と、死刑制度についても言及した。

【映像】3人同時にボタンを...死刑執行の苦悩と現実

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 2010年にメディアに初めて公開された東京拘置所の刑場(執行室)。死刑囚は赤のラインで囲まれた踏み板の上に立たされると、両足を縛られ、目隠しと手錠をされ、首に縄をかけられる。そして隣の部屋には控える刑務官が執行の合図と同時にボタンを押すと踏み板が抜ける仕組みになっている。ボタンは3つあり、誰のボタンで踏み板が開いたか分からないよう、3人の刑務官が同時に押すことになっているという。

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 27年間に及んだ刑務官生活で死刑執行の現場に立ち会ったこともあるという坂本敏夫さんは「“これは仕事だから”と割り切る。もちろん家族にも言えない。辛い所はあると思う」と話す。

 「執行の1週間くらい前になると、法務省から拘置所長に連絡が入る。数人の幹部が集められ、動き出す。幹部7、8人、それから施設の警備にあたっている警備隊というポストにいる刑務官7、8人くらいが立ち会い、さらにボタンを押す3人を決めることになる。これは“順番でやる”ということになっているが、精神的な負担もあるので、所長によっても考え方は異なるだろうが、だいたい前日に勤務が終わった後、“ちょっと待機しとけ”と居残りをさせて告知をし、命令簿に印鑑を押させる。国家公務員法で“上官の指示には従え”ということになっていて、拒否すれば懲戒処分を受けてしまう。(※拘置所によっては当日通達)

 私自身、立ち会ったのは幹部になってからで、ボタンを押す係はしたことがないが、想像しただけでも嫌だろう。死刑場がある拘置所は全国に7カ所あって、今では“ここではこういうことがある”と説明するが、昔は“ここに来たらそういう仕事をするかもしれない”という説明をしていなかった。だから“勘弁してくれ”ということで辞めたり、勉強して幹部になって転勤しようとしたり、ということも随分あった」。

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 辛いのは、ボタンを押す係だけではないという。

 「ボタン押し係はあまり死刑囚と接触はないが、警備隊の職員は運動や入浴で毎日顔を合わせているし、健診のときには肌の温もりも感じる。“おやじさん”と呼ばれる職員もいるし、彼らが一番辛いと思う。連れてきてしまえば後は所長に渡すだけだが、連行するのも辛いと思う。また、執行後5分間はそのままにしておいて、医師が聴診器を当てて、心臓が止まっていることを所長に報告する。それからストレッチャーに移して棺桶に入れ、遺体安置室に運ぶ。同僚とは“裁判官がやればいいとか。警察がやればいい”という話をしたこともあった。オウム死刑囚の執行があった時にフランスの記者に聞かれたことだが、職員の心のケアの制度もない」。

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 内閣府の世論調査では、実に8割以上の国民が「死刑もやむを得ない」と回答している。坂本氏は、死刑制度そのものについてどう捉えているのだろうか。

 「拘置所の職員は裁判所まで被告を連れて行くので、傍聴席の人たちの悔しさを背中で受けることになる。また、被害者感情のためにも死刑は必要だという意見もある。しかし殺人罪に関する刑法199条は“死刑または無期もしくは5年以上の懲役”という選択刑になっているため、実際に殺人事件を起こした被告が死刑判決を受けるケースは1~2%程度だ。だからこそ“1人殺しただけでは死刑にならない”と考えて罪を犯す者、逆に“死刑になるためには何人も殺さなければいけない”と考えて罪を犯す者も出てくる。中には話が上手かったり、お金があるので良い弁護士を付けられたりして、無期懲役になる者もいる。

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 一方で、いざ拘置所で死刑囚を相手にしてみると、弱かったりして、捜査官の言いなりになってサインをして押しまったという者もいる。刑務官は、そういうケースを見ている。そして裁判中は死刑になりたくないからといって良い顔をしたり、被害者に反省している手紙を出したりする被告が、死刑判決が決まって一時ものすごく荒れる場合もある。刑務官としては、荒れたまま、恨みつらみを抱いたまま死刑にしてしまうのは被害者に申し訳ない、なんとか改心させ、謝罪の言葉でも残せるようにして送らなければという、ある意味で教育者のようなプライドもある。そして日本は死刑の執行方法が150年間変わっていない。アメリカでは電気椅子があったが、今は薬物注射だ。銃殺だったタイも、今では薬物注射になっている。こうした死刑制度やその実態について知ってほしいと思っている」。(『ABEMA Prime』より)

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