世界的大富豪のイーロン・マスク氏による買収を拒み買収防衛策を講じていた米Twitter社。しかし25日になり、同氏の提案を受け入れる方針であることが判明した。買収手続きは年内にも完了、その後は上場廃止になる見通しだが、マスク氏はなぜ、日本円で約5兆6000億円にも上る巨費を投じてまでTwitterを欲しているのだろうか。
【映像】Twitterがマスク氏の買収受け入れ"言論の自由"に不安の声も
そのヒントになるのが、「言論の自由は民主主義の基盤だ。新しい機能で改善しTwitterをより良くしていきたい」という言葉だ。Twitter創設者のジャック・ドーシー氏も「Twitterは企業ではなくプロトコルレベルの公共財であるべきで、誰かが所有したり運営したりするべきではない。しかし問題を解決する上では、イーロンは唯一の解決策だと思う」とコメントしている。
一方、“言論の自由”を理由に、トランプ前大統領のアカウント停止措置(BAN)に反対したこともあるマスク氏の登場に、「誹謗中傷が野放しになるのではないか」といった懸念の声は少なくない。
■マスク氏が表示順のアルゴリズムの公開、“認証性”導入も検討へ?
長年シリコンバレーを取材しているITジャーナリストの林信行氏は「イーロン・マスクは先週の『TEDカンファレンス』で、Twitterに対する考えをかなり詳しく語っている。それによれば、Twitterは創業者のジャック・ドーシーが言っているのと同様に“公共財”であり、株も自分が所有したいというよりも、法律が許す範囲で分け合いたいといったことを説明している」と話す。
「Twitterは2009年のイラン大統領選挙で不正を暴く上でツールとして機能したし、日本においても2011年の東日本大震災で大勢の人が情報交換に活用した。この頃から創業者たちも公共的なプラットフォームとしてのTwitterの可能性を強く意識するようになり、言論の自由を担保しながら、健全な議論が行われる場にしようとしてきた。しかし、そこで問題になることがある。まず、全くビジネスにならないということだ。最近では広告も出すようになっているが、なかなか利益が上がらない。イーロン・マスクは、それでもTwitterの影響力に可能性を感じたのだと思う。次に、その影響力ゆえ、スパムやフェイクニュースが広がるといった問題があることだ。
イーロン・マスクもそこに問題意識を持っているが、彼はTEDで2つほど対策を提案している。1つが、恒久的なBANはしない、ということだ。もちろん、攻撃的な発言やフェイクニュースはダメなので、それは排除するようにしたいとしている。2つ目がアルゴリズムの公開だ。かつては時系列で最も新しいツイートが一番上に表示されていたと思うが、今はTwitter側が勝手に並べ替えたものが表示されている。そこで、並び順のアルゴリズムを明らかにしようということだ。
そして経営陣とイーロン・マスクとの間で最も論争になっているのが、認証性、いわば実名制のような方向性にするかどうかだ。たとえば勤務先でLGBTQであることを隠して活動している人が自由に発言できなくなってしまうといったことも考えられるので、Twitter社は去年秋、匿名性を守る必要があると公式ブログで主張してもいる」。
■「強い主義・主張を持った人たちが意見を戦わせる場に」「昔の気軽さはもうない。誤字・脱字がないか何度も見直す」
林氏の話を受け、タレント・ソフトウェアエンジニアの池澤あやかは「私も戦ってきたが、“ネットストーカー”のようなアカウントもある。通報しても機械的な対応しかされないなど、日本向けのローカライズを強化してほしい」とコメント。
また、テレビ朝日の田中萌アナウンサーは「私がTwitterを始めたのは大学に入ってすぐの2011年だったが、当時は皆が“渋谷なう”とか“眠い”“お腹すいた”など、にわざわざ人に言うほどでもない内容をつぶやいて、たまに友達が反応してくれるような気楽な世界だった。それが今は強い主義・主張を持った年上の人たちが長文で意見を戦わせる場のようになっていて、距離を置きたい世界、見るだけの世界になってしまっている」。
約324万人ものフォロワーを抱えるロンドンブーツ1号2号の田村淳は「それこそマスメディアがニュースで“SNSで…”みたいなことを言っているが、Twitterのトレンドをそのまま出しているようなものだ。昔の気軽さはもうないし、投稿するときには誤字・脱字がないか、何度も何度も見直している」と苦笑。「“良いつぶやきには投げ銭をしてくれ”ということでビットコインのアカウントを載せているが、今までに誰も送ってくれていない。そのあたりの仕組みをイーロン・マスクが変えていくのかもしれない」と冗談めかして期待を語った。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「今やTwitterは新聞などと同じ“メディア”になってしまっている。そうなると営利事業としてだけ捉えることが難しくなってくるが、投資家、市場からは四半期ごとに利益を求められるので長期的な展望も描きにくい。それでも経営難に陥ったワシントン・ポストをAmazon創業者のジェフ・ベゾスが公共圏の土台である新聞社を支えるという理念で買収、経営が持ち直したという事例もある。Twitterに関しても、ジャック・ドーシーが“ウォール街から取り戻すのが一番だ”と言っていたり、イーロン・マスクが“公共財として重要だ”と言っていたりするのを見ると、儲かろうが儲かるまいが、これを維持することがビッグ・テックを経営する人間の責務なんだという思いがあるようにも見える」との見方を示す。
「ただし、イーロン・マスクは決して“リベラル”ではない。アメリカがパリ協定から離脱する頃まではトランプ政権に協力的だったし、Twitter社がトランプ大統領のアカウントをBANしたことには批判的だった。一方、バイデン政権がホワイトハウスにビッグ・テックの経営者を集めた時には彼の姿はなかった。おそらく、右であろうが左であろうが、発信する権利を奪うのは何事だ、という思想があるのだと思う。つまり表現の自由とヘイト・誹謗中傷の境目はどこにあるのか、イデオロギーが違うだけでキャンセルされてはいないだろうか、そういう疑問へのアンチテーゼとしてイーロン・マスクがいる。だからこそ、リベラル側の人たちが警戒感を抱いているのではないか」。
脳科学者の茂木健一郎氏も「Twitterは自由なプラットフォームであるべきだという理想は分かるが、だからこそ利用されてしまう部分もあると感じている。実際、アメリカ大統領選挙の時にはFacebookが利用されてしまった。ナイーブな議論だけではダメなんだろうなと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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