落ち込んだりもしたけれど 室谷由紀女流三段「今は元気です」激動の一年を振り返る「泣きながら対局もしました」
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 緊急入院、祖母の死、そして結婚。2021年度の室谷由紀女流三段(29)には「激動」という言葉が一番ぴったりくる。「いいことも悪いこともありました。いろいろ、将棋以外のところで安定しない部分はあったかなと思います。将棋に関しても、今までにないくらい、よくない年でしたね」。春の訪れとともに、ようやく落ち着きを取り戻し「今はもう元気です。当たり前に将棋が指せていることが、すごくありがたいことなんだなと感じますね」と、笑顔で振り返れるようにもなった。様々なライフイベントに直面しつつ、どんな思いで盤に向かっていたのか。

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 タイトル挑戦も5回を数える実力者が、自分でも年に1回あるかないかと思うミスを頻発する。しかも1局に数回も。室谷女流三段にとって苦悩の一年は、スランプからのスタートだった。

 室谷女流三段 今までにないくらい、よくない年でしたね。どの対局も自分なりに向き合った結果なので、受け入れてはいますけど。原因がわからないんですよね。特に何かを変えた、変わったわけでもないんですが、明らかにうっかりが増えました。今までにないようなミスが増えているのは深刻な問題で、原因がわかっていないのが難しいですね。こんなミスなら年に1回、2回あるかみたいなものが多発しています。1局の中でも何回かあったり、指さないまでも読み抜けをしたり。どう気をつけていいか、わからないところです(苦笑)。

 通算勝率が6割近い室谷女流三段からすれば、今年度の12勝12敗という成績は、不本意なもの。また数字以上に、内容に自ら首をひねる。明確な課題となれば、誰かにアドバイスを求めることもできるかもしれないが、それがはっきりしないのでは、相談のしようもなかった。

 室谷女流三段 割と精神面が将棋に出るタイプではあります。それは自分でも思っていますし、周りからもそう言われます。ちょっといろいろ、将棋以外のところで安定しなかった部分はあったかなと思います。

 将棋の調子が落ち着かないところで、次々とライフイベントがやってくる。始まりは11月初旬、「命に関わる」というほどの病気での緊急入院だ。

 室谷女流三段 入院自体が突然でしたし、初めての入院でした。今ではもうすっかり元気なんですけどね。当たり前に将棋が指せていることが、すごくありがたいことなんだなと感じましたね。

 無事に手術を終え、約1週間して退院。入院から2週間後には対局に復帰することもできたが、さらに悲しい事があった。大好きな祖母が12月に亡くなった。メンタルが将棋を左右するという本人にとって、このダブルパンチは重く、つらかった。

 室谷女流三段 祖母が亡くなられて、精神的にガクッと来ちゃったんですよね。亡くなった日は大阪にいて、見送った後、翌日がお通夜だったんですが、その日は東京で対局だったんです。休まずに行ったんですけど、こんなに考えられない対局は初めてというくらいで、泣きながら指していました。すごくショックでしたね。そこからなかなか立ち直れなくて、入院とのダブルパンチでした。

 父方、母方、計4人の祖父母の中でも、一番関係が近い祖母だった。実家から祖母の家も目と鼻の先。子どものころは、毎日のように顔を出した。

 室谷女流三段 一番かわいがってもらったおばあちゃんでした。部屋にも私が取材された記事をいっぱい貼ってくれていて。ちゃきちゃきしていて、すごく明るいおばあちゃん。私もその血をむちゃくちゃ引いていると思いますよ(笑)。

 親族の不幸、病気やけがは、ストレスレベルでもトップランクに入るもの。この2つが立て続けに起きては、ファンから「姉御」とも呼ばれ、頼りがいがありそうに見える室谷女流三段とて、心が折れる。将棋どころではなかっただろう。そんな時、心の支えになったのが、1月に結婚を発表した夫だった。

 室谷女流三段 メンタルが崩れないようにキープするのも難しかったので、本当に1人だったら立ち直れていないかもしれないですね。夫が支えてくれたこともあったので、1月に決めていた入籍もずらさなかったです。おかげさまで、いろいろなことはありましたが、今はだいぶ元気になってきました。

落ち込んだりもしたけれど 室谷由紀女流三段「今は元気です」激動の一年を振り返る「泣きながら対局もしました」
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 身近な人の力を借りながら、ようやく将棋に対してもしっかりと向き合えるようになってきた。対局の間隔が空いたことは、精神面を考えればよかったかもしれない。3月23日には2カ月ぶりに、女流順位戦の対局もあった。

 室谷女流三段 少し間が空きましたね。ただ、また月1回ペースで始まりますから。ここまで3連勝と、比較的いいペースでスタートは切れたんですが、順位戦は1つ負けると上がれないというのが、男性の順位戦を見ていて思うことなので、3連勝で気分はいいですけど、あまり先を見ずに一局一局ですね。

 クラスはC級。第1期の順位決定リーグ、トーナメントで結果が出ず、タイトル挑戦権を争う最上位のA級から2つ下からスタートすることになった。

 室谷女流三段 正直A級に入りたかったなという気持ちは強いですが、レベルの高い若い女流棋士もたくさん入ってきました。C級にいても簡単じゃないですし、どのクラスもレベルが高いと思います。内容も、女流では結構な確率で振り飛車が多かったんですが、対抗形も増えましたね。居飛車を指す若い方もどんどん出てきています。対局したことのない方と指すのは楽しみですね。

 自身がプロになったのは高校2年生のころ。妹弟子である佐々木海法女流1級(16)も同じ高校2年生でプロになったのを目の当たりにし、当時の自分を思い起こしたこともあった。

 室谷女流三段 私もこんな感じだったのかなあとか、佐々木さんを見て初々しく思うと、年月が経った感じがしますね(笑)。自分も本当に右も左もわからない状態でした。あれ聞いていいのかな、これはいいのかなとか。だから佐々木さんには「何かわからないことがあったら、いつでも連絡してください」と伝えました。世代も違うので、どう接していいか、まだわかっていないんですけどね。自分が二枚落ちで教えていたような子たちが、今はどんどん女流棋士になっています。自分の位置をキープしようとすると落ちていってしまうので、上を目指さなくてはいけないと、ひしひしと感じています。

 どの世界でも、追う立場より追われる立場の方が苦しい。世代で言えば、上の世代に立ち向かうよりも、下の世代からの突き上げを食らう方がきつい。

 室谷女流三段 格上の方とか先輩と戦う時は失うものがない気持ちで戦えるんですけど、後輩と戦う時はまだ負けられないとか焦りが出ちゃうので、今後そういう対局が増えてくると、楽しみな反面、怖さもありますね。

 プライベートが落ち着き始めても、戦いの世界はいつまでも待ってくれない。それがプロの世界に身を置くということの厳しさでもある。女流棋士である前に、一人の人間として大きな出来事が続いたこの一年。もうすぐ始まる新年度を節目に、心機一転して頑張ろうという気持ちにもなれた。愛する人に支えられながら、苦悩と悲しみを乗り越えて力強く指す姿は、多くの将棋ファンだけでなく、きっと天にも届く。
ABEMA/将棋チャンネルより)

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【動画】室谷由紀女流三段が出場した女流ABEMAトーナメント
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