労働時間を自ら調整して“週休3日”も実現可能? 日立製作所のような勤務制度、成功のカギは“選択権”と“上司の指示・評価”だ
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 一日の「最低勤務時間」を廃止、始業・終業時刻を自由に選択することで柔軟な働き方を促進するー。日立製作所がそんな勤務制度の導入を発表した。全体の労働時間は変わらないが、労働時間を就業日に寄せることで休日を捻出、“週休3日”も可能になるというもので、岸田総理が普及に努めるとした、選択的週休3日制を含む「働き方改革」にも合致する。

【映像】"週休3日"続々...柔軟な働き方の課題は 時間で対価は時代遅れ?

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 13日の『ABEMA Prime』に出演したフィギュアスケート元世界女王の安藤美姫氏は「しっかり休むことで集中ができ、いい成績につながるという方もいると思うが、私の場合は休みがそんなにいらないタイプだったので、コーチが変わって週に1日半のデイオフをマストで取りなさいと言われたときは苦痛だった。休みができて嬉しいと感じたのは最初だけで、そのうち何をしていいのか分からなくなっちゃって、結局は滑りに行ってしまったり(笑)。でも、自分としては練習がしたかったから…」と振り返る。

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 日本大学経済学部の安藤至大教授(労働経済学)は「まさに“選択制”というところがカギだ」と話す。

 「今の企業にとって、人手不足は本当に深刻な問題だ。もちろん仕事がなくて困っている人もいるが、一方で企業は高度な人材を集めるために試行錯誤を続けている。ストレートな言い方をすれば“どういう制度がウケるのか”。アメリカにおいても人手不足が深刻な業種などでは週4日勤務、だけど同じ賃金を払う、という人手不足対策を導入している。

 たとえば今は法定労働時間として1日8時間・週40時間を超える働き方をする場合には、労使で協定を結ばないといけないことになっている。しかし週40時間を固定したまま、例えば月・火・木・金は10時間ずつ働いているという人は結構いる。私の場合も、日曜日に休んだので月曜日は集中して働ける。火曜日は“明日休みだ。よし、仕事をキリよく片づけよう”。水曜日は休みだ。そして木曜日はリフレッシュした状態で仕事ができる。金曜日は“明日休みだ”という具合に、水・土・日を休むと、とても快適に働ける。

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 ただ、“自分はこういうスタイルがいい”という希望がある人、あるいは会社にとってはかけがえのない人材なのでいなくなったら困る、だから交渉力もある、という人の場合には使いやすいだろう。一方、会社からこれをやりなさい、あれをやりなさいと言われてノーと言えない人、今の会社は嫌だけど他に行くという選択肢がない人にとっては大変なことになるかもしれない。また、選択制といっても実際には命令されてやる仕事や一定期間内に仕上げないといけない仕事がある以上、どういう人に向いていて、どういう人には向かないのかという問題もある。

 最近では“ジョブ型”という言葉が流行っているが、仕事がひとつひとつ切り出されていて“あなたの仕事はこれだ。いつまでにこれをやってください”ということが明確になっていて、責任を持ってこなすというような仕事じゃないと上手く行かない。また、日本企業の場合、他の人の仕事が遅れていたら手伝ってあげるが、海外の会社で同じことをしようとすると、“私の仕事が無くなってしまうではないか。私がクビになっちゃう”と怒られる。上司や会社が誰にどの仕事を割り振るのかを明確に決められるか。そして、ちゃんと評価できるか。その仕組みづくりが本当に問われるし、行政の側もそのあたりを見ながら、自由度と規制を議論していくことになると思う」。

■変われない日本企業に問題?

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 選択制を採用している企業の一部では、給与を減額する代わりに副業も禁じないというケースがあるようだが、日立製作所の場合、給与は減らさない一方、副業は原則として禁止だ。

 安藤教授は「日立の場合、労働時間は変えずにフレキシブル度を上げていくという新たな取り組みなわけだが、一般的に日本で副業・兼業を可能にすることに対しては、企業側も労働側も反対する。私も加わっている政府の審議会の場においても、企業の代表者は“うちの会社でしっかり働いてほしい”というスタンスだし、労働組合の側も“本業でしっかり生活できる給料をもらえるのが当たり前だ”と乗り気ではない。しかしヨーロッパに行くと、副業・兼業をやることで新しいスキルが身に付くからとか、新しいビジネスのアイデアが思いつくからということで、むしろ推奨されている」とコメント。

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 その上で、「日本の労働法は工場労働をベースに作られているが、工場労働というのは非常に分かりやすく、ラインに物が流れているときにはタバコ休憩とかには行っていられない。その代わりに持ち帰り残業もできない。つまり非常にオンとオフがはっきりしている。これに対してホワイトカラーは自分でタバコ休憩や持ち帰り残業が自分の判断でできる。

 もっと言えば、家で子どもの世話をしているとき、お風呂で頭を洗っているときにも仕事のことを考えたり、アイデアを思いついたりすることもある。だからこそオンとオフの切り分けがうまくいかないわけだが、それでも時間で管理するというのを上回る別のアイデアがなかなか出てこないし、会社側も仕事を必要なときだけ外注するということをしない。

 やはり特に大企業中心に今も未経験の新卒を採用して育てるということには、一定の合理性ということだ。つまり人を丸抱えして労働時間を確保し、いつでも仕事を依頼できるスタイルが合っているビジネスもまだまだたくさんある。そうではなく、成果で測るということであれば、そもそも雇用する必要はなく、請負などで良いことになる。そこが問題だ」と指摘した。

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 KADOKAWA社長で近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「リモートワークになれば、仕事の合間に家のことをちょこちょこやったりしている。今回の報道を見て、うちの会社でも(週休3日制の)検討に入った。やはり就業時間中に100%仕事をやっているのかというのが分からない日本の労働制度はいびつだと思う。日本は労働法制も組合も、みんな時間で考えているが、それが時代遅れになっている。それなのに、その枠の中で選択肢を増やそうと、無理やり一生懸命トライしているという捉え方もできると思う。

  そして、新卒採用がいいと思っているかというと、ちっともそういうことではない。労働市場の流動性が低いので常に外注がうまく行くほどのボリュームで労働者が出てきていないという事実もあるが、一方で“企業内失業”といって、生産性の低いフリーライダーがいるせいで、生産性も落ちていったわけだ。こうした仕組みが安定をもたらした部分もあるとは思うが、やっぱり日本は失業政策を企業に押し付けてきた歴史もあるし、組合が解雇などに対して異常に強いという問題もある(『ABEMA Prime』より)

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