画面に映し出された大勢のキャラクター……実は、彼らは凸版印刷の新入社員だ。これは「メタバース」を使った新入社員研修の様子。メタバースとはインターネット上の仮想空間のことで、自分の分身となるキャラクター「アバター」を使って、この空間を自由に動き回ることができる。
「徐々に社会の兆しが明るくなってきたが、今年もこの(コロナの)状況が続いているので、フルオンラインという形になっている」(凸版印刷人財開発センター・穗坂外記係長)
凸版印刷は、おととしから新入社員研修をすべてオンラインで実施している。これまではウェブ会議システムなどを使っていたが、今年から「メタバース」を使った研修を新たに導入。約450人の新入社員が研修を受けた。
メタバース上の研修部屋に入るため、新入社員には専用アプリがインストールされたスマホが支給され、音声チャットなどを使って会話をする。
アバター同士が一定の距離まで近寄らないと音声が聞こえなくなる仕組みになっていて、現実さながらの距離感を持ちながらコミュニケーションを取ることができる。
この日は班ごとに分かれ、1枚のアート作品を鑑賞。感じたことを話し合うという研修が行われた。
「猫は1本1本の毛がすごく繊細に描かれていたが、背景はダイナミックというかロックのような感じで、1枚の絵の中にも多様性があった」(新入社員)
リアルとはまた一味違った形での研修。新入社員たちも、始めは少し不安だったようだ。
「(メタバースは)今まで全く使ったことがなくて、研修で初めて利用した。先輩社員や同期とのコミュニケーションが取れるかというのは、正直不安だった」
こう話すのは、新入社員の樋口結子さん。最初は不安を抱いていたものの、実際にメタバースを使った後は「面白いなというのが正直な感想。会えない同期たちと(メタバース上で)密になって話すことができたので、すごく楽しかった」と笑顔を見せていた。
人生の新たな一歩を“仮想空間”から踏み出した新入社員たち。これから始まる新生活に胸を膨らませている。
「(ウェブ会議システムだと)相手が喋ったら次は自分に喋る番が来るというように、喋る順番をきれいに回していくことに気を遣っていた。メタバースでは同時に喋れるので、同期との関係が一気に近づいた。素直に言い合えることで、『明日も等身大で頑張ろう』と思える」(新入社員・相崎耕亮さん)
こうしたニュースを受けて、リモートワークの普及を目指す株式会社キャスター取締役CROの石倉秀明氏は「率直に人間のコミュニケーション能力はすごい」と感心しつつ、その理由について次のように述べた。
「テレワークが可能になってから『コミュニケーションが取りにくくなった』という話が多い。ウェブ会議のシステムだと『いつ話しかけていいかわからない』『相手の状況がわからない』ということがあったが、アバターが集まればその場の空気感で理解できたり雑談できたりする。人でなくても、何かが集まるとその空間での空気感や雰囲気を察知してコミュニケーションを取れるので、人間はすごい」
一方で、石倉氏は「テレワークが進む中では逆行している部分もあるのでは」との懸念も示す。
「調査でも出ているが、テレワークに移行した会社の部下のうち、6〜7割くらいは『テレワークで仕事がしやすくなった』と回答している。その理由について、『オフィスで集まったときに比べて、上司とのコミュニケーションの距離感や量がちょうどよくなった』などと答えていて、逆にテレワークによって心地よい距離感を保つことができた。一方で、メタバースは(仮想空間上の)オフィスに集まり、密なコミュニケーションを増やそうとする取り組み。『テレワークで部下とうまくコミュニケーション取れない』と思っている上司や担当者が、自分がコミュニケーションを取りにくいからこうした取り組みを推進しているだけで、部下が本当に良いと思っているかどうかは課題なのではないか」
アバターを使えば、見た目や表情を気にせず会話をすることができる。今後の可能性について、石倉氏は「アバターで仕事をすることは、可能性があってすごく良い。例えば面接の際にアバターで出てきたら、相手が誰なのか、年齢、見た目、性別などもわからないので、「やる気がありそう」「ハキハキしている」「清潔感のある格好」といった見た目のバイアスにごまかされない。言ったことや行っている仕事をちゃんと評価することができるので、全員アバターで面接するくらいがいいのではないか」と持論を展開した。(『ABEMAヒルズ』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側