「メディアセンターがあることに驚いた。利用されうると感じた」「帰国後は“幸せになれない”感情に」…ウクライナ入りした24歳の日本人ジャーナリストの告白
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 「大きなミサイルが、幼稚園にまで爆撃を加えている」。ロシア軍に包囲されていたウクライナの首都キーウに滞在、約2週間にわたって市民の様子を取材していたジャーナリスト・映像作家の小西遊馬さん(24)。3月10日に日本を出発、16日にポーランドから陸路でウクライナ入りし28日まで滞在、現在は帰国をしている。

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 3月25日に『ABEMA Prime』に出演した際には「フリーランスが自腹で行って、後に回収できるのか、できないのか、みたいことをやらなきゃいけない」と話していた小西さんだが、日本の土を踏んだ今、何を考えているのか。再び話を聞いた。

■「ウクライナのメディア対応はものすごく良くできている」「利用されうるなと感じた」

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 現地で小西さんが驚いたのが、ウクライナ当局が用意した「メディアセンター」の存在だった。

 「ウクライナのメディア対応はものすごく良くできていると感じたが、リビウやキーウには“メディアセンター”が開設されていて、“こういう取材をしたい”と言うと手配してくれたり、通訳やドライバーをかなり安い金額で手配してくれたりした。テレビ局が中継するための場所、コーヒーを飲みながら休憩する場所もあった。自分たちのプレスカードはもちろんだが、政府が発行するプレスカードあれば軍関係の取材もできる。

 それは逆に言えば、それはウクライナとして見せたいところは見せる、見せたくないものは見せない、ということにもなるし、自分たちも利用されうるなと感じた。その点はちゃんと発信したいと思ったし、プレスカードが無くてもできる、街の人たちへのインタビューなどを中心に取材することにした。

 僕は今回の取材に限らず、相手の話をちゃんと聞きたいという思いがあるので、“この戦争についてどう思いますか?”というような質問ではなくて、どこで生まれて、どういう幼少期を過ごして、というところから始めるようにしている。インタビューの時間は長くなってしまうが、そこを踏まえてどう思うか、ということを丁寧に聞こうと意識していた」。

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 キーウでは香港人ジャーナリストと行動を共にした。3時間前まで居た場所が爆撃に遭い、ロシアのジャーナリストが死亡したこともあった。

 「日本のメディアが入っていないということもあったが、最も大きかったのは、香港のジャーナリストが入っていると知ったことだ。僕は香港の民主化運動の取材をしていて、自由のための戦い勝つことができず、しかも忘れ去られていく過程を彼らと一緒に見てきた。その彼らが今のウクライナをどう見ているのか、その視点は今後の世界を考えていく上で非常に重要ではないかと考えた。

 次第にキーウ市内で聞こえる爆発音が大きくなっていったので、“近づいてきているんだな”という感覚があった。それでも市民の士気は全く低下することは無かったが、やはり相手が相手なので、いきなり空爆される可能もなくはないという不安はあった。すれすれの部分を狙わないと撮れないものもある。現地にお味噌汁を持って行くとか、足ツボマッサージをするとか、そういう心の整え方しかできなかったが、自分のメンタルすれすれを狙いながら取材を続けた」。

■「“幸せになれない”みたいな感情が拭えない」「視聴者も変わっていかなければ」

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 再びポーランドへ出国する際には鉄道を利用。日本へ戻って1週間あまりが経ち、その間、24歳の誕生日も迎えたが、「どうしても幸せになれない感情がある」と明かす。

 「行きは車で、いつでも帰れるよう、緊急の車も手配はしていたが、人々が非難するときに使っている電車の様子も取材したいと思った。危険な思いはしなかったが、比較的安全だと言われていたリビウで1泊してから出国しようと考えていたところ、リビウが爆撃を受け始めるということがあった。どこにいても安全ではないんだと、改めて感じた。

 ウクライナに入ることは親にも言っていなかったし、遺書を書いて出るのは良くないと思って、部屋を掃除して行った。帰ってきてからは、“命がけで産んだということを忘れないでほしい”と散々叱られた。

 日本に戻ってきて思うのは、この平和な状況に自分の心身をアジャストするのが非常に厳しいということ。もちろん、安心感はある。でもやっぱり、こうして過ごしている時間と、脳裏にあるウクライナの人々の情景がオーバーラップしてしまい、“幸せになれない”みたいな感情が拭えない」。

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 また、改めて感じているのは、日本のメディア環境の問題だ。

