お株を奪う振り飛車攻勢で、予選突破だ。将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Bリーグ第2試合、チーム糸谷とチーム菅井の対戦が5月14日に放送され、チーム糸谷がスコア5-3で勝利、本戦出場を決めた。振り飛車党3人が揃うチーム菅井に対し、チーム糸谷も黒沢怜生六段(30)、西田拓也五段(30)といった振り飛車党2人が躍動。まさに「振り飛車をもって振り飛車を制す」戦いぶりで、ファンを魅了した。
この試合に限って言えば、チーム糸谷の方が「振り飛車」特化型チームに見えるほど。そんな戦いぶりだった。第1局を任された西田五段は、チーム菅井・佐藤和俊七段(43)を相手に、先手番から「初手から振りましょうか」と駆け引きなしの振り飛車宣言。佐藤七段も初志貫徹で、相振り飛車となった。この一局こそ佐藤七段の落ち着き払った指し回しに敗れはしたものの、第5局では「捌きのアーティスト」の異名を持つ久保利明九段(46)に対して、堂々と三間飛車を選択。久保九段が相振り飛車を避け居飛車穴熊と手堅い戦型を選んだが、早めな仕掛けとガチガチに囲った自陣の堅さを活かして快勝を収めた。これで勢いづいたか、勝利に王手をかけた第8局にも登場すると、相手のリーダー菅井竜也八段(30)とは角交換から三度、振り飛車に。相手の変化球にも動じずうまく対応すると、一気に差を広げて勝ち切った。「自分は攻め将棋なので、踏み込みを大事にしました。正直、これほど勝てるとは思わなかったです」と謙遜するが、予選では4勝2敗の大活躍。大会初出場というハンデも“振り飛車一直線”の姿勢で跳ね返した。
試合の流れを作ったのは黒沢六段だ。この試合、初登場は第2局。百戦錬磨の久保九段と、飛車を振るのか振らないのかという、序盤から駆け引きが入った。「私が振り飛車なのに、捌かれているような気がした」と、相手の術中にはまっているような感覚もある中、中盤から終盤に向かうに連れて、壮絶な攻め合いに突入。終盤で頭一つ抜け出すと、そのまま振り切るように勝ちを収めた。黒沢六段は1局挟んで第4局にも登場すると、今度は佐藤七段と対戦。またも相手が居飛車、黒沢六段が向かい飛車の対抗形で始まると、第2局と同じような流れになったこともあってか「その時の経験が活きた」と、のびのびと指し78手で快勝した。第6局こそ菅井八段に意地を見せられたが、この試合2勝1敗の好成績で、西田五段と同じく予選は4勝2敗。「本当にたまたまですが、満足しています」と顔もほころんだ。
チームリーダー糸谷哲郎八段(33)からすれば、ドラフト戦術が完全に成功したことになる。ドラフト会議の前には、いろいろな戦い方ができるチームを目指すと、自身が居飛車党のところを、あえて振り飛車党の2人を指名し、混成チームを作り上げた。自らの対局結果こそ1勝1敗だったが、この超早指しルールにおいて有効とされる振り飛車を、振り飛車党にぶつけることで、相手の長所を奪うことにもつながった。「リーダーはあんまり勝っていないですが、他の2人が活躍してくれた。本戦でも心強いです」と満足げだった。
独特で分厚い将棋の糸谷八段に、振り飛車党の黒田六段と西田五段。優勝候補に挙げられていたチーム斎藤に続き、チーム菅井まで退けた。このチーム、下馬評以上の力を秘めていた。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)