日本のマスメディアの多くがウクライナから撤退を余儀なくされる中、ブチャ、イルピン、ボロディアンカなど、ロシア軍による激しい攻撃に晒され、住民に対する拷問や虐殺が行われたとされる地域に入り取材と発信を続ける元朝日新聞記者でジャーナリストの村山祐介氏。
11日の『ABEMA Prime』では、首都キーウ中心部のホテルに滞在中の村山氏と中継を結び、直接見聞きした戦争の現実について話を聞いた。(編集部注:遺体に関する直接的な描写も含まれます)
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■どこまでご説明するかというのは悩ましい
「焼け焦げた車の中を覗くと、黒焦げになった遺体と思われる物体がある。一部、肉が残っている」「2体の遺体が路上に転がっていて、2人の男性だと思われる。はっきり分からないが、軍服のような緑色の切れ端が残っているので軍人だった可能性がある」(村山氏のYouTubeチャンネルより)。
これまで数々の紛争地域を取材してきた村山氏でさえも「こんなに遺体を次々に目にする取材というのは初めてだ」と話すブチャの惨状。「どこまでご説明するかというのは悩ましい」としつつ、次のように語った。
「ブチャはキーウ中心部から25kmぐらいの位置にあるベッドタウンのような街だ。つまり普段であれば通勤ができる距離ということになるが、2月24日に侵攻が始まると、ウクライナ軍はこのエリアを“首都を守る砦”と位置づけた。翌25日にはキーウ方面へ向かう道路にある橋を3つ落としてしまった。そういうこともあってブチャは最前線になり、被害もこれだけ広がったということになる。だから私が最初に入った4月5日でも迂回ルートを使わなければならず、チェックポイントを通りながら、片道2時間〜4時間がかかった。
すでにロシア軍が撤退して数日が経っていたので、AFP通信などが報じたような、路上に倒れていた市民の遺体については片付けられていたが、兵士だったと思われる遺体が路上に並んでいたり、焼け焦げた車の中を除くと、やはり黒焦げの遺体が残っていたりした。ブチャには2日前も入ったが、林の中で遺体を見た。取れた首が1.5mぐらい先に落ちていて、腹が裂けて内蔵が飛び出ていた。そういった遺体を、期せずして色々なところで目にしてしまう状況だった」。
■身体に入れ墨のある男性は連行されてしまう
住民に対する拷問が行われていた可能性も盛んに報じられている。
「9日に葬儀を取材した家具職人だった男性の場合、複数回の銃撃を受けたようで、全身に複数の骨折の跡もあった。発見時の映像によると周囲には腕を拘束され、目を撃ち抜かれている遺体もあった。膝をついた状態で射殺されたのではないかというのが警察の見方だ。
また、ロシア兵が家に来ると“スマホを見せろ”と言われて壊されたり、SIMカードを折られたりするそうだ。占領地域の情報が外に漏れることを恐れているようだが、提出を拒んだことで連行された人もいるという。
さらに男性の場合、身体に入れ墨があるかどうかを確認されるという。ロシア兵によれば、それがロシア系住民を迫害するネオナチに繋がる象徴だからで、入れ墨があれば連行されてしまうという。ただ、皆さん家の中に隠れているので、そうした人々が殺されたところまで見たという方は、私が話を聞いた範囲ではいなかった」。
■“ドンドン”と地雷撤去の際の爆発音が
「遺体とか住宅のドアとか、地下室に入るところとか至る所に地雷が仕掛けられていて、ウクライナ政府によると、これまでに1000個の地雷を撤去したということだ」(村山氏のYouTubeチャンネルより)。
イルピンでは撤退するロシア軍が敷設した地雷の恐怖、そしてボロディアンカでは倒壊した建物の様子をドローンで取材した。
「イルピンでは避難していた方々が自宅に戻る動きが出始めており、ボランティアが瓦礫の撤去作業を行うなどしている。私もそうした方々と一緒に街へ入ったが、建物の前に非常線が張ってあって、“地雷注意”とか、“この先には地雷がある”と書かれている場所も見た。30分〜1時間おきに“ドンドン”と地雷撤去の際の爆発音が聞こえたし、不発弾や手榴弾のピンが見つかると兵士がやって来て確認しなければならないなど、復旧作業の大きな障害になっていると感じた。
そしてボロディアンカでは1カ月ほど前に攻撃を受けて倒壊したマンション跡で捜索が行われていたが、1カ月経って生存しているというのは考えづらく、多数の遺体が埋まっているんじゃないかと言われていた。東部のマリウポリの場合、まだロシア軍に包囲されているわけで、どういう状況にあるのか本当に心配だ」。
■ロシア兵らしき遺体、何とも言えない気持ちに
前出の通り、ウクライナ軍とロシア軍の双方の死に直面することもある。
「今回は市民の被害とその異常性が目立つわけだが、もちろん兵士もたくさん死んでいる。リビウでは軍の葬儀が毎日行われているが、棺が納められる瞬間、遺族が声を上げて泣き出す姿を見ていると、兵士にも家族がいるし、市民社会の一員であるということを実感させられる。市民の死は許せないが、兵士だから死んでもいいという話にはならない。
一方で、先ほども紹介したように、ロシア兵らしき遺体が路上に置きっぱなしになっているのを見た時には何とも言えない気持ちになった。ウクライナ人からすれば攻め込んできて多くの仲間を殺した敵だ。しかし彼らにも家族がいるはずだと考えると、どうしてこんなことが起こってしまうのか、と思ってしまう。“なんでこんなことが起きているの?”と私に対しても問いかけてきた女性がいたが、ウクライナ人はもちろん、ロシア兵も、私も答えを持っていないのだと思う」。
■見続けるのが辛いと感じるニュースではあると思うが…
戦争の現実を伝える上で困難を感じることはないのだろうか。
「もちろんロシア兵に見つかれば危険だろうが、私が入ったのはロシア軍が撤退して、キーウが戦場ではなくなったタイミングなので、リスクはかなり下がった状態で取材をしている。
また、私の報道そのものがウクライナ側から制約を受けているということは一切ないし、取材内容そのものを事前にチェックされるといったことも一切ない。ただし被害状況を報じられることによってロシア軍の攻撃の精度が分かってしまうからと、写真を撮られることにすごく神経を尖らせている部分はあって、撮影時に制止されることはよくあるし、ウクライナ軍の方に“これは軍事関連施設だから”とか、“被害状況を知られたくないから”といった理由で写真を削除させられたりすることはよくある。そこをいかにうまく撮るかというのは、私たちのせめぎ合いのところでもある。
それでも現場に行かなければ見えない景色、聞こえない声はたくさんある。例えばボロジェンカという街では地元の女性2人に声をかけられた。その時は通訳がいなかったので会話も成り立たなかったが、“とにかくカメラを構えて話を聞いてくれ”と懇願された。あとで分かったことだが、彼女たちは占領下で溜まっていた思いを世界に伝えてほしいと訴えていた。
やはり現場に何日も身を置くことで物事が立体的に見えてくる部分があるし、結論としては“やっぱり戦争は起こしてはいけない”ということになるわけだが、そのためにも、戦争が起きると何が起こるのか、ということを伝えたい。皆さんとしては、見続けるのが辛いと感じるニュースではあると思う。恥ずかしながら私自身、本当にウクライナで戦争が起きるとは思っていなかったし、戦争が起きたらどうなるかという想像力がそこまであるわけでもなかった。だからこそ、こうした状況を胸に刻んでおくことがこれから大切になってくるのではないかと思っている」。(『ABEMA Prime』より)
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