“ウクライナ派?ロシア派?”日本にも忍び寄る戦時下の思考…辻田真佐憲氏「SNSで盛り上がる人たちが1年後にどうなっているかを考えて」
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 全世界を巻き込んだ、かつてない“情報戦”となっているウクライナ情勢。

 そんな中、「Yahoo!ニュース ニュース個人」に『プーチンは侵略者だとしても、日本人はウクライナのプロパガンダを丸呑みにしてもいいのか?』『日本人は「SNS戦争」に乗る必要はない。ゼレンスキー演説を前に心がけたいこと』という記事を相次ぎ投稿、警鐘を鳴らしているのが近現代史研究者の辻田真佐憲氏だ。

■敵か味方か、といった“二者択一的思考”は取り除くべき

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 戦前のプロパガンダにも詳しい辻田氏は「戦争中のプロパガンダには“敵か味方か”の2つしかなく、中間が存在しない。今まさに敵が来ている時に中間的なことを言っていると、“利敵行為だ”と言われてしまう。太平洋戦争中の日本でも“鬼畜米英”という言葉があったが、今のロシアは悪魔、あるいはロシアから見ればウクライナは悪魔、みたいな扱いになっている。それは交戦国の中ではやむを得ないのかもしれない。しかし、日本人がそこに乗る必要はないのではないか、ということだ」と話す。

 「また、今回の戦争は明らかにロシアによる侵略戦争であり、ウクライナはその被害者だ。だからロシアの発信については皆が警戒をし、何を言っても嘘ではないかと思っている。しかしウクライナに関しては、“被害者なのだから、おそらく正しい”と思っている。ウクライナの発信そのものも応援しなければいけない、あるいはウクライナに対して攻撃的なことを言う人は攻撃しなければいけない、そういう空気が出てきている。

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 ただ、やはり戦争中の発信ということもあり、ロシアにしてもウクライナにしても、自分たちにとって都合がいい、あるいは自分たちに同情してもらうということを考えているはずだ。もしかしたら誇張された情報かもしれないし、嘘も混じっているかもしれない。非交戦国の第三国である日本は、場合によっては和平交渉の仲介役を担う可能性もある。その日本がロシアは殲滅すべき悪魔だと言っていては、交渉ができなくなってしまう。

 やはり両国の情報戦からは距離を取って見ていかなければいけないと思うし、白か黒か、敵か味方か、といった戦時下的な“二者択一的な思考”は取り除いていきたい」。

■“プーチンが正しかったのか”、という陰謀論に陥る危険性も

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 辻田氏によると、SNSを中心に、そのような“二者択一的な思考”が広まる兆候が出てきているという。

 「例えば在日ウクライナ大使が“東京タワーをウクライナカラーにして欲しいと東京タワーの運営会社にお願いしたところ、断られた”とツイートした。依頼すること自体は問題はないと思うが、そこで断られたことを晒してしまえば、やはり“犬笛”になってしまう。実際、“東京タワーはロシアの味方なのか”という攻撃がリプライされていた。

 あるいはウクライナ大使館はロシアの大学と提携している大学や、ロシアの自治体と姉妹都市になっている自治体に対して、関係を断ってほしいというツイートもしている。しかしロシアとのやり取りがあるからこそ、いまロシアが何を考えているのか、内部で何が起きているかといった情報も得られるわけで、むしろ停戦が遠のいてしまう可能性がある。

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 しかしネット上では、ロシア料理店の口コミに批判的なことを書き込むなどの嫌がらせも既に起きている。これは大変怖い問題だ。岸田総理が何か変なことを言ったとしきに、海外にいる日本人が攻撃されたらどうだろうか。岸田政権支持の人もいれば反対の人もいるということが大切なのに、戦争中はそうした多様性、“人それぞれ“みたいな考え方が潰されてしまいがちだ。やはり日本人は“ウクライナの言うことを聞かずんば味方にあらず”という二者択一的な思考から距離を取るべきだ。

 そして、こうした二者択一的な思考が危ないのは、例えばウクライナの発信に間違いが見つかると、“信じていたのに裏切られた、本当はプーチンが正しかったのか”、という陰謀論的な考え方に陥る危険性もある」。

■いま盛り上がっている人たちが、1年後にどうなっているだろうか

“ウクライナ派?ロシア派?”日本にも忍び寄る戦時下の思考…辻田真佐憲氏「SNSで盛り上がる人たちが1年後にどうなっているかを考えて」
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 そうしたSNS上の“空気”に、どう抗えばいいのだろうか。辻田氏は「時系列で考えてみること」ではないかと指摘する。

 「“空気“の問題は日本人特有の問題だと言われてきたし、“一神教の国は流されにくいが、多神教の日本は流されやすい”というのが名著『「空気」の研究』を書いた評論家・山本七平の考え方だった。ところがコロナ騒動やウクライナ侵攻を巡る様子を見ていると、SNSによって世界中が“空気”に弱くなってしまったのではないかと感じる。つまり、どうすればタイムラインで叩かれないか、あるいはどうすればウケるかと考え、そこに合うように意見を調整していく。

 だからこそ、SNS上の空気はある意味ですごく軽薄だ。例えば先週、東京で停電騒ぎがあったが、SNSではそれまでウクライナの話をしていたのが、一瞬で停電の話で持ち切りになる。本当にウクライナを支援しているのなら、停電で寒いくらいなんだ、向こうは人が死んでいるんだ、という空気になってもいいはずだ。ところがそういうことにはならず、停電の話題が終われば、またウクライナの話題に戻ってくる。まるでネットの“祭”のようになっている。

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 そもそもロシアはシリア内戦のときにも酷いことをしていたが、ほとんど話題にならなかった。おそらく被害に遭っているのが白人だとか、“SNS映えする”からといったこともあるだろうし、ウクライナは上手くSNSを利用している部分もあると思う。しかし、本当に人道が大切なら、どこの国であっても介入しなければならないはずだ。

 このように歴史を考えてみると面白い。日本人は戦争に負けた瞬間、それまで軍国主義だったのが、急に民主主義だと言い始めた。コロナに関しても、初期の頃に影響力が大きかった医療従事者の主張が次第に相対化され、今では“ちょっとあの人たち言いすぎだったんじゃないの”という空気になってはいないだろうか。その意味では、今すごく盛り上がっている人たちが、1年後にどうなっているだろうと考えてみる。そうすると、ちょっと距離が取れるのではないか」。(『ABEMA Prime』より)
 

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