 「キーウ、ブチャ、イルピン、あるいはマリウポリといった地域がごっちゃになりがちなところはあると思う。実際、僕が取材をしていたキーウ市内についてもブチャと同じような状況だと思っている人が大半だと思う。やはり自分自身が見ていないということもあるし、情報も錯綜している。さらに広告代理店などが入った情報戦も行われているし、政治力を持つ大手メディアしか入れていない地域もあるので、情報が操作されている部分もあるのではないか。

 その意味では、資金力のある大手メディアの方々にはセキュリティしっかりした上で、少し奥に入ったり、長期滞在をしたりしてほしいと思う。これは大手メディアの方々を批判したいのではなく、メディアは“中間“の存在である以上、視聴者の反応に反応したり、依存したりせざるを得ない。つまり大手メディアが入れていない理由には、視聴者が自己責任だなんだと問うてしまう問題もあると思う。視聴者の側からも、少しずつ変わっていかなければならないのではないか」。

■「日本は戦争というものをきちんと議論できるのだろうか」

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 スタジオのゲストからは、様々な質問が飛び出した。ジャーナリストの堀潤氏は「僕もリモートで現地に留まるボランティアの方々の発信のサポートをしているが、やはり届きづらくて申し訳ないなと思っていた。現地に大手メディアのカメラが入っていない、あるいは入っていてもごくわずか。しかも双方のプロパガンダに加担してしまう可能性もある中、フリーランスとして現場の市民の声を伝えようとした小西さんには感謝しかない」とした上で、次のように語った。

 「実際には大手とフリーランスがタッグを組むことにもなるわけで、そこは大手がトレーニングや資金の問題でサポートしていけると思う。例えば読売テレビが中東を取材するフリーランスのために戦争保険の手当をしたことがあるが、映像使用の契約面も含めて、日本は諸外国に比べてまだまだだ。フリーランスにとっては自分が取材したものが発信力のある大手メディアで拡散することは非常に助かるわけだし、より良い協業が進めばいい。

 一方で、そうした貴重な取材の結果を大手メディアが扱う場合、モザイクをかけなければならない。YouTubeやSNSなども、閲覧制限や場合によってはアカウント停止の措置が取られる場合もある。日本は平和主義の国だというけれども、それは戦後、世界で起きている現実にしっかり目を向けなかったことで享受されてきた平和ではないか、という意見もある。やはりジャーナリストとしては、みなさんに知ってほしいなと思ったことが、なかったことにされてしまうこともあるのではないか」。

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 小西さんは「トータルで赤字にはならなかったが、リスクのあるところに行って得られる金額としては、決して十分ではなかった。それでも、例えば今日は300円のランチで我慢すればいい、という範囲であれば、自分が撮りたいと思ったものを撮りたいと思っている(笑)。そして金銭面よりも難しく怖いなと思うのは、戦時下の中でも幸せな日常があるということを流すことで、情報リテラシーが高くない視聴者に“意外と大丈夫じゃん”と思われてしまうこと。

 そしてモザイクについては、ポイントは二つあると思っている。一つは、亡くなった方々の親族のケアをどうするのか、そこを議論しなければいけないということ。もう一つは、視聴者のストレスが理由なのであれば、BBCなどのように、“これから映像が流れる“ということを伝えればいい。特に日本のメディアはグロテスクなもの、汚いものをゾーニングして、どんどん枠の中から外していったが、それで今後、戦争というものをきちんと議論できるのだろうか」と答えた。

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 堀氏が「小西さんの取材というのは、逆にいえば凄惨な現場を見ずとも“ここには人がいる”“なんとかしなきゃ”と思うようなものだ。実際、取材を受けた現地の方は“遊馬のためならなんでもする”“エゴイスティックな取材をするジャーナリストたちもいる。でも遊馬は違う”というメッセージをいただいた。そのことは、広く共有されるべき話だ」と話すと、目をうるませた小西さん。3月28日に共演したひろゆき氏の後押しもあり、Twitterのフォロワーが増えたと笑顔も見せ、今後の抱負も明かした。

 「もちろんウクライナにもまた行きたいが、ポーランドにも行きたい。避難民をミニバンでポーランドまで連れていくボランティアや、“おいしいご飯を用意しているから、もう大丈夫だよ”という無料の宿泊施設もあった。Googleトランスレートを使ってウクライナ語で“もう大丈夫だよ”と流し、支え合っていた。そういう、戦争の中で見える希望のようなものを撮りたい。グロテスクなものだけじゃなく、人間の美しいところを映すことで、まだ知られていない団体に応援が集まったらいいなと思っている」。(『ABEMA Prime』より)

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