ヨーロッパを歴訪中の岸田総理は4日、バチカンでローマ教皇フランシスコと面会。ロシアのウクライナ侵攻を巡り、非道な侵略を終わらせ平和を取り戻す決意で両者は一致した。
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カトリックの最高指導者としてウクライナ市民の苦しみに心を痛め、一貫してロシアの攻撃を"蛮行"と非難してきた教皇フランシスコ。一方、同じキリスト教の宗派で、ロシア国民の実に7割が信仰しているロシア正教のキリル総主教はプーチン大統領とともに復活祭の儀式に出席。「一日も早くこの内紛が終わり、待望の平和が訪れますように」などと、ウクライナ侵攻を“内紛”、親ロシア派が実効支配する東部ドンバス地方の住民に対し“神の祝福を”といった表現を用いて、ロシア政府に寄り添う姿勢も見せている。
4日の『ABEMA Prime』に出演したジャーナリストで浄土宗僧侶の鵜飼秀徳氏は次のように説明する。
「帝政ロシアが終わってソ連邦の時代に入ると、それまで宗教界のトップだったロシア正教は迫害を受けるようになり、信じることは許されても、布教については厳しく制限されていた。ところがソ連邦が崩壊、ゴルバチョフ時代になると宗教の自由も認められ、ロシア正教も盛り上がっていく。人々も宗教を欲していたので、当時ロシアに進出していたオウム真理教も信者を集め、一時は日本国内の信者よりも多かったくらいだ。
このような歴史の流れの上に今のロシアがあるわけだが、プーチン政権は非常に強権的なので、本来の政教分離の建前もかなり崩れてしまい、政治と宗教が互いに利用し合っているような状況にある。しかも今のキリル総主教とプーチン大統領は共に旧レニングラード、現サンクトペテルブルグ出身で、かつ共にKGB出身という説もある。しかもキリル総主教は石油や宝石などのビジネスにも手を出していると言われているので、そうした点でもプーチン政権と蜜月状態でいることにメリットがないとは言えない」。
ただ、こうしたことは宗教の歴史上、しばしば見られる現象でもあるという。
「宗教というのは時の政権に追従しなければ拡大もできない。中世においては十字軍、日本においても、神道的な考えの中に仏教が入り、さらに明治時代になると仏教が否定されて神道に変わっていく。背景には欧米を視察して、強いキリスト教が強い国家を作っている様子を見た岩倉使節団の存在がある。
そして神道は国家神道として、宗教と切り離され、仏教も生き残りを賭けて国家に追従し、富国強兵を後押ししていく。やがて太平洋戦争の時代になると、植民地の最前線に仏教や神道が進出し、寺社を作っていった。それが国際社会に対し、“主権が及んでいる”という既成事実を作ることにもなる。
また、北方領土においては、例えば明治以降、日本が作っていった寺社を壊し、非常に立派なロシア正教会の施設が作られていった。近年でもメドベージェフ前大統領が古いものについては“建て直せ”と命じるなど、領土拡大と宗教は非常に密接だ。このようにして、政治と宗教は生き残りをかけて互いに利用し合うということだ」。
昨今のロシア正教会の姿勢もまた、このような流れに飲み込まれてしまっているのだという。
「ロシアでは無神論者が多くなってきているので、国内は飽和状態だ。正教会としても新天地を求めていかなければならないし、そこにウクライナがあるということだろう。寺院を作り、勢力を拡大をしていくという、政治的な判断だ。ところが正教会といっても国ごとに姿勢は異なっていて、日本も含め、他国の正教会はウクライナ侵攻に反対の声明を出している。また、ロシアにもカトリックはあるが、勢力で言えば1%もない。だからなかなか大きな世論にはなっていかないという面がある。
日本も先の戦争では宗教がまさに全体主義の中に取り込まれ、 仏教界も疑うどころか、ゼロ戦などを軍に献納するなどしている。殺生を禁じる宗教がそこまでやってしまうということなので、抜け出すのが難しいということでもあると思う。やはり“政(まつりごと)”という言葉そのものが、“祭り”から生まれてきた言葉であることに似ているとも思う。それでも戦争にならないために政治、外交があるわけだし、宗教があるわけだ。本分を忘れて覇権争いになると、政治と宗教が一蓮托生になってしまう、この構図を歴史から学ぶということしかないのではないか」。(『ABEMA Prime』より)
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