感性で振り飛車、ソフトで居飛車 山根ことみ女流二段の“二刀流”と初タイトルへの距離感「目標が挑戦から取ることに変わった」
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 自身2度目のタイトル挑戦には、まだ少し届かなかったが手応えはあった。3月11日に行われたマイナビ女子オープンの挑戦者決定戦。山根ことみ女流二段(24)は女流棋界のトップに立つ里見香奈女流四冠(30)に敗れた。昨年4月には女流王位戦の五番勝負でも戦った相手。これが初のタイトル戦だった。「今期はタイトルに挑戦して、それによって女流ABEMAトーナメントにも出られて、男性棋戦にも初めて出場させていただけました。少しずつ世界が広がったような感じがして、すごく楽しい一年でした」。年度成績は25勝15敗、勝率.650。上位者との対戦も増えた中で、伸び盛りの山根女流二段にとっては収穫ばかりが目立つシーズンで、本人に取っても「あっという間」で、新たな目標が設定されることにもなった。

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 現在の女流棋界は里見女流四冠、西山朋佳白玲・女王(26)が「二強」と呼ばれていたところに、加藤子清麗(27)、伊藤沙恵女流名人(28)がタイトルホルダーに加わった。以前からその実力を認められていた4人がタイトルを分け合う中、次のタイトル候補として、山根女流二段の名前は確実に出てくるような存在にまで成長を遂げた。

 山根女流二段 里見さんと番勝負を戦わせていただいたことも、自分にとって大きな財産でした。経験させてもらったことは、本当に自分にとっては大きなもので、今後必ず自分に活きてくると思います。実力が足りないことはわかっていたんですけれど、番勝負の空気感に触れて「こういう世界で戦っているんだな」と視界が開けた気がします。まず「タイトル挑戦」というのが目標でもあったので、次は「タイトルを取る」という目標だけが残りました。

 穏やかに、にこやかに語っているものの、その内容は実に力強い。冷静に自分の実力がタイトル保持者4人と、どれくらいの開きがあるかもちゃんと見つめている。

 山根女流二段 加藤さんは何度もタイトルを取られているし、伊藤さんも9回も挑戦していることからして、どうして今まで取れなかったんだろうというぐらい強い。相当な実力を持っているお二人ですから、タイトルを取るのは当然の結果で、自分はまだたどり着けていないと思っています。でも、挑戦したことによって、自分とタイトルの距離はなんとなく掴めました。あと何歩、歩けばいいのかまではわかりませんが、努力すればたどり着けるところだと信じています。

 もともとは根っからの振り飛車党。それどころか、ひたすら四間飛車という刀1本を振り続けてきた。むしろ、1つの戦型で戦い抜いてきたことにも恐れ入るところだが、徐々に周囲に対策されるようになり、思うように勝てなくなってきた。

 山根女流二段 私の場合、そもそも将棋の知識というものが、ほぼゼロに近かったんです(苦笑)。棋界全体を見渡しても、結構知識が乏しくて。地元の愛媛にいたころには、基本的に詰将棋しかやっていなくて、棋譜並べが苦手だったんですよね。棋譜があんまり理解できなかったんです。難しくて。たぶん理数系なんですよ。数学的なパズルとかが好きで、だから詰将棋にはまったんだと思います。棋譜並べは文字がずっと並んでいるのがちょっと難しいから、本もなかなか最後まで読めないんです。だから詰将棋と実戦だけに逃げていたんですけど、女流棋士になったら壁にぶつかるところはしょうがないですね。そのせいもあって、四間飛車しか使えない状態でした。私は終盤が得意な部分なんですけど、相手の方に四間飛車を狙い撃ちされるようになってしまって、序盤から技にかかって終盤にもならないような負け方が続いてしまいました。それは四間飛車という戦法が悪いわけじゃないんですが、1つの戦法だけを使っているのでは、成長をしていく上でダメだなと思うようになりました。

感性で振り飛車、ソフトで居飛車 山根ことみ女流二段の“二刀流”と初タイトルへの距離感「目標が挑戦から取ることに変わった」
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 真っ先に思いつくのは同じ振り飛車の別戦法、たとえば中飛車、三間飛車、向かい飛車などを研究するということだが、山根女流二段はまるで違うことを考えていた。居飛車の採用だ。

 山根女流二段 もともと棋士の先生から「攻め将棋だから居飛車も指してみたら?」とアドバイスを頂いたことが何度かあって。いろいろと策を練っているうちに、ノーマル四間飛車と同じく角道を止めて戦う雁木に興味を持ち始めました。居飛車は本当に何も知らない状態でしたが、そこで将棋ソフトを取り入れてみました。全部ソフトに教えてもらう感じです。試しに練習で雁木を指してみたら、持っている感覚ですぐ指せるようになりました。たぶん相振り飛車の感覚と似てるんです。居飛車党の方にはまだ理解されたことがないんですけど(笑)。振り飛車でソフトを使うと、昔ながらのものと全然違ってしまって、意味がわからなくなってしまうことも多いです。もともと大山康晴十五世名人の「大山将棋」が好きなので、振り飛車独自の感性で戦いたいんですよね。

 慣れ親しんだ振り飛車は今までどおり感性で、新たに取り入れた居飛車は先入観なく将棋ソフトの示すもので指す。まさに刀が1本増え「二刀流」になった。この2本が研ぎ澄まされ切れ味が増せば、初タイトルへの距離は来期、さらに短くなるはずだ。
ABEMA/将棋チャンネルより)

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【動画】多くの棋士が参加する「ABEMAトーナメント」
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【動画】山根ことみ女流二段が出場した女流ABEMAトーナメント
